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単結晶構造解析「1μm」の壁を打破、リガクと日本電子が新たな分析機器を開発研究開発の最前線(1/2 ページ)

リガクと日本電子が、両社の共同開発による電子回折統合プラットフォーム「Synergy-ED」について説明。これまで詳細な分析ができなかった1μmよりも小さい極微小結晶の分子構造を解明できる従来にない分析機器であり、創薬や材料開発における新たな発見に役立つとして期待を集めている。

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 リガクと日本電子は2021年6月29日、東京都内で会見を開き、同月1日に販売を開始した両社の共同開発による電子回折統合プラットフォーム「Synergy-ED」について説明した。リガクのX線単結晶構造解析技術と、日本電子の電子顕微鏡技術を組み合わせることで、これまで詳細な分析ができなかった1μmよりも小さい極微小結晶の分子構造を解明できる従来にない分析機器であり、創薬や材料開発における新たな発見に役立つとして期待を集めている。

リガクと日本電子が共同開発した「Synergy-ED」
リガクと日本電子が共同開発した「Synergy-ED」(クリックで拡大) 出典:リガク、日本電子

有機分子の極微小結晶の測定は電子顕微鏡やX線単結晶構造解析では難しい

 会見では、Synergy-EDによって極めて容易な測定と分析が可能になった電子回折による単結晶構造解析や、電子回折の基礎技術となる電子顕微鏡やX線単結晶構造解析による測定が創薬や材料開発にどのように役立ってきたかが説明された。

 まず、電子顕微鏡は、一般的な光学顕微鏡が小さなものを観察する機器であるのと同じように、原子レベルの小さなものを観察できる機器である。可視光を用いる光学顕微鏡は見えるサイズに限界がある(0.2μmまで)が、電子線を用いる電子顕微鏡は物質中の原子配列を観察できる。日本電子 EM事業ユニット 副ユニット長の奥西栄治氏は「原子が直接見える電子顕微鏡だが、電子線によって壊れる物質は観察自体が困難という課題がある。特に医薬品などに代表される有機物系の結晶を観察するのは困難だ」と語る。

電子顕微鏡でできること
電子顕微鏡でできること(クリックで拡大) 出典:リガク、日本電子

 この電子顕微鏡による観察が困難な有機物系の結晶に用いられてきた測定技術がX線単結晶構造解析である。X線単結晶構造解析は、結晶に当てたX線の回折線の強度をフーリエ変換によって計算した結果から、結晶内の分子の立体構造を原子レベルで観察できる。50年近い歴史があり、結晶の3次元構造を精密に可視化する上で「ほぼ100%間違いがない確実な方法」(リガク X線機器事業部 SBU ROD 戦略ビジネスユニットマネージャーの神田浩幸氏)だという。続けて神田氏は「特に創薬では、有機分子の3次元構造が効能に大きな影響を与えることもあり、デザイン通りに作成して、効果を発揮できるかを確認する上で必須の測定手段となっている」と強調する。

X線単結晶構造解析結晶内の分子の立体構造を観察するのに必須の技術 X線単結晶構造解析は(左)、創薬や材料開発で結晶内の分子の立体構造を観察するのに必須の技術だ(右)(クリックで拡大) 出典:リガク、日本電子

 しかし、このX線単結晶構造解析にも大きな課題がある。それは、一定以上の大きさの単結晶が必要になることだ。神田氏は「設計した有機分子材料が、必ずしも結晶性が良いとは限らない。見た目としてほぼ粉末のような極微小結晶の状態でしか生成できない材料も多くある。これらの材料は構造解析が難しいこともあって、興味深い物性があってもより深く研究を進められないという状態にあった」と説明する。ただし近年は、結晶化が難しい材料の構造解析手法が幾つか提案されつつある。例えば、膜タンパク質はクライオ電子顕微鏡、気体や液体は結晶スポンジ法でのX線単結晶構造解析、生きた状態を見る必要のあるバイオ医薬品はBioAXSによる電子密度解析などの観察手法が出てきている。そして、極微小結晶の観察に対応するのが、Synergy-EDによって実現された電子回折による単結晶構造解析なのだ。

X線単結晶構造解析の課題
X線単結晶構造解析の課題(クリックで拡大) 出典:リガク、日本電子

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