日本は本当に「貿易立国」なのか、ファクトに見える真実:「ファクト」から考える中小製造業の生きる道(6)(1/4 ページ)
苦境が目立つ日本経済の中で、中小製造業はどのような役割を果たすのか――。「ファクト」を基に、中小製造業の生きる道を探す本連載。第6回目は「為替レート」に焦点を当て、日本における「貿易」についてのファクトについて解説していきます。
統計データという事実(ファクト)から、中小製造業の生きる道を探っていく本連載ですが、今回は第6回となります。この連載では、われわれ中小製造業がこの先も生き残っていくために何が必要かを見定めていくために、以下の流れで記事を進めています。
- 日本経済の現状を知る
- その中で起きている変化と課題を把握する
- あるべき企業の姿を見定める
- 今後考えていくべき方向性を共有する
ここまで、まずは「日本経済の現状」として、第1回では主に「労働者の平均給与」、第2回では「GDP(国内総生産)」、第3回では「1人当たりGDP」、第4回では「労働生産性」について取り上げてきました。これらの指標を見ると、日本は1990年代の最先進国の一角から、今や「凡庸な先進国」にまで後退し、特に「労働生産性」が低いという特徴が見えてきました。
また、第5回からは、経済の変化に着目点を移し、まずは「物価」にフォーカスしました。日本の物価は1990年代中頃からほとんど上がっていません。継続して物価が増加する「インフレ」が当たり前の世界の中で、唯一「物価が停滞する国」であるようです。これだけ長期間物価が停滞するということは、私たち企業からすると「モノやサービスの値段を上げられていない状況が長く続いている」という意味にもなりますね。
さて今回は、もう1つの重要な変化の指標である「為替レート」について着目します。そして、物価との関係も深い「物価水準」、輸出入などの「貿易」についてのファクトを共有していきたいと思います。
為替レートとは何か
為替レートとは、ある国の通貨と、他国の通貨の「交換比率」です。例えば、日本の円と米国のドルの交換比率が「ドルー円為替レート」となります。ニュースなどでも「現在のドルー円為替レートは、1ドル〇円」と耳にすることも多いことでしょう。ちなみに現在(2021年)は105〜110円/ドルくらいですね。
本連載でも異なる国の経済指標を比較するために、基軸通貨であるドル換算値の統計データを多用しています。その換算に用いるのも、為替レートです。
具体的には、ある年の日本のGDPが500兆円、為替レートが100円/ドルであったとすると、日本のGDPのドル換算値は、500兆÷100=5兆ドルとなります。これは、実際に5兆ドルを持っているわけではなく「ドルの単位に直したらこのような数字になる」という換算値です。当然、円高の年であればドル換算値はより大きな数値となりますし、円安の時はより小さく評価されます。
為替レートは「1ドルでどれだけの円と交換できるか」という見方で考えると、円安や円高の感覚がつかみやすくなります。例えば、100円/ドルの為替レートで考えてみましょう。これは1ドルで100円と交換できるということになります。
この時、10円分円安になると、円が安くなって1ドルで交換できる円が増えます。そのため、100+10=110円/ドルとなります。一方、10円分円高になるというのは、円が高くなって1ドルで買える円が減るということを意味します。そのため、100−10=90円/ドルとなります。円安と円高は取り違えやすいので、ここでしっかりとイメージを定着させていただければと思います。
この為替レートは、通貨の交換比率というだけではなく、貿易や経済活動にも大きく影響を与えるものです。円安になると、相手国から見て日本の製品が割安になるので、日本からの輸出が増え、輸出産業が活発化するといわれています。逆に円高になると、輸出が低調になり、国内の物価が他国に対して割高になるため、企業は海外進出による現地生産を促進するとされています。
また、円安になると、輸出型企業の業績向上が見込まれるため、日経平均株価が上がるという関連性も指摘されますね。為替レートの変動は、このように経済活動そのものに直接的に影響を与える指標だといえます。
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