日本製鉄は新型コロナで高炉稼働率が60%に低下、リーマンショック時も下回る:工場ニュース
日本製鉄は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大による大幅な鉄鋼需要の急減に対応するため高炉の追加休止を実施する。今回の追加休止により6つの高炉でバンキングを実施することとなった。また2020年4〜6月期の高炉稼働率は60%程度を見込んでおり、これはリーマンショック時をも下回る数字だ。
日本製鉄は2020年5月8日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大による大幅な鉄鋼需要の急減に対応するため高炉の追加休止を実施すると発表した。室蘭製鉄所(北海道室蘭市)構内で製銑設備を保有する子会社の北海製鉄第2高炉の改修に向けた吹き止め(操業休止)と、同年9月末に休止予定の九州製鉄所八幡地区小倉第2高炉(北九州市小倉北区)のバンキング(送風停止による再稼働が可能な状態での休止)を、7月上旬以降に実行準備でき次第前倒し実施する。小倉第2高炉はバンキングからそのまま休止を迎えるため、事実上休止の前倒しとなる。
同社は2020年2月に子会社の減損などより2019年度に4900億円の損失を計上することを発表した他、高炉休止を含めた生産設備構造対策を示した。2月15日から瀬戸内製鉄所呉地区(広島県呉市、旧日鉄日新製鋼呉製鉄所)の第2高炉のバンキングを行っていたが、COVID-19の感染拡大による需要急減を受けて、4月15日から東日本製鉄所鹿島地区(茨城県鹿嶋市)の第1高炉、4月25日から関西製鉄所和歌山地区(和歌山県和歌山市)の第1高炉のバンキングを実施。東日本製鉄所君津地区(千葉県君津市)の第2高炉も5月中旬以降に準備でき次第バンキングを実施する予定になっていた。今回の2高炉の追加休止により6つの高炉でバンキングを実施することになる。
日本製鉄は5月8日に2019年度(2020年3月期)決算も発表している。連結業績は売上高5兆9215億円、事業損失2844億円、営業損失4061億円、税引前損失4235億円、当期損失4261億円で、2020年2月の減損計上時の見通しと比べて損失幅を圧縮した結果となった。「第4四半期途中より新型コロナウイルスの影響で急激に海外・国内の経済活動が減速し鉄鋼需要が減少。ただし当社業績への影響には時間差があり、2019年度業績への影響は軽微」(日本製鉄の決算説明資料より抜粋)だったためだ。
COVID-19の影響は2020年度第1四半期(2020年4〜6月期)から本格化している。急激な経済活動の減速で鋼材需要が低迷しており、生産出荷数量減、減産コストデメリット、鋼材市況悪化といった業績への多大な影響が想定されている。COVID-19の収束時期を見通すことが困難なため、2020年度業績見通しの公表は見送っている。
実際に2020年度第1四半期(2020年4〜6月期)の四半期当たり粗鋼生産水準は、需要急減に合わせて減産に踏み切っていた2019年度第4四半期(2020年1〜3月)の1036万トンを大幅に下回るとともに、リーマンショックの影響が最も大きく出た2008年後半の水準さえ下回り、高炉稼働率は60%程度を見込んでいる。回復時期も不透明であり、2020年度第2四半期も低水準となる可能性が高い。
その上で、COVID-19の感染拡大を受けた経営環境認識として「従前から当社の経営戦略で想定していた経営環境変化が、コロナ影響により加速化した」としている。そして、今後海外市場では、製造業全体の「地産地消化」「自国産化」傾向が、コロナ影響でさらに加速し「市場の分断」が進展するという。なお、日本製鉄の主要市場である新興国の需要は当面の低迷からいずれかの時期に成長軌道に回復するとしつつ、コロナ影響からいち早く回復する中国の鉄鋼メーカーの相対的ポジションの向上と中国内需の頭打ちもあって、中国メーカーにより海外進出の加速で輸出市場の競争が激化するとみている。また、これらの動向に合わせて、国内の年間鋼材需要約6000万トンのうち3割を占める間接輸出の減少もさらに加速するとした。
この経営環境認識を踏まえて、コロナ発生前の時点で挙げていた「2020年度単独営業利益の黒字化にめどを付ける」という業績目標について「コロナ影響収束後はいかなる環境でも単独営業利益黒字を確保」という目標に変更している。
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