排水中の窒素化合物を除去/回収する技術の現在地:有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(6)(1/2 ページ)
カーボンニュートラル、マイクロプラスチックに続く環境課題として注目を集めつつある窒素廃棄物排出の管理(窒素管理)、その解決を目指す窒素循環技術の開発について紹介します。前回から、現在利用されている窒素廃棄物の処理技術を紹介しています。今回は廃水処理用技術を説明します。
有機窒素化合物含有廃水の処理
この連載の第3回で紹介した、環境省の水質汚濁物質排出量総合調査によれば、窒素化合物を含む液体を排水している事業場は国内で1万4000カ所を超えます[1]。こういった排水が最も多いのはし尿処理施設と下水道終末処理施設です。これらの施設で排水される液体に含まれるのは糞尿で、尿素や他の有機物と結合した窒素(有機窒素化合物)が多いです。また、旅館業、畜産食料品製造業、飲食店などで排水される、食料品が含まれた液体ではタンパク質などの有機窒素化合物が主体になると考えられます。
このような場合に最もよく活用されるのが生物処理で、特に一般的なのは活性汚泥法という方法です。活性汚泥法とは、生物が有機物を分解する力を活用し、有機分を分解して、CO2や窒素などの無害な物質に変換する技術を指します。最近はCO2も削減の必要がありますがそれはさておき。活性汚泥法の窒素除去については硝化/脱窒という2つの反応を利用します(図1)。
硝化/脱窒では、まず、汚水中に空気を送り込む「ばっ気※1」という方法により、水中の溶存酸素が多い条件を作ります。これにより、アンモニアや有機物中の窒素は硝酸/亜硝酸に変換されます。硝酸/亜硝酸は環境中に出すと有害ですので、さらに酸素がない条件の中で別の脱窒細菌により窒素ガスに変換し、最終的に無害化します。これにより、汚水中の窒素分は無害な窒素ガスに変換され、放流可能な処理水となるのです。
※1 ばっ気:液体と空気を接触させて、液体に空気中の成分(酸素等)を吹き込むことを指し、汚水中の有機物を浄化する際に利用されます。
活性汚泥法は、有機系の汚水処理に広く用いられており、とても有効な方法ですが、課題もいくつかあります。例えば、生物処理の一般論として「設備が大きくなりがち」「変動への対応が限定的」などの課題がよく挙げられます。生物処理の場合、どうしても細菌の生命活動に依存してしまうため、処理速度を上げるということが難しいケースがあります。
さらに、私たちの食事と同様に、細菌が処理できる量を状況に合わせて大幅に変えることは難しく処理量の変動に対応できないケースがあります。「ばっ気に必要な電気代が結構高い」という点も問題となっています。一例を挙げると、下水処理の場合、ばっ気処理だけで下水処理全体の電力使用量の3〜6割を費やしているとのことです[3]。
汚水中に炭素と窒素が含まれる比率である炭素(C)/窒素(N)比が極端だと生物がうまく分解してくれない、というケースもあります。平均的な炭素:窒素:リンの比率は100:17:5などといわれており、これに近い方が処理がうまくいくとのことです[4]。
一方、窒素分が多い液体の排水では、炭素分が足りずそのままでは活性汚泥処理できない場合もあります。このような場合ではメタノールなどの有機物を炭素分として添加するため、コスト増大の一因になっています。
また、活性汚泥法では、全ての有機窒素化合物やアンモニアを分解することはできず、そのまま放流されたり、汚泥として残るものがあり、その処理が必要となります(本連載第3回参照)。その汚泥の処理でも窒素への対応は1つの課題です。
例えば、汚泥を、嫌気つまり空気を入れずに生物処理するメタン発酵では、炭素分はメタン/二酸化炭素などに分解され、気体になりますが窒素分はアンモニウム(NH4+)になって液中に残ります。これは消化液とも呼ばれますが、下水処理場では一般的に返流水として、下水処理場の上流に戻され処理されます。これはこれで、電力量が増える一因になっていますが、より深刻なのは、水処理に戻せないケースです。
一例を挙げると、畜産では消化液はCN比が低く、生物処理がそのままでは難しいケースや、水処理場の余力がなく処理ができない、というケースがあり、結局メタン発酵の導入が進みづらい状況のようです。また、そもそも窒素分が多いとメタン発酵を阻害する、という課題もあります。
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