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国内投資を減らす日本企業の変質と負のスパイラル「ファクト」から考える中小製造業の生きる道(9)(4/5 ページ)

苦境が目立つ日本経済の中で、中小製造業はどのような役割を果たすのか――。「ファクト」を基に、中小製造業の生きる道を探す本連載。第9回は、経済における企業の役割と、日本企業の変質についてファクトを共有していきます。

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日本企業の「変質」の正体

 いったい日本の企業に何が起こっているのでしょうか。

 企業は負債を増やして「事業投資」を行い、付加価値を増大させて、労働者の給与を上げていく経済におけるエンジンともいえる存在です。その企業が日本だけ変質しているという極めて重大な事態に陥っていることは明らかなようです。日本の統計で、企業の状況を集計しているのは「法人企業統計調査」です。この統計データから日本企業の変質の実態を可視化してみましょう。

 図8は日本の法人企業の、売上高、付加価値、人件費、営業利益の推移をグラフ化したものです。

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図8 日本の企業における売上高、付加価値、人件費、営業利益[クリックで拡大] 出所:「法人統計調査」を基に筆者が作成

 直近では売上高1500兆円、付加価値(GDP)320兆円、人件費180兆円ほどです。GDP(約550兆円)の約6割を法人企業が稼いでいる計算になります。当然ですが、現在までに見てきたGDPや平均給与のグラフと同じような推移です。

 売上高や付加価値(GDP)は1991年をピークに停滞が続いています(付加価値は近年増加基調ではあります)。また、人件費は1995年をピークに横ばいが続いています。実は労働者数はこの停滞が続く時期でも大きく増えているのですが、図8のように人件費の総額は横ばいです。ですから、第1回で見たように労働者の平均給与が下がっているわけですね。

 消費者でもある労働者への対価(=給与)を増やすことができていないわけです。労働者数は増えても、給与の総額は一定ですので、労働者全員でワークシェアリングをしているような状況だといえます。本連載で見てきた日本全体の経済停滞と、日本企業の停滞が強く関係している状況をご確認いただけると思います。

 一方で、企業の利益や配当金などをまとめたのが図9です。

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図9 日本の企業における配当金、社内留保、当期純利益、営業外損益[クリックで拡大] 出所:「法人統計調査」を基に筆者が作成

 営業外損益は2003年以降プラス側で増大していて、当期純利益もリーマンショックの影響が大きい時期を除けば近年は大きく増大して空前の規模となっています。当期純利益の分配として、配当金や社内留保も大きく増大しています。日本企業は、売上高や付加価値、人件費などは横ばいですが、利益を増やすことができている状況です。

 もちろん、生産効率の向上やコストカットなど「企業努力」によるものも大きいとは思いますが、第7回でご紹介したような海外進出による「海外現地法人」からの利益の還流や、金融投資による配当金なども大きく営業外利益の増大に寄与していると言えます。また、利益は増大していますが法人税は横ばいである点も特徴的です。

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