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プラスチックの問題とバイオプラの基礎引き伸ばすほど強度が増す新たなバイオプラ(1)(2/2 ページ)

本連載ではバイオマス由来の2種のプラスチックを組み合わせ開発した、引き伸ばすほど強度が増す透明なフィルム素材を紹介します。今回は、プラスチックの問題や解決策として期待されるバイオプラスチックの基礎について説明します。

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プラ問題に対応するための戦略とは?

 プラスチック問題に対応すべく世界中で政策が定められている中で、わが国においては「プラスチック資源循環戦略」が2019年に策定されています。その骨子となるものが「3R(Reduce、Reuse、Recycle)+Renewable」です。レジ袋の有料化や、紙ストローの導入などが、ワンウェイプラスチック使用量の低減(Reduce)に対する取り組みです。

 そもそもプラスチックを使わないというこの取り組みは、一般生活におけるプラスチックごみ削減には、直接的かつ効果的といえます。再利用(Reuse)、リサイクル(Recycle)は、プラスチックの利便性を享受しつつ、ごみを出さないために非常に重要な活動であり、2035年までに100%の使用済みプラスチックの再活用が目標に掲げられています。

 これらが達成されれば、実質プラスチック排出量はゼロとなるはずです。しかし、意図しない漏出や、漁業や農業、医療用品など回収が困難な用途も存在するため、それには限界があります。それを補完するものとして、近年、バイオプラスチックに大きな注目が集まっています。


ワンウェイプラスチック経済および資源循環型プラスチック経済の概念図[クリックで拡大]

 バイオプラスチックとは、バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの総称です。実際両者は異なる概念ですが、バイオマスプラスチックでありながら生分解性プラスチックでもある、という両立した性質を持つ材料も知られています。すなわち、バイオマスプラスチックとは、プラスチックの由来に関わるものであり、植物などの生物由来原料を使用するプラスチックのことを指します。

 この再生可能(Renewable)な資源を利用することによって、化石資源不足問題に対応できます。また、バイオマスは、もともと大気中の二酸化炭素を固定化した天然物であるため、焼却しても地上の二酸化炭素量は増加しない、いわゆるカーボンニュートラルな素材です。

 先の戦略においては、2030年までに200万tのバイオマスプラスチックの導入を目標に定めています。この量は、現在のわが国のプラスチック生産量である年間およそ1000万tの20%に相当します。これに対して、現状における年間生産量は5万t程度であり、1%にも満たないのが実情です。

 他方、生分解性プラスチックは、天然に存在する微生物などの働きにより、最終的に水や二酸化炭素まで分解されるプラスチックを指します。たとえ自然環境に漏れ出したとしても、長期間残存することがないため、環境への負荷を低減できると期待されます。

 生分解性プラスチックの2021年現在における生産規模は世界で100万t程度であり、こちらも普及率は極めて低いのが現状です。今後、これらの市場は拡大していくと予測されていますが、これをさらに加速するために、従来のプラスチックを置き換え得るバイオプラスチック素材を、いかに開発するかが問われているといえます。(次回へ続く


European-Bioplasticsのデータを引用し筆者が作図した、世界におけるバイオプラスチックの生産量実績(2021〜2022)と予測値(2023〜)(単位:1000t)。[クリックで拡大]

筆者代表紹介

産業技術総合研究所 官能基変換チーム 主任研究員 田中慎二(たなか しんじ)

博士(理学)。2021年まで名古屋大学にて助教として勤務。2021年より現職。専門は、有機合成化学。特に、触媒を用いた物質変換技術、キラル物質合成技術の開発を中心に行っている。近年は、バイオプラスチックの開発も推進している。2017年有機合成化学奨励賞。


参考文献:

[1]環境省 平成12年版 環境白書
[2]環境省 「プラスチック資源循環戦略について」
[3]Plastics Smart 「プラスチックを取り巻く国内外の状況 参考資料集」
[4]OECD ニュースルーム「廃棄物の管理とリサイクルが不十分で、プラスチック汚染の拡大が止まらない」 [5]OECD "Global Plastics Outlook:Plastic waste by end-of-life fate and region-projections(2023)"、OECD Environment Statistics(database)、European Bioplastic Conference 2022


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