人工血管とステントグラフトを融合、胸部大動脈疾患の治療をより低侵襲に:医療機器ニュース(2/2 ページ)
テルモは、胸部大動脈疾患の治療で使用する、人工血管とステントグラフトを組み合わせたハイブリッド型の製品であるフローズンエレファントトランク「Thoraflex Hybrid」の国内販売を開始する。
ステントグラフトの治療で起こるまひの確率も低減
これらの構造に加えて、手術時の取り扱いが容易なシンプルなデリバリーシステムも大きな特徴となっている。デリバリーシステムのシャフトを患者の血管に合わせて曲げてから下行大動脈へ挿入し、側方にあるストラップを引いてステントグラフト部を展開してから、スプリッターの糸をメスなどで切り離してカラーと分枝をリリースする。最後に、端部のリリースクリップを引き抜いて先端のステントグラフトを展開し、ハンドルを抜き去ることで作業が完了する。一連の作業時間は15分ほどだ。
一般的に胸部大動脈疾患の外科手術は4〜5時間かかるが、Thoraflex Hybridによってかなりの短縮を見込める。人工血管とステントグラフトを一体にしたFETであること、人工血管部分が4本の分枝を備えることなども手術時間の短縮に貢献する。下行大動脈の治療にステントグラフトを用いるので、脇腹を開く形での開腹を行わずに済み、侵襲を抑えられることもメリットだ。
Thoraflex Hybridは、2012年12月に欧州のCEマークを取得してから治療に用いられており、その後2022年8月にFDA(米国食品医薬品局)の承認を得て米国での販売を開始しており、日本での承認を得たのは2023年5月となっている。「FDAの承認を得るには米国内での治験データの収集を積み重ねる必要があり時間がかかった。日本ではFDA向けの治験データを活用できたこともあり、早期に承認が得られた」(テルモ)という。なお、これまでに50カ国で累計1万3000本の販売実績がある。
なお、ステントグラフトを用いた血管内治療では約5%の確立で対まひや不全対まひが起こることが報告されている。その原因は、下行大動脈につながる脊髄への血管をふさぐためとされている。Thoraflex Hybridは、ステントグラフトの長さが100mmと短めの品種を用意することで、対まひと不全対まひの発生率を術後30日で1.1%、術後1年で1.7%に抑えている。なお、Thoraflex Hybridの品種数は、ステントグラフトの長さなどを含めて20品種を用意している。
国内では、胸部の手術症例が年間で約2万2000ある中でFETが4000を占めており、これは世界で最大だという。2014年からテルモの競合企業がFETを販売してきた実績が積み上がった結果だが、テルモとしては世界初となる4分枝付きであることや、生体血管との吻合が容易なカラーなどの特徴を生かして、国内市場の半分を目標に浸透を広げたい考えだ。
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