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モーフィング技術で変形する飛行機の実現へ、鍵を握るメカニカルメタマテリアルJAXAが提案する次世代旅客機のカタチ【後編】(1/2 ページ)

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、さまざまに変化する飛行状況に対して、常に最高の性能を発揮できるような形状をとり続ける航空機の実現に向けて、モーフィング技術の研究開発を進めている。JAXA 航空技術部門 基盤技術研究ユニットに所属する研究計画マネージャの玉山雅人氏、研究開発員の津島夏輝氏らにその取り組み内容を詳しく聞いた。

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 さまざまに変化する飛行状況に対して、常に最高の性能を発揮できるような形状をとり続ける、そんな航空機を実現するのがモーフィング技術である。近年、素材技術や設計技術の向上により注目を集めているテーマだ。宇宙航空研究開発機構(JAXA) 航空技術部門 基盤技術研究ユニットに所属する研究計画マネージャの玉山雅人氏、研究開発員の津島夏輝氏らはモーフィング技術の研究開発に取り組んでおり、メカニカルメタマテリアルなど先進材料の研究も行う。両氏にモーフィング技術の内容およびJAXAの取り組みについて聞いた。

⇒バイオミメティクスを適用した構造設計について紹介した【前編】はコチラ

複合材や解析技術がモーフィング技術の進展を後押し

 現在の飛行機は、離陸、巡航、着陸のそれぞれのポイントにおいて、最大限の性能を発揮するように設計されているが、それ以外の旋回などの細かな状況には対応していない。変化し続ける飛行フェーズごとに最適な形状に変形させ、それによって空力特性の大幅な向上を目指すのがモーフィング技術である。

 モーフィングの要素技術は、主に表面が滑らかで柔軟に変形するスキン(外皮)、連続的に変形する機構、機構を駆動するアクチュエータからなる。通常の飛行機の舵面はリンクやジョイントなど複数の部品を組み合わせて変形するが、モーフィング構造は連続的に弾性変形する。

JAXA 航空技術部門 基盤技術研究ユニット 研究計画マネージャの玉山雅人氏
JAXA 航空技術部門 基盤技術研究ユニット 研究計画マネージャの玉山雅人氏

 モーフィング技術によってまず期待されるのが、全飛行行程を通じての空力性能の向上である。飛行状況に応じて常に適した形態をとるだけでなく、フラップなどの段差や凹凸のあるパーツをなくすことで抗力も低減できる。「1%の燃費向上でも燃料費の大幅な削減につながるため、旅客機の運航コストダウンに大きく貢献できる技術です」と玉山氏は語る。また、凹凸がなくなることによる騒音の低減、新機構による構造重量の軽量化、制御性の向上などが期待される。

 「モーフィング自体はライト兄弟の時代からあった概念で、新しいものではありません」と津島氏は語る。鳥などは翼の形を少しずつ変えながら飛んでいるので、変形すること自体は自然な発想といえる。初期の飛行機の素材は柔らかかったため、機体をねじるような動作も可能だった。初の動力飛行に成功したライト兄弟は、体重移動によりワイヤーを通じて主翼をたわませ、ロール制御を行っていた。また「ゼロ戦を設計した堀越二郎氏も、内部の機構を連続的に変化させることにより、狙った特性を示すという概念について発表しています」(津島氏)。

JAXA 航空技術部門 基盤技術研究ユニット 研究開発員の津島夏輝氏
JAXA 航空技術部門 基盤技術研究ユニット 研究開発員の津島夏輝氏

 当初の動力飛行機には木などの柔らかい材料が使われていたものの、壊れるのを避けるために、飛行機は「より固く、変形しないように」進化していった。さらに、安全率をかけて重量もかさんでいき、モーフィングの概念は下火になっていった。

 しかし、近年、解析技術が進化したことで過剰な重量を削減できるようになり、複合材、特にCFRP(炭素繊維強化樹脂)の活用も増加。さらに、「3Dプリンタやトポロジー最適化などによって、複雑でひずみがたまらない構造を作れるようになっています」と玉山氏は語る。

