コロナショックが明らかにした「サプライチェーンリスクマネジメント」の重要性:新型コロナウイルス対策 緊急寄稿(1/3 ページ)
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、製造業は自社のサプライチェーンが途絶し、顧客に製品やサービスが供給できなくなるリスクに直面している。本稿では、今回の“コロナショック”を契機に、自社サプライチェーンのリスク対応力強化を検討している製造業に向け「サプライチェーンリスクマネジメント(SCRM)」について解説する。
1.パンデミックによるサプライチェーンの途絶とリスク管理の難しさ
2020年3月、中国の武漢市に端を発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大を受けて、各国政府は入出国制限や外出規制、営業規制を展開し、必死のウイルス封じ込めを実施している。その結果、企業活動は大幅に制限され、さまざまな形でマイナスインパクトを被っている。そのうち、製造業にとってとりわけ深刻な問題は、自社のサプライチェーンが途絶し、顧客に製品やサービスが供給できなくなるリスクであろう。特に、感染拡大が深刻なエリアに生産〜供給拠点を集中させていた多くの企業が、大幅な納入遅延や売上予算の下方修正、発売時期延期などを余儀なくされている。日本政府は海外生産拠点の分散・再配置を支援する方針を発表しており、当面は、東アジアに集中した生産拠点や調達先の分散や日本への生産回帰が促進されるだろう。
しかし、サプライチェーン途絶を引き起こす原因は今回のCOVID-19のような感染症だけではない。地震や風水害、サプライヤーや物流業者の破綻、ストライキなど、さまざまな原因事象が毎年のように発生しており、その事後対応に多くの企業が苦慮している。また、リスク対策の方法論も、拠点分散・再配置だけでなく、リスクの規模や性質に応じて、さまざまな対策が重層的に実施されるべきものである。
そこで本稿では、今回の“コロナショック”を契機に自社サプライチェーンのリスク対応力強化を検討している製造業企業に向け、BCM(事業継続マネジメント)の枠組みを踏まえて、特に重要なサプライチェーン途絶に対するリスク対応にフォーカスして紹介するとともに、その運用課題と対応の方向性について論じる。
2.サプライチェーンリスクマネジメントの運用に向けた4つのステップ
ここからは、サプライチェーンのリスク対応で重要な役割を果たす「サプライチェーンリスクマネジメント(SCRM)」の基本的な運用ステップを示す。一般にその構造は、「サプライチェーン構造の可視化」「リスクの分析・評価」「リスク対策決定・実行」「リスクの監視」という4つのステップで説明される(図1)。
STEP1:サプライチェーン構造の可視化
リスクマネジメントの第一歩はリスクの特定から始まる。SCRMにおいては、リスクが生じるサプライチェーンの構成要素とそのつながりを可視化することがそれに当たる。ここでは、自社または自社グループ領域の構成要素(自社の管轄する工場や倉庫など)だけでなく、「インバウンド領域(部品や材料を自社に供給するサプライヤーや調達物流に関わる要素)」と、「アウトバウンド領域(製品を顧客に供給するまでの倉庫や販売物流に関わる要素)」の3領域を漏れなく押さえることが必要になる。
STEP2:リスクの分析・評価
棚卸したそれぞれのサプライチェーン構成要素を前提に、その途絶を引き起こす可能性のあるリスクを、「原因事象」と「結果事象」に分けて抽出する。その際、原因事象はその“起りやすさ”を、結果事象はその“事業に及ぼす影響”を、それぞれ指数化して見積もる。そして各リスクの“起りやすさ”と“事業影響”相互のバランスを踏まえて、各事業におけるリスクの大きさを評価する(表1)。
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