レゾナックが展開するSiCエピウエハー事業の強みやトップシェアの要因とは:材料技術
昨今の半導体需要増加に対してレゾナックのSiCエピウエハー事業が行っている取り組みを紹介する。
近年、半導体の需要増加に伴い、半導体材料の市場が成長している。特に、SiC(シリコンカーバイド)ウエハーは、省エネ型パワー半導体の需要拡大により、2026年には2021年比で195%増の1621憶円の市場規模になるとの予測がされるなど、急成長が見込まれている。
こういった状況を踏まえて、レゾナックは、半導体/電子材料をコア成長事業に設定し集中的な投資を行い、2030年には同社の売上高で約45%(2022年比14ポイント増)を占める事業にするという。同社が2023年4月27日に東京都内で開いた記者説明会から、SiCエピウエハー事業の取り組みを紹介する。
5年以内にSiCエピウエハーの売上高を5倍に
同社は「バルク結晶成長」「基板加工」「エピ結晶成長」を行い、SiCウエハーとSiCエピウエハーの製造をカバーしている。バルク結晶成長では、専用の装置を用いて昇華法により2000℃以下の高温でSiC粉末原料を昇華し、SiCウエハーを切り出す前の単結晶材料であるSiC単結晶ブールを生成する。基板加工ではSiC単結晶ブールをスライスし、研削して、モース硬度が「9」のSiCウエハーを作る。
エピ結晶成長では専用の装置により1600℃以下の高温でSiCウエハー上でエピタキシャル層を成長させる。エピタキシャル層は、ケイ素と炭素から成るSiCウエハーの課題(きれいな結晶の生成が困難など)を克服する他、SiCデバイスの機能形成で役立つ。
エピタキシャル層を用いたSiCウエハーの低欠陥化技術を強みに、同社はSiCエピウエハーの外販メーカーとしての世界トップシェアを獲得しているという。トップシェアを獲得した要因として「SiCウエハーとSiCエピウエハーの製造をカバーしたビジネスモデル」や「技術的優位性を支えるDX/生産管理」を挙げている。
ビジネスモデルでは、米国のWolfspeedやCoherentのようにSiCウエハーとSiCエピウエハーだけでなくSiCデバイスの製造まで行わず、SiCウエハーとSiCエピウエハーの製造にのみ注力している。これによって、顧客であるSiCデバイスメーカーと競合することなく、さまざまなSiCデバイスの設計に適したエピタキシャル層のデザインを実現できている。
レゾナック デバイスソリューション事業部 SiC CTOの金澤博氏は、「顧客が求めるエピタキシャル層のデザインに応じられるのは、当社が顧客と技術のすり合わせを行い、共創して価値を創造できる力を有しているからだ」と強調する。
DX/生産管理では、高温環境の製造プロセスや結晶欠陥が生じやすいといった「SiCエピウエハー製造の難しさ」を解消するために、昇華法で使用する専用装置内の熱と空気の流れを計算科学によりシミュレーションするだけでなく、デジタル空間上で専用装置の炉内をコントロールできるようにしている。
加えて、長年のR&Dによる試行錯誤で培った生産技術/工程のノウハウを蓄積し、保有する知的財産でも優位性を持つ。
今後、SiCエピウエハー事業では、5年以内に2022年比で売上高を5倍にすることを目指す。この売上高を達成するために、R&Dでエピウエハーの品質優位性を担保しSiCデバイスの安定生産に貢献する。
加えて、積極的な設備投資により、需要に応える製造能力を確保するとともに、顧客との共創で技術改善や品質向上を図り、顧客との長期契約締結に基づくサプライチェーン構築で安定供給を行う。
SiCウエハーの量産化や大口径化の取り組み
なお、同社は、SiCエピウエハーの品質向上と安定供給を目的にSiCウェハーの量産を2022年3月に開始し、同年9月には国内初の取り組みとして国内生産の8インチウエハーを活用したSiCエピウエハーのサンプル提供をスタートした。
また、ウエハー大口径化への取り組みとして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業「次世代グリーンパワー半導体に用いるSiCウエハー技術開発」で8インチウエハーの開発を行っている。同事業では目標として、6インチSiCウエハーの生産における欠陥密度から1桁以上削減することを掲げている。ウエハー大口径化のメリットにはエピウエハー1枚当たりのチップ数増加がある。
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