日本製鉄が国内の高炉と製造ラインを休止拡大も、年粗鋼生産1億トンへ3兆円投資:製造マネジメントニュース(2/2 ページ)
日本製鉄が2025年度をめどとする中長期経営計画を発表。高炉や製造ラインの休止の追加で国内製鉄事業の再構築を進めて早期の収益力回復を図るとともに、海外事業の深化と拡充、「ゼロカーボン・スチール」への挑戦、DX戦略の推進が柱となる。グローバル粗鋼生産能力については年間1億トンを目指し、5年累計の投資総額は3兆円に達する。
高機能製品の生産能力を拡大、中国・ASEANで製鉄所の買収や資本参加も
大規模な高炉や製造ラインの休止を進める一方で、需要が拡大する高機能製品への投資を行う。自動車鋼板製造の中核拠点である名古屋製鉄所で、自動車の軽量化で求められる超ハイテン鋼板などの高級薄板の生産体制を抜本的に強化するため、2026年度第1四半期の稼働開始をめどに次世代型の熱延ラインを新設する。生産能力は年間600万トンを予定している。なお、この次世代ラインの立ち上げ後には現行の熱延ラインを休止する。
車載用モーターに用いられる無方向性電磁鋼板(NO)や、変圧器の高効率化に役立つ方向性電磁鋼板(GO)については能力・品質向上対策を追加する。既に瀬戸内製鉄所広畑地区・九州製鉄所八幡地区における電磁鋼板の能力・品質向上対策を決めて2023年度上期のフル効果発揮に向けて施策を進めているが、瀬戸内製鉄所広畑地区でさらに追加対策を実施する。これにより、NO+GOの生産能力は現在の1.5倍となり、このうちハイグレード電磁鋼板については同3.5倍になるという。
国内の生産体制は絞り込むものの、グローバルの鉄鋼需要は長期的に増大し、特にインド、ASEANでの伸びが2030年には2019年比で80%増となる見通しである。そこでグローバル粗鋼能力1億トン体制を目指して、傘下のAM/NS Indiaの生産能力を700万トンから1400万トン以上に増やすとともに、中国・ASEANにおける一貫製鉄所の買収や資本参加などを検討する。これにより、鉄源工程での海外生産能力を5000万トン以上に拡大することでグローバル粗鋼能力1億トンを実現する構えだ。
日本政府が2050年のカーボンニュートラル達成を発表しているのに合わせて、実質的なCO2排出量を減らす「ゼロカーボン・スチール」にも取り組む。2030年の目標は、CO2総排出量を2013年比で30%削減で、2050年には、大型電炉での高級鋼の量産製造、水素還元製鉄、CCUS(二酸化炭素回収、有効利用、貯留)によるカーボンオフセット対策なども含めた複線的なアプローチでカーボンニュートラルを目指す。
DX戦略の推進では、2021〜2025年度の5年間で1000億円以上を投入し、鉄鋼業におけるデジタル先進企業を目指す。具体的には、データとデジタル技術を駆使して「業務プロセス改革」と「生産プロセス改革」に取り組み、事業競争力を強化する。
施策は主に3つに分かれる。1つ目は「つくる力」の革新的な進化で、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などのデジタル技術の高度利活用によるモノづくりのスマート化を進める。2つ目の顧客対応力の強化では、受注から生産、納入に至るまでの統合計画プラットフォームを構築し、フレキシブルかつ最適な供給体制を強化する。3つ目はグローバルマネジメント基盤対策だ。さまざまな経営情報やKPI(重要業績評価指標)をリアルタイムに把握し速やかな改善アクションを可能とする統合データプラットフォームを構築し、ビジネスインテリジェンス(データ基軸のマネジメント支援体制)を強化する。
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