国内投資を減らす日本企業の変質と負のスパイラル:「ファクト」から考える中小製造業の生きる道(9)(1/5 ページ)
苦境が目立つ日本経済の中で、中小製造業はどのような役割を果たすのか――。「ファクト」を基に、中小製造業の生きる道を探す本連載。第9回は、経済における企業の役割と、日本企業の変質についてファクトを共有していきます。
統計データという事実(ファクト)から、中小製造業の生きる道を探っていく本連載ですが、今回は第9回となります。この連載では、われわれ中小製造業がこの先も生き残っていくために何が必要かを見定めていくために、以下の流れで記事を進めています。
- 日本経済の現状を知る
- その中で起きている変化と課題を把握する
- あるべき企業の姿を見定める
- 今後考えていくべき方向性を共有する
ここまでの連載で、「日本経済の現状」は、平均給与などの主要な経済指標で見ると1990年代の最先進国の一角から「凡庸な先進国」にまで後退していることを示してきました。
「変化のポイント」として第5回、第6回では、「物価」が停滞し長期的に見ると「為替」が円高に推移していることを示しました。1990年代に国際的な「物価水準」が極めて高い時期があり、国内の物価停滞とともに徐々に低下していく「相対的デフレ期」とも呼べる状況であることが分かりました。日本は1990年代の経済が強く物価の高い国から、長い停滞を経て、現在は凡庸で中程度の物価の国へと立ち位置を変化させたことになります。
また、グローバル化の流れの中で「日本型グローバリズム」とも呼べるような流出に偏った日本特有の経済のグローバル化にあることを第7回では紹介しました。ここでは、日本は輸出も輸入も先進国の中では極めて少ない「内需型経済」であることを確認しました。さらに、第8回では、人口について取り上げています。日本は「少子高齢化」により人口が減少し市場が縮小すると見られていますが、人口が減少しても経済成長している国も多く存在しています。そのために必要な「一人一人の生活を豊かにしていくか」という考え方の重要性を訴えました。
ここまでさまざまなファクトを見てくると、日本経済は1990年のバブル崩壊と、1997年が大きな転換点だといえそうです。その中でも、1990年のバブル崩壊を機にまず「企業」が変質してしまった点が特徴的です。今回は、経済における企業の役割と、日本企業の変質についてファクトを共有していきたいと思います。
経済の主役は「家計」と「企業」
経済においては通常「家計」「企業」「政府」「金融機関」「海外」が経済主体と呼ばれて区分されます。
政府は地方政府と中央政府を合わせた「一般政府」、企業は「非金融法人企業」を指します。また、中央銀行(日本の場合は日本銀行)は、統計上は金融機関に含まれます。経済活動の「支出面」で見れば、われわれの「家計」が支出面の大部分を占める主役といえます。一方で「生産面」では「企業」が主役といえます。そして、この両者は、連動して成長していくというのが資本主義経済の基本形です。
経済活動においては、われわれ企業は「資本」を投下して「投資」を行い、生産性を向上させて付加価値(≒粗利)を増やし、事業を拡大していきます。投資の際には、主に「金融機関」から「借入」を行います。一方で、付加価値を生み出すために、労働者を雇用し「給与」を支払います。労働者は、消費者でもありますので、この給与所得を「消費」や「投資」(主に住宅購入など)に充てます。そうすると、企業からすれば需要が増えるため、さらに投資を拡大して生産能力を上げ、利益を拡大し、労働者への給与も増やすことができるようになります。基本的には、このように企業が負債を増やし、事業を拡大していくのと、家計の所得が増大していくのが並行して進むのが経済活動の理想的な姿だといえます。
この経済活動の拡大はGDPの増加や、労働者の平均給与の増大としても観測されます。しかし、現在の日本は本連載でこれまで共有してきたように、GDPや平均給与が先進国で唯一25年近く停滞していて、困窮する世帯が増えている特殊な状況です。
経済活動を可視化するもう1つの方法として「お金がどこに貯まっているのか」「負債を増やしている主体は誰か」といった観点で見ることがあります。そうすると、どの主体がどのような役割を担っているのかが明確に分かります
「お金」は誰かが負債を負うことで増えていきます。これを信用創造といいますね。家計であれば住宅ローン、企業であれば融資による借入、政府であれば国債などです。そして、経済主体ごとの金融資産と負債を全て足し合わせると、必ず「ゼロ」になります。「誰かの負債は誰かのお金」という関係です。このような観点で見ると、「企業」が主に負債を増やし、「家計」の金融資産が増えていくというのが資本主義国の「経済のカタチ」です。今回はまずはこの辺りから、ファクトを確認していきましょう。
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