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四半世紀で製造業のGDPと就業者は縮小、データで見る国内産業構造の変化小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ(9)(2/2 ページ)

ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。第9回では、実質成長率に注目して日本と他国の比較を行っていきます。

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公務の“生産性”は意外と高い

 それでは経済活動別のGDPと就業者数から、就業者1人当たりの付加価値を計算してみましょう。これが、その産業全体の平均的な生産性といえる指標となります。もちろんパートタイム労働者なども含まれますので、参考値としてご覧いただければと思います。


図3:経済活動別に見た就業者1人当たりのGDP[クリックして拡大] 出所:内閣府 国民経済計算を基に筆者にて作成

 図3が、経済活動別の就業者1人当たりGDPです。全産業平均値は約803万円ですが、それよりも大きい経済活動と小さい経済活動で大きな差が生まれている印象があります。

 「電気・ガス・水道・廃棄物処理業」は生産性が極めて高い事が分かります。「金融・保険業」「公務」「情報通信業」「製造業」「鉱業」も生産性の比較的高い経済活動になるようです。公務の就業者1人当たりGDPが高い水準というのは意外に思う方も多いかもしれませんね。

 比較的生産性の高いこれらの経済活動は、製造業以外は労働者数の少ない「エリート産業」といった立ち位置にあるといえるでしょう。製造業は生産性が高く、労働者数も非常に多い業種ですが、労働者数が減少し、GDPも減少している縮小産業にもなっています。

 一方、GDPや労働者数の大きく増えている経済活動は比較的生産性が低い事が分かります。「専門・科学技術、業務支援サービス業」「保健衛生・社会事業」は、労働者数もGDPも大きく増加していますが、就業者1人当たりGDPはそれぞれ約628万円、約507万円とかなり低い水準です。

成長産業と縮小産業

 最後に、経済活動別の名目GDPの変化量と労働者数の変化数との相関図を眺めてみましょう。


図4:経済活動別に見た日本の名目GDP/就業者数の変化量[クリックして拡大] 出所:内閣府 国民経済計算を基に筆者にて作成

 図4がGDPと就業者数の変化量を相関図としてまとめたグラフです。バブルの大きさが2021年の各経済活動のGDPを表します。縮小している産業と成長している産業が一目で分かりますね。ただし2021年はコロナ禍の影響を大きく受けた年であることは注意が必要です。「宿泊・飲食サービス業」などは、特にその影響を受けていると考えられます。

 「製造業」「建設業」は大きく縮小していて、「保健衛生・社会事業」「専門・科学技術、業務支援サービス業」が成長している様子が伺えます。相対的に見て、生産性の高い製造業が縮小する一方で、生産性の低い産業が成長している状況が見て取れますね。日本の産業構造の変化が良く分かるのではないでしょうか。

<補足説明>

保健衛生・社会事業と専門・科学技術、業務支援サービス業は、現在成長している重要な経済活動と言えますが、具体的にどのような産業が含まれるのかイメージしにくいと思います。

国際連合統計部で公開している情報の中からISIC Rev.4の参考資料を基に、それぞれの経済活動に対応すると想定される分類の対応表を下記に示しておきますので、ご参照いただければ幸いです。

国民経済計算の分類 対応が想定されるISIC Rev.4の分類(大分類) 同(中分類)
専門・科学技術、業務支援サービス業 M:専門、科学および技術サービス業 69 法律および会計サービス業
70本社;経営コンサルタント業
71建築・エンジニアリング業および技術試験・分析業
72 科学研究・開発業
73 広告・市場調査業
74 その他の専門、科学および技術サービス業
75 獣医業
N:管理・支援サービス業 77 物品賃貸・リース業
78 職業紹介業
79 旅行代理店業、旅行業、予約サービス業および関連活動
80 警備・調査業
81 建物・景観サービス業
82 事務管理、事務支援およびその他の事業支援サービス業
保健衛生・社会事業 Q: 保健衛生および社会事業 86保健衛生事業(※病院事業など)
87居住ケアサービス業(※居住介護施設など)
88宿泊施設のない社会事業

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筆者紹介

小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役

 慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。

 医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。


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