赤外線ガス分析をリアルタイムでポータブルに、実車測定やインライン検査で活用へ:車載デバイス(2/2 ページ)
堀場製作所は2021年7月29日、赤外線ガス分析をより迅速に小型の機器で実現できる独自技術「IRLAM(アーラム)」を開発し、同技術搭載の4製品を同日に発売すると発表した。
IRLAMを支える3つの要素技術
「高速・高精度な濃度演算アルゴリズム」は、AI(人工知能)領域で活用される「特徴量」という概念から着想を得て開発。ガスによって吸収された時間領域の赤外線信号から抽出した特徴量を使用し、独自のガス濃度演算アルゴリズムを確立した。これにより、従来法に比べて演算時間を大幅に短縮できた他、さまざまな干渉ガスが含まれていたとしても正確にガス濃度を検出できるようになったという。また、高速演算により、環境条件の変化に対応した補正演算も可能で、温度や気圧の変化が激しい過酷な環境下でも信頼性の高い測定データを提供できる。同技術は特許登録済みだとしている。
「高感度・高速な計測を可能とする小型ヘリオットセル」は、光路長の拡張による計測精度の向上と、搭載機器の小型化に貢献する。赤外線ガス分析では、赤外線を通過させる距離(光路長)が長ければ長いほど多くの吸収量を得られ、感度が上がるが、ガスセル内部に設置したミラーの多重反射を用いることで長い光路長を得られるようにした。ミラー設計を最適化することで5m以上の光路長を確保(従来法では10〜20cm程度)しつつ内部容積は従来比5分の1に収めることができた。これにより通常だと分析が難しい低濃度ガスの分析やポータブル型の分析計開発を可能とするという。
「幅広いガス種の計測ニーズに応える内製の量子カスケードレーザー」については、ガス計測に最適な光源を自社開発で一から開発したということがポイントだ。多くの分析対象ガスが含まれる中赤外光をレーザー発振することのできる量子カスケードレーザー(QCL)を自社内で開発し、製造する技術を確立したことで、測定対象ガスの種類や濃度レンジに応じた波長のQCLを自由にカスタマイズできるようになった。
これらの独自開発技術については「当面は堀場製作所の分析装置に活用することを想定しおり、現時点での外販は考えていない。ただ、将来的に進化させることができ世の中で活用できる形になった場合、外販も検討していく」(堀場製作所 開発本部 先行開発センター先行開発部 IRLAM開発責任者の渋谷享司氏)としている。
実車に搭載できる赤外線ガス分析装置を投入
堀場製作所ではこの「IRLAM」技術を搭載した4製品を2021年7月29日に発売した。
先行して米国のみで販売を開始するのが、プロセス用レーザーガス分析計「PLGA 1000」である。これは石油化学プラントなどでの活用を想定しており、高濃度原料ガスと低濃度不純分ガスを高感度に高速連続計測する。メタンやエタン、アセチレン、二酸化炭素などの特定プロセスガス種への対応を行う他、ppb(10億分の1)レベルの高感度な計測が可能。また3秒でガス置換を行う高速応答性を備えていることが特徴だ。これらの高速応答性などによりインラインでの活用を想定し、プラントでの生産性最適化などを実現する。価格は1200万円からを想定しており、5年で300台の販売目標としている。
グローバルで販売を開始したのが、車載用途を想定した3製品だ。車載型排ガス測定装置「OBS ONE XL」は「IRLAM」の、高速演算によるリアルタイム性やコンパクトさを生かし、車両に搭載し実車試験でのリアルタイム測定ができる排ガス測定装置である。自動車の環境性能改善に貢献する一酸化二窒素やアンモニアの高精度計測が行える他、高温や低温、気圧変動、振動など路上走行試験特有の過酷な環境にも対応。将来的なEU Euro7規制にも対応する予定だとしている。価格は2000万円からで5年で200台の販売を目指している。
ガス濃度分析計の「XLA 13H」「XLA 11」は、定置型のエンジン排ガス測定装置「MEXA-ONE」に搭載して使用する。「XLA 13H」はホルムアルデヒド、「XLA 11」は一酸化二窒素の濃度計測を行う。IRLAMの活用により、バイオ燃料や新燃料に含まれる極微量成分も計測可能である点が特徴だ。価格はそれぞれ1000万円からで、5年間で両製品合計130台の販売を目指す。
渋谷氏は「今回開発したIRLAM技術搭載製品をさらに広げるとともに、他事業も含めてクロスセグメント体制で積極展開していく」と今後の抱負を語っている。今後の展開としては、環境用途や車載用途の他、半導体製造プロセス向けの製品を検討しているという。「製造プロセスのインライン計測を目指す」(渋谷氏)としている。
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