積水化学型MIは超やる気人財が主導、配合設計の検討速度900倍など成果も高速で創出:マテリアルズインフォマティクス最前線(1)(4/4 ページ)
本連載では素材メーカーが注力するマテリアルズインフォマティクスや最新の取り組みを採り上げる。第1回では積水化学工業の取り組みを紹介する
素材開発実験の自動化を構想
MONOist 情報科学推進センターの体制とKPIで成果を迅速に創出しやすい環境を構築したんですね。今後の展開について聞かせてください。
日下氏 今後は素材開発自体の変革を進めるとともに、素材のみならず広い分野へのデジタル活用を促進する他、外部連携で得られた成果の活用を推進していく。素材開発自体の変革では実験の自動化推進チームの立ち上げを進めている。
自動化推進チームではMIを活用し素材開発で必要な実験を自動化する設備を構築する見込みだ。この設備ではロボットなどの機械で材料を運搬し所定のエリアで組み合わせなどの実験を行い、必要な結果が得られなかった場合にはAI(人工知能)により異なるプロセスあるいは材料で実験を自動で実施する設備を構想している。現在は要素技術を集めている段階だ。
広い分野へのデジタル活用促進では、MIにより全社のさらなる活用を推進したい。例えば、住宅カンパニーのセキスイハイムでは、工場で住宅部材製造のオートメーションが進んでおり、建設地では組み立てるだけで竣工可能な「ユニット工法」が有名だが、そのような自動化の知見を組み合わせることで、より効率の良い開発ができることを期待している。
MONOist 素材開発ではMIを用いた自動化実験も構想しているんですね。最後にMIを導入しなかったら今後どうなっていたと思いますか。
日下氏 恐らくだが、なぜか分からないけど、競合企業に素材開発の力で負けてしまい、当社製品のシェアが奪われ、利益が減るという状態になっていたと思う。なぜか分からないというのは競合がMIなどのデジタル技術を使っているかどうか判断が難しいからだ。
新明氏 既にそういう脅威が顕在化している。国内外を問わず多くの企業がMIやAIをはじめとするデジタル技術を積極的に採用し、素材開発を実施している。驚くべきことに素材メーカー以外のIT企業などがデジタル技術を活用し素材産業に参入しつつある。素材開発のスピードで負けてしまうという危機感が現在進行形で存在する。
日下氏 こういった危機感を持って、情報科学推進センターでは、若手とベテランのメンバーが力を合わせて、素材開発を中心に、高機能プラスチックスカンパニー、環境・ライフラインカンパニー、住宅カンパニー、コーポレートの事業にMIで貢献していく。
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