日本は「自動車産業After2050」を考えるときではないか:和田憲一郎の電動化新時代!(39)(1/3 ページ)
各国の規制は既に2050年までほぼ固まっており、これが早まることはあっても、後退することはないだろう。海外の自動車メーカーもこれに沿って車種ラインアップや事業計画を見直していると予想される。そう考えると、他社より一歩先んずるためには、まだ固まっていない、不透明な2050年以降を想定していくことが必要ではないだろうか。まさに日本が生き残るための「自動車産業After2050」である。
最近、日本の自動車産業に焦燥感が漂っているように思える。新型コロナウイルス感染症(COVID−19)で甚大な被害を受けたためか、全く元気がない。現在は既に決めていた開発プロジェクトを粛々と進めるものの、次のステップに関しては、霧がかかった視界不良の状態ではないだろうか。
しかし、各国の規制は既に2050年までほぼ固まっており、これが早まることはあっても、後退することはないだろう。海外の自動車メーカーもこれに沿って車種ラインアップや事業計画を見直していると予想される。そう考えると、他社より一歩先んずるためには、まだ固まっていない、不透明な2050年以降を想定していくことが必要ではないだろうか。
未来のことであり、どこまで読めるのか、今から何を準備しなければならないのか難しいが、それを考える時のように思える。まさに日本が生き残るための「自動車産業After2050」である。今回は筆者の考えを述べてみたい。
既に起こった未来
自動車産業が時代の転換期に差し掛かっていることは言うまでもない。自動車誕生から130年余り、これまで日本の自動車産業は、ガソリンエンジン車主体ということもあり、欧米を先行指標として5〜10年先を見据えてモノづくりをしてきた。しかし、2010年前後になると、日本独自ともいえるEV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)を開発し、市場投入していった。ある意味、海外勢を一時期引き離したかに見えた時代であった。
だが、新しいモノが市場に出ると、競合企業は分解してさらなる改良を加えるのが常である。その意味で、2010〜2020年代を総括すると、日本が新たなEV/PHEV/FCVを開発したものの、すぐに海外勢が模倣してさらなる改良を加えていった時代だったといえる。現在は日本勢の勢いは衰え、Tesla(テスラ)をはじめ欧米中の勢いが増しているのが実情である。
規制に関して日本ではなかなか将来予測はできないが、海外では既に多くの規制で2050年までの目標が固まっている事実がある。まさに、既に起こった未来ともいえるが、これについて少し紹介しよう。例として、各国のゼロエミッション車に関する規制(ZEV規制)を挙げたい。米国カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム氏は2020年9月末に、同州内で販売される新型車は2035年までに全てをゼロエミッション車とすることを義務付けると発表した。また、トラックメーカーに対して、2045年までに排気ガスの出るガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車の販売を禁止することも公表している。一気に、ではなく段階的な導入である。
欧州は米国カリフォルニア州のZEV規制よりさらに厳しい。最も規制の導入時期が早い国はノルウェーで、2025年新車販売の100%をZEVにすると打ち出している。あと5年に迫っている。その他にスェーデンやオランダなどが続く。また英国はこれまで2040年からガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車の販売禁止を計画していたが、それを5年前倒しして2035年から実施することを表明した。このとき、新たにハイブリッド車も禁止対象に加えている。
さらに国レベルの規制だけではなく、都市レベルでも規制が始まっている。フランスでは2040年から内燃機関の乗用車や商用車に対して販売禁止する規制を打ち出しているが、パリ市長のアンヌ・イダルゴ氏は「時は迫っている」として、国の2040年を待たずに2030年からガソリンエンジン車とディーゼルエンジン車のパリ市内乗り入れ規制を行うことを表明している。
また、あくまで検討情報であるが、中国の自動車専門家組織「中国自動車エンジニア学会」は、2020年10月27日に「省エネルギー車・新エネルギー車技術ロードマップ2.0」を発表した。それによれば、2035年には、ガソリンエンジン車を廃止するとともに、新エネ車の比率を50%以上、それ以外はHEV(ハイブリッド車)などの環境対応車を目指すとのこと。まだ政策的に固まっているかどうかは分からないが、重要な発表と思われる。
このように、米国、欧州、中国の動向から分かるように、政策立案者から見れば2050年までの規制は既に射程の範囲内である。また、世界の自動車メーカーもこうした規制を視野に入れて対応していると見ることが妥当だろう。改めて見てみると、かなり決まっていることに驚かされる。そうであれば、今後まだ固まっていない不透明な2050年以降を考えてみることも必要ではないか。
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