小型GPUで高精度AIを動かすには? 運転支援デバイス開発に挑む気鋭ベンチャー:モノづくりスタートアップ開発物語(3)(4/4 ページ)
モノづくり施設「DMM.make AKIBA」を活用したモノづくりスタートアップの開発秘話をお送りする本連載。第3回はAIを使った運転支援デバイスを開発しているPyreneeを紹介する。「見た目はかっこいい」HUD型のデバイス設計や、実用に耐え得る運転支援用のAI開発に取り組む同社だったが、思わぬ苦労が待ち受ける。
小型GPUで高精度AIを動かす方法とは
――水野さんのジョイン後、AI開発が本格的に始動したのですね。苦労した点はありましたか。
三野氏 一番厄介だったのは、運転支援に求められるレベルでAI処理が可能なサイズのGPUを、どのようにデバイスに搭載するかというところでした。Pyrenee Driveでは自動運転に近いレベルで道路上の物体認識を行う必要があります。しかし、一般的に自動運転の研究で使われるようなコンピュータは、運転席前に取り付けると前が見えなくなるほど巨大です。
もう1つ困ったのは電力量で、そのような巨大なコンピュータは稼働させるのに1000〜2000Wもの電力が必要だと分かりました。私たちのデバイスは車のシガーソケットから給電するので、数十W程度の電力で稼働させる必要があります。
――その問題をどうやって乗り越えたのですか。
三野氏 申請予定の特許や協力会社のノウハウが絡むので、詳しくは説明できないのですが、精度を落とさずに、より少ない計算量で効率よくデータ処理が行える技術を開発して、それを約2年をかけてAI処理ソフトウェアの形に落とし込みました。これによって、比較的小型のGPUシステムでも十分なAI処理能力を発揮するようになりました。
精度を下げないことが大前提なので、GPUは米国半導体メーカーNVIDIA製のものを使っています。カメラも30種類以上試した結果、ソニー製のCMOSイメージセンサーを選定しました。暗所にも強く、夜道でも人間の目より周囲環境を適切に把握できます。
――2020年7月には元ソニー会長の出井伸之氏が顧問に就任したという発表がありました。いよいよ本格的にビジネス展開を始めるのですね。
三野氏 出井さんが設立したVC(ベンチャーキャピタル)のクオンタムリープのピッチ会で初めて出会い、製品の意義と将来性を見込んでいただいたのがきっかけで、今回、ありがたいことに顧問に就任いただきました。製品の量産化については、現在シャープの協力を得ながら準備を進めていまして、2021年のなるべく早い時期に発売したいと考えています。
当面は月額制でのサービス開始を予定しています。発売後に蓄積される交通や運転に関するビッグデータを、匿名化処理した上で自動運転の研究施設などに提供する事業も計画しています。データ事業で収益を得たら、その分月額料金を抑えることでユーザーに還元したいと考えています。
当社が目指すのは、「ドライバーの相棒」を開発することです。Pyrenee Driveに「眠たくなってきた」と話しかけると、「目が覚める音楽をかける? それとも目が覚めるような怖い話をする?」と返答が来る。そこで音楽を選んだら、眠気を吹き飛ばすようなヘビーメタルが流れ出す。
事故防止に貢献したり、カーナビが使えたりするという便利さはもちろんですが、「相棒」として「ドライバーを楽しませること」にもこだわっていきたいと思っています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ≫連載「モノづくりスタートアップ開発物語」バックナンバー
- IoT尿検査デバイスのBisu、技術へのこだわりが招いた試作時の失敗とは
モノづくり施設「DMM.make AKIBA」を活用したモノづくりスタートアップの開発秘話をお送りする本連載。第2回はIoT尿検査デバイスを開発するBisuを紹介。マイクロ流体技術が尿検査分野にイノベーションを起こすと確信して開発を進めた同社だが、思わぬ障害に直面する。 - 自動運転技術の研究開発での課題は? 読者調査で聞いた
MONOistはメールマガジン読者を対象に「自動運転シミュレーションについてのアンケート」を実施。自動運転技術の研究開発の進捗度や競合他社と比べたポジショニングをどう捉えているか、開発体制の課題、ボトルネックとなっている技術領域などについて調査した。 - トヨタが新型LSで4つのLiDARを採用、高速道路出口まで