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排ガスなどに含まれる窒素化合物の除去・回収技術の現在地を知る有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(5)(1/2 ページ)

カーボンニュートラル、マイクロプラスチックに続く環境課題として注目を集めつつある窒素廃棄物排出の管理(窒素管理)、その解決を目指す窒素循環技術の開発について紹介します。今回から、現在利用されている窒素廃棄物の処理技術をご紹介します。まずは排ガス用技術です。

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今回の内容とご紹介する目的

 前回は国内における大気への窒素排出物の現状をご紹介しました。国内の窒素排出物は、アンモニア(NH3)、一酸化二窒素(N2O)、窒素酸化物(NOx)で、排出源は、NH3は農業関係、N2Oは農業主体ですが工業も無視できないこと、NOxは発電所などの固定発生源と船舶/自動車の移動体から排出されることが多いことを紹介しました。

 これらの窒素廃棄物の環境中への放出量を増やさないため、国内では既にさまざまな対策が取られています。今回はそれらで既に利用されている技術について紹介します。既に利用されている技術を学ぶことは特徴に加えて、これと比べて開発中の新技術はどういった点が高性能化されているかを理解できるため重要です。

アンモニア排出抑制技術

 前述の通り、NH3の大気中への排出量が多いのは農業分野です。特に農業分野の畜産ではNH3が放出される場所が特定しやすい他、悪臭などの問題にもつながっていることから、さまざまな排出抑制技術が開発、利用されています。また、総排出量は多くないものの、工業用排ガスで生じるNH3向けのさまざまな排出抑制技術もあります。NH3排出抑制技術としては、NH3を無害な窒素ガス(N2)に変換する「除害方式」と、NH3として回収し再利用する「回収方式」に大別されます。

 畜産分野では、特に悪臭を除去する目的でさまざまな除害方式の方法が開発、利用されています。畜産環境整備機構が発行する畜産悪臭対策マニュアルには多様な除害方式の手法が紹介されています[1]。除害方式の代表的なものとしては生物処理が挙げられます。生物処理の土壌脱臭法では、土の中に層状に石や砂、土を敷き詰め、そこに下から排ガスを送り込みます。そして、排ガスがその層に継続的に供給されるので、排ガスに含まれるNH3を餌(エサ)とする菌がどんどん育って、NH3を分解する性能が上がっていきます(図1)。


図1 土壌脱臭装置の概要[1][クリックで拡大]

 土壌脱臭法はさまざまな場所で利用されていますが、「大きな面積が必要」「ガスを送り込むためのブロアの電気代も結構高い」「菌の状態が変わり除去性能が落ちてしまうと元に戻すのが難しい」などの課題があります。土壌ではなく、軽石やロックウール、おがくずなどを利用した脱臭法もありますが、基本的な仕組みは同じです。

 回収方式では、水や硫酸などの酸とNH3を接触させてNH3を回収する方式があります。この方式には化学工場などで利用される排ガス処理装置「スクラバ」と同様の装置が利用されます。この装置で水を利用した場合はアンモニア水が、酸を利用した場合は硫安(硫酸アンモニウム)などのアンモニウム塩水溶液が得られます。

 しかしながら、この装置で水を使用する場合は得られるアンモニア水が再揮散するためNH3を低濃度まで下げることが難しい他、多量の水が必要などの課題があります。酸を利用した場合はこのような課題を解消できますが、生じるアンモニウム塩水溶液の利用法を考える必要があります。畜産分野ではこのような水溶液の用途を発見することが難しいことから、それを処理するために畜産悪臭対策マニュアルには排水処理が必要とされています。

 一方、工業分野ではNH3を無害化するために触媒分解が利用されています。触媒分解はNH3をほぼ100%無害化できるとともに、NOxやN2Oなどの副生成物の発生も10%以下に抑えられるとのことです[2]。また、燃焼方式も畜産に比べてよく利用されているようです。例えば、活性炭に吸着させたNH3を加熱し脱離させた後、燃焼させてN2に無害化する装置などが販売されています[3]。

 工業分野で利用されている回収方式では畜産分野と同様にスクラバなどで水や酸と接触させる方式があります。ただ、工業用途の場合、畜産と比較して大量のアンモニウム塩水溶液が得られることから、それを蒸発乾固して固体にして販売する場合もあります。その場合、資源が得られるという大きなメリットがある一方、蒸発乾固に費用がかかるという課題があります。

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