ESG戦略は企業価値にどう影響するのか、AIツールでインパクトを予測/分析する:製造マネジメントニュース
アクセンチュアは2022年8月1日、ESG関連の取り組みが企業価値に与える影響をAIモデルで可視化、予測する「AI Powered Enterprise Value Cockpit」を提供開始すると発表した。
アクセンチュアは2022年8月1日、ESG(環境、社会、ガバナンス)関連の取り組みが企業価値に与える影響をAI(人工知能)モデルで可視化、予測する「AI Powered Enterprise Value Cockpit」を提供開始すると発表した。ESG戦略の取り組み具合について、自社と競合他社の水準を比較することもできる。
業界における自社の進み具合も確認可能
AI Powered Enterprise Value Cockpitは非財務指標であるESG指標に関わる企業努力が、企業の時価総額にどのようなインパクトをもたらすかを可視化、予測するツールである。
日経225構成銘柄の468指標のデータ12年間分を活用して、企業規模や市場要因などを切り離した上で、ESG指標との因果関係を考慮し、時価総額を予測するAIモデルを構築した。業界内で企業価値向上に貢献しやすいESG指標を見極め、ESG施策の方向性を検討する上で役立つ。同モデルの構築は、サステナビリティ研究で知見を持つ九州大学 都市研究センター長 教授の馬奈木俊介氏や、同センター 准教授の武田准氏などが監修している。
ダッシュボード上では営業利益率などの財務指標や、環境、社会、ガバナンス指標の目標値をKPIとして設定し、予測範囲を示す対象年度を入力する。すると、その年度までの時価総額の推移がシミュレーションされ、グラフ上で表示される。どの指標の取り組みを強化すると、時価総額にどのような影響が出るかが確認できる。競合他社と比較した際の取り組み度合いを表す「取り組み偏差値」も、財務/環境/社会/ガバナンスの各項目で調べられる。各指標の取り組み度合いを自社と業界平均水準とで比較して、自社の進み具合を把握することも可能だ。
今後の機能強化の計画について、アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 AIグループ シニア・プリンシパル 須山敦志氏は「AIモデルによる予測の基となる学習データに、国内企業だけではなく海外企業のデータも取り込み、より高精度なシミュレーションを実現する。有価証券報告書の記載内容などの定性的情報もAIエンジンに取り込めるようにしたい。また、目標達成に向けた企業のESG戦略をAIがレコメンデーションするといった機能拡張も行う。九州大学 都市研究センターとの連携も深めていく」と語った。
機械/エレクトロニクス業界ではESG戦略の影響度は比較的低い
近年、企業がESG戦略を立案し、実行に移そうとする企業はグローバルで増加している。アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 AIグループ日本統括 AIセンター長 保科学世氏は「その一方で、ESG戦略を適切に企業価値向上施策に結び付ける方法を把握できておらず、実行によって得られる企業価値を適切にステークホルダーに伝えられない事例も見受けられる」と指摘する。AI Powered Enterprise Value Cockpitはこうした課題を解決し得るツールとして開発された。
保科氏は国内企業におけるESG指標の企業価値への影響度を可視化した表も紹介した。これによると、女性役員比率の向上などに関わる社会指標は企業価値への影響度合いが特に大きい指標であることが伺える。一方で、環境指標は影響度が相対的に小さく、国内では評価指標としてまだ十分に認識されていない可能性がある。
また、ESG指標の影響度を業界間で比較すると、ESG指標が企業価値に大きく影響する業界とそうでない業界の差なども分かったという。サービスや医療/医薬/バイオ、小売業界などではESGの取り組みが時価総額を押し上げている様子が伺える。一方で、機械/エレクトロニクス業界では、概してESGの取り組みが時価総額にあまり大きな影響を与えるような状況ではないようだ。ただ、先行してESG施策に取り組む企業も一部あり、「業界全体の情勢に関わらず、しっかり取り組んでいる企業は、しっかり評価に結び付いている」(保科氏)という。
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