SiCウエハー生産の“無駄”を燃焼する新企業、8インチの製造法を2025年に実用化:FAニュース(1/2 ページ)
関西学院大学と豊田通商は、共同出資で、SiCウエハー向け技術の研究開発を行う「QureDA Research(キュレダリサーチ)株式会社」を設立した。
関西学院大学と豊田通商は2023年3月22日、東京都内で記者会見を開き、共同出資で、SiC(炭化ケイ素)パワー半導体材料であるSiCウエハー向け技術の研究開発を行う「QureDA Research(キュレダリサーチ)株式会社」を同月16日に設立したと発表した。
主な取り組みは「Dynamic AGE-ing」の事業化
QureDA Researchでは、主な取り組みとして、関西学院大学と豊田通商が開発したSiCウエハーの表面ナノ制御プロセス技術「Dynamic AGE-ing(ダイナミックエージング)」を事業化する。事業化では、開発プラットフォームを組成して共創パートナーを募りつつ、ウエハーメーカーやエピメーカー、デバイスメーカーを対象に、Dynamic AGE-ingと関連技術のライセンス供与や導入のサポートを行い、受託は行わない予定だ。
同社 代表取締役社長の瀬川恭平氏は、「Dynamic AGE-ingをはじめとする当社技術のビジネスモデルは、ユーザーが、使用したい技術の開発で生じる費用の一部を負担した上で、ロイヤリティーを当社に支払うと、当該技術を利用できるという枠組みを想定している」と話す。
Dynamic AGE-ingとは?
Dynamic AGE-ingは、1600〜2000℃の温度で使用する専用反応容器(反応性と毒性のガスを使用しない気相環境)にSiCウエハーの基板を配置し、焼きなまし(組織の均質化などを目的とした熱処理)によりSiCウエハーの表面を平たん化し、ワイヤもしくはレーザーを活用したスライス加工を効率化できる。
同社 代表取締役 CTOの金子忠昭氏は、「専用反応容器では、SiCウエハーに結晶成長(単結晶の支持結晶基板や種結晶をベースにその結晶を増大させること)を促し、成長界面で基底面転位(SiC単結晶の基底面に存在する転位)を貫通刃状転位に変換することで、SiC基板と同じ電気的特性とし、無害化可能だ。これにより、昇華法によるSiCウェハーのバルク結晶成長で生じる結晶欠陥(基底面転位など)を減らし、品質のバラツキを防げる」とコメントした。
専用反応容器の熱エッチングにより、SiCウエハーのスライスやラッピング/研削で発生する残留加工ひずみも取りのぞけるため、化学機械研磨(CMP)の工程を省ける。
こういった非接触式の熱プロセスは、SiCウエハーを高品質に仕上げ、エピウエハーの欠陥や搭載されるデバイスの不良を減らせるという。既に、関西学院大学と豊田通商は、SiCウエハーの製造工程にDynamic AGE-ingを組み込んだ「DA プラットフォーム」を構築し、数十社の企業から試用のオファーを受け、製品実証を行っている。
今後、QureDA Researchでは、DA プラットフォームを発展させ、国内外の企業と共同で、8インチのSiCウエハーの製造法を2025年に実用化することを目指す。また、Dynamic AGE-ingの効果を可視化するために、SiCウエハーの加工工程で生じる結晶表面のゆがみを可視化する計測技術も展開していく。
同社は、DA プラットフォームを用いて、8インチを含む多様なSiCウエハーの生産を検証できる1台の量産試作炉を2022年に導入しており、量産試作炉で毎月1000枚のSiCウエハー製造を目標に掲げている。2023年中に2台目の量産試作炉を導入し、開発プラットフォームの検証を加速する見通しだ。
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