適用箇所も駆動機構も多彩に検討

 一口にモーフィング技術といっても、さまざまなものがある。翼のモーフィング技術は、水平面内で変形する面内モーフィング、キャンバーモーフィング、面外モーフィングの3つに分類できる。面内モーフィングでは翼幅や翼弦、後退角などを変化させる。キャンバーモーフィングは翼型や厚さを変化させる。面外モーフィングは上反角を付けたり、翼をねじったりする(図1)。

さまざまなモーフィング翼の概念図
図1 さまざまなモーフィング翼の概念図[クリックで拡大] 出所:JAXA、Yokozeki T. et al, Journal of Aircraft, Vol.51,No.3(2014),pp.1023-1029.

 機構については、さまざまなアイデアがある。例えば、ねじる機構であれば、図2のような二重筒の機構が提案されている。この機構は、通常の筒の外に、一部を取り除いたフレーム状の筒が接続された構造となっている。内筒は翼根側でモーターと接続されている。外筒は翼根側で胴体に固定され、翼端側で内筒と接続される。内筒がモーターによって回転すると、外筒が弾性変形によってねじれるようになっている。

二重筒によるTwist型モーフィング翼桁構造の変形時の解析図
図2 二重筒によるTwist型モーフィング翼桁構造の変形時の解析図。ここでは外筒のみを表示している[クリックで拡大] 出所:防衛大学校 航空機構造力学研究室、Aso and Tanaka, Transactions of the JSME,Vol.83,No.845(2017),p16-00323.

 翼型を滑らかに変形させる機構としては、コンプライアント機構も注目されている。コンプライアント機構は、例えばケチャップ容器の蓋のように、回転要素を組み合わせるのではなく、一体となった材料の弾性変形によって回転のような動きを可能にする。図3は翼内のリブ構造をコンプライアント機構に置き換えた例である。2つのパーツをスキンと接続し、赤色のパーツの荷重位置を変えることで、翼型を変形させる。「コンプライアント機構は弾性変形のため構造材自体にダメージを与えず、疲労に強くなります。また、部品点数が減るためメンテナンスも楽になると考えられます。これはCFRPでなければ実現できない機構でしょう」(玉山氏)。

リブ構造をトポロジー最適化によるコンプライアント機構に置き換えた例。赤色の構造の荷重負荷位置を変えることで異なる2つの形状に変形するよう、多目的最適設計を使って形状を求めた
図3 リブ構造をトポロジー最適化によるコンプライアント機構に置き換えた例。赤色の構造の荷重負荷位置を変えることで異なる2つの形状に変形するよう、多目的最適設計を使って形状を求めた[クリックで拡大] 出所:大阪府立大学 小木曽望教授

 また、コルゲート機構も注目されている。コルゲート構造とはラジエータなどの冷却機構などで用いられている波型の構造で、折り曲げの方向に沿って曲げると柔軟に変形するが、それに垂直な方向に対しては高い強度を保つ(図4)。折り曲げ構造を翼の長手方向に平行に配置すれば、空力荷重に耐える強度を保ちつつ、翼型を変形させる動きを実現できる。

コルゲート機構による翼型変形の例。ワイヤーをモーターで引くことにより翼型を変形させる
図4 コルゲート機構による翼型変形の例。ワイヤーをモーターで引くことにより翼型を変形させる[クリックで拡大] 出所:JAXA

 アクチュエータについては形状記憶合金が研究されている。合金のためパワーが出るのがメリットだが、迅速な変形は難しい。そのため「離陸時やクルーズ時のために15分後にこの形になっていてほしいといった用途が適切になります」と津島氏は語る。

 応答速度の速い材料としてはピエゾ素子がある。電気により直接変形でき、数kHzで応答する。だが、パワーが小さく動く量もわずかなため、翼を変形させるような仕事には向かない。その他に人工筋肉などもあるが、ポンプの重量がかさむなど、それぞれに一長一短という状態で、実験などの際は結局サーボモーターが用いられているとのことだ。

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