PM2.5や悪臭の原因にも、大気に排出される窒素廃棄物の現状:有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(4)(1/2 ページ)
カーボンニュートラル、マイクロプラスチックに続く環境課題として注目を集めつつある窒素廃棄物排出の管理(窒素管理)、その解決を目指す窒素循環技術の開発について紹介します。今回は、大気への排出についての国内の現状とその課題について説明します。
国内における大気への窒素排出の現状
前回は日本国内で、アンモニウム(NH4+)やタンパク質などの有機窒素が水中に放出されるケースの実情と課題について紹介しました。今回は大気中に放出されるケースについてご紹介します。その全体像を把握するのには、前回もご紹介した、農研機構をはじめとするグループの報告書が非常に役立ちます【1】。
図1(a)に日本国内における環境への窒素廃棄物の物質/排出先別排出量を示します。図1(a)によれば、大気に排出される主な窒素廃棄物は、アンモニア(NH3)、一酸化二窒素(N2O)、窒素酸化物(NOx)であることが分かります。そのうち、最も多いのがNOxで、次にNH3、最後に少量のN2Oとなっています。ただし、N2Oは窒素としての数量は少ないのですが、温室効果ガスとしての効果が二酸化炭素(CO2)の約300倍と非常に高いことで注目を集めています。そのため、本稿ではN2Oを含めたこれらの3つの物質についてご紹介していきます。
では、これらの物質はどこから放出されているのでしょうか? NOxとNH3については、2015年度と少々古いのですが、環境省の資料にその内訳を見ることができます【2】。図1(b)にその資料に記載された発生源別の比率を示します。その資料によれば、NOxの発生源は、固定発生源、自動車、機械(建設機械、産業機械、農業機械など)、船舶となっています。固定発生源とは、自動車や船舶といった移動するものではなく、工場や発電所などの中に設置されている動かない装置類などを指します。
環境再生保全機構のページでは、その内訳が記載されており、ボイラー45%、窯業製品製造用焼成炉など13%、ディーゼル機関10%の順に上位を占め、原料を燃やして熱やエネルギーを得る装置が並んでいます【3】。これに加えて、移動するタイプの排出源は自動車、船舶などとなりますので、NOxは何かを燃やす際に発生するものがほとんど、と考えてよいでしょう。なお、船舶についてのNOxの数値は日本領海以外からの排出量も含まれていることに注意が必要です。
一方、NH3の発生源は、家畜、肥料施肥がその大半を占め、農業が主な排出源となっています。家畜、というのは畜産農業で育てられる家畜の糞尿(ふんにょう)由来と考えてよいでしょう。家畜糞尿は多くの場合、適切に処理されていますが、日本の場合、大気に放出されるNH3については悪臭防止法程度しか法律で制限されていないこともあり、周辺住民からの悪臭の苦情がなければ対策がなかなかとられないというのが実情のようです。
例えば、糞尿処理を行う装置として、縦型堆肥化装置、通称コンポストと呼ばれるというものがあります。コンポストといえば、家庭で生ごみを入れておくと堆肥になるバケツのようなものをイメージされる方が多いと思います。その大きい版と考えていただくのがよいでしょう。図2に示した通り、かなり大きなものに糞などを入れ、空気を送り込みながら攪拌する、といった機械です。糞が堆肥になって、再利用できるようになりますから素晴らしい装置といえるのですが、窒素分のうち2〜3割はアンモニアになって排ガスとして放出されるという報告もあります【4】。
また、堆肥化には、堆肥舎を使用するケースもあります。この場合、屋根をかけた場所に糞尿を置いて、時々重機で切り返す、という進め方です(図2右)。こういったケースでもアンモニアは揮散していくと考えられます。
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