4931件は顧客の管理値外、11万件以上で不正検査を行った曙ブレーキの調査結果:品質不正問題(2/2 ページ)
曙ブレーキは2021年2月16日、同社の国内製造子会社で製造する自動車用ブレーキ製品における検査結果の改ざんや不適切な数値記載における、調査結果と再発防止策について発表した。不正検査は約20年にわたって行われ、対象製品に関係する全検査報告数の19万2213件数の内、半数以上となる11万4271件で不適切な行為が確認されるなど、組織として常態化していた問題点が指摘されている。
コンプライアンス意識の低さと検査項目の検証不足が要因
これら不正検査の発生要因として調査報告書で指摘されたのが以下の3つの点である。1つ目が「検査報告書作成者への内部牽制(けんせい)の欠如」である。調査の中で明らかになった事象として、製造工程で記録された日常検査の実測データがあるにもかかわらず、検査報告書にはそれを転記せず、未実施の検査データを記載していた事象などもあった。検査報告書作成担当者が長期にわたり固定化されていたためチェック機能が働いていなかったという問題である。
2つ目が「品質・検査データに関するコンプライアンス意識の甘さ」だ。グループ内に社内規定が存在せず、各製造拠点における職務分掌規定もないため、各製造拠点では業績を重視した生産の合理化により指定検査に必要な人員や工数を削減することがあった。また、経営陣や管理職が各製造拠点の実態を調査して対策を講じた形跡がなく、不適切行為が長期にわたり継続し、その発覚や対応が遅れた。
3つ目が「指定検査の検査項目や管理値などの実情に対する検証不足」である。今回の不適切行為は、主に摩擦材(パッド、ライニング)における実測データの修正と機構製品(ディスクブレーキ、ドラムブレーキ)における未実施検査における虚偽報告に分けられる。これらの不適切行為は、先述した4つの製造拠点で行われていたが、発生要因として大きいのは、開発段階から量産開始までに、顧客との協議で決める指定検査の検査項目、管理値、検査数、頻度、検査方法などが曙ブレーキの実情に合わず、十分な検証をしないで提案していたことだとしている。
例えば、摩擦材については、気象条件などによっても品質のバラツキが大きくなるが、開発部門や製造拠点で品質管理として十分検証された管理値を提案しておらず、そのしわ寄せが量産段階で生まれることになった。その結果、製造拠点が不適切行為に走った。さらに、問題が顕在化しなかったため、真実の実力が見えにくくなり、実力を改善する努力を怠り、製造設備の更新や投資が遅れる悪循環を生んでいた。
一方、機構部品については、検査を実施せずに指定検査の報告書に未実施の検査結果を記載した事象と、実施した日常検査の実測データを確認せずに指定検査の報告書に未実施のデータを記載した事象が確認された。この要因としては、製造現場の担当者にとって意義が感じられる検査条件ではなかったことが挙げられている。例えば、過酷な条件にも耐え得る余裕のある性能を持つ開発を行っているため経年変化を考慮しても定期的な検査の必要性に乏しいと考えられる項目がある他、各製造拠点の製造条件や検査体制に合致していないなどの問題があったという。
これらのように、曙ブレーキにおける製造や開発の実情に合わせた形で検証することなく、顧客との検査条件を設定し、指定検査の検査項目、管理値、検査数、頻度、検査方法などについて、十分に実現可能な管理値や検査方法の設定がなされていなかったことが不適切行為を招いた重要な要因の1つだったとしている。
不適切行為のあった検査項目は36あったが、その内製品の性能に関わる重点項目は16あった。具体的には、パッドせん断強度(常温、高温)、ライニング接着強度、耐接線力強度、耐圧強度、シュー溶接強度、締め付け部位強度(ディスク、ドラム)、液圧耐久(ディスク、ドラム)、トルク耐久(ディスク、ドラム)、気密性(ディスク、ドラム)、摩擦係数(ディスク)、締め付けトルクである。
不正発覚後、曙ブレーキでは、対象製品の日常検査の管理データ記録解析や試験によるデータの検証(管理値との乖離データを含む)、検査未実施の現行流動製品や過去生産製品の強度、耐久性などの試験による再評価を2021年1月末まで実施。その結果、顧客と合意した製品性能を満たしていることを確認できたとしている。
検査項目の見直しや教育強化などの再発防止策
曙ブレーキでは、これらの調査結果の下、再発防止策を策定。主に「組織体制の見直しと監査機能の強化」「人の手が介在できない検査システムの導入」「検査内容と検査項目の見直し」「品質教育とコンプライアンス教育の強化」「風土改革と意識改革」の5つのポイントで取り組む。
「組織体制の見直しと監査機能の強化」では、まず「定期検査報告書」の作成から提出までのプロセスにおいて、検査および定期検査報告書を作成する製造拠点内品質管理課(第1線)、検査データと報告書結果を突合の上承認する品質保証部門(第2線)、品質保証部門の承認プロセスを監査する内部監査室(第3線)という3線ディフェンス機能を構築する。また、品質保証部に各製造拠点の品質管理課の管理監督機能を追加するなど、品質保証組織および内部監査室の人的強化を実施した。さらに、取締役会の「内部通報に関する定期報告」を半期から毎月に変更したという。
「人の手が介在できない検査システムの導入」では、検査データを自動的にデータベースへ集積するITシステムを2021年3月から導入する。データベースからの自動出力による定期検査報告書の作成を可能とするとともに、検査データに人の手が介在できないようにし、データのトレーサビリティーを確保する。
「検査内容と検査項目の見直し」については、顧客と協議の上、指定検査項目について見直しを推進する。具体的には、摩擦材における季節変動を考慮した公差の設定、日常検査の実測値データの活用、検査頻度の見直しなどを進める。
「品質教育とコンプライアンス教育の強化」は、製造品質教育の強化や、品質社内資格制度の再構築、品質専門家の育成などを行う。また、コンプライアンス教育の受講を人事評価や昇進条件に組み込むなど、コンプライアンス研修の見直しを進める。
「風土改革と意識改革」としては、「全社風土改革委員会」の設置と定期モニタリング、経営トップメッセージの定期発信、内部通報制度の実効性向上などに取り組むとしている。
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