産総研がPEEKのモノマー単位への分解に成功、回収モノマーは高分子の合成に使用可能:リサイクルニュース
産業技術総合研究所は、高機能熱可塑性ポリマーのポリエーテルエーテルケトンを選択的に切断し、モノマー単位へ分解する解重合法を開発した。プラスチックの熱分解温度を下回る150℃で行え、19時間以内に解重合中間体を生成できた。
産業技術総合研究所(産総研)は2023年1月24日、スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)として知られる高機能熱可塑性ポリマーのポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を選択的に切断し、モノマー単位へ分解する解重合法を開発したと発表した。
今回の研究では、硫黄官能基を有する硫黄求核剤に着目し、硫黄求核剤に高沸点溶媒のN、N-ジメチルアセトアミドを組み合わせ、そこへ粉末状のPEEKを加えて、通常のプラスチックの熱分解温度を大きく下回る150℃でかき混ぜた。その後、PEEKは反応開始から3時間後には完全分解し、19時間以内に解重合中間体であるベンゾフェノンジチオラートとベンゼンビスオラートを生成できた。
ここにヨウ化メチルを添加したところ、ベンゾフェノンジチオラートのみが反応し、重合可能モノマーの前駆体であるジチオベンゾフェノンを93%、PEEKのモノマーの1つであるヒドロキノンを95%という高収率で得られた。回収したモノマーは、さまざまな高分子の合成に利用できる。
同技術は、粉末状だけでなく、ペレット状やフィルム状のPEEKにも適用可能だ。ヨウ化メチルの替わりに、2-ブロモエタノールと塩化メタクリロイルを追加した場合でも、高屈折率樹脂の原料として使える機能化ジチオベンゾフェノンが得られた。
また、純粋なPEEK素材にPP(ポリプロピレン)やポリアミドなどの樹脂を共存させた場合や炭素繊維とガラス繊維で強化したPEEK材料を用いた解重合でも、同様の生成物が得られることが確かめられた。
同技術により、PEEKのモノマー単位への分解が可能になったことで、他の化学物質に転換して再利用するケミカルリサイクルが期待される。今後、産総研では、PEEK以外のスーパーエンプラやスーパーエンプラ以外の安定プラスチックの解重合に取り組むとしている。
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