ムール貝から着想、フッ素樹脂にも強固に接着できる粘着テープの開発に成功:材料技術
積水化学工業の高機能プラスチックスカンパニーは、バイオミメティクスを活用した独自の接着化合物の設計と合成に成功し、フッ素樹脂に接着可能な粘着テープを開発。ムール貝の特殊な分泌物が幅広い材料に接着するという現象から着想を得て開発を進めてきた。
積水化学工業の高機能プラスチックスカンパニーは2022年5月31日、バイオミメティクス(生物模倣)を活用した独自の接着化合物の設計と合成に成功し、フッ素樹脂に接着可能な粘着テープを開発したことを発表した。
同社は、ムール貝の分泌物であるポリフェノール成分を分子構造中に組み込んだ独自の化合物が、フッ素に粘着可能であることを見いだし、この技術を粘着剤に応用してテープ化した。フッ素樹脂に限らず、ポリオレフィン樹脂などの難接着材料にも幅広く接着できる特性を生かし、さまざまな用途での展開を見込む。
フッ素樹脂に対してアクリル系粘着テープよりも約10倍の粘着力
近年、さまざまな分野においてフッ素樹脂の利用が拡大している。例えば、高周波帯域を利用した5G/6Gなどの通信分野では、低伝送損失材料としてフッ素樹脂やフッ素変性ポリイミド樹脂などを用いた基板材料開発が積極的に行われている。しかし、これらフッ素系材料は表面エネルギーが低く、水も油もはじくという性質を持つことから、他材料との接合が難しいという課題を抱えていた。
この課題に対し、同社はムール貝の特殊な分泌物が幅広い材料に接着するという現象に着想を得て、フッ素樹脂やポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン樹脂に強く接着できる粘着テープの開発を進めてきた。
また、従来はフッ素樹脂の表面の接着性を上げるためにプライマー(下塗り剤)を塗布し、粘着テープを貼合していたが、おのおのの相性で接着が不十分になったり、作業工程の負荷が大きくなったりといったデメリットがあった。
これに対し、今回開発した粘着テープは、プライマー塗布や乾燥工程などの製造プロセスの削減に加えて、さらに安定した接着性の実現が可能となる。
これらの特長により、高周波回路用の基板材料や、高機能化が進むスマートフォン内部での被覆部品やフィルターなどの接着をはじめ、フッ素樹脂を用いたパッキンなどが用いられている産業機器やメディカル用途など、フッ素系材料周辺の接着シートや粘着テープでの採用が期待される。
ちなみに、今回開発した粘着テープと同社アクリル系粘着テープを用いた接着性の検証の結果、開発した粘着テープは各種被着体に対して良好な接着性を示し、フッ素樹脂やポリオレフィン樹脂にも強固に接着できることを確認。特に、フッ素樹脂に対しては、一般的なアクリル系粘着テープよりも約10倍の粘着力を発現し、接着性の大幅な改善に成功している。
今後同社は、開発した粘着テープのサンプル提供を行いながら、2023年度の製品化/市場投入に向けて市場開拓を進めていく。また、粘着テープに限らず、接着剤やバインダー樹脂など、さまざまな用途への展開も視野に入れながら開発を加速させていくという。
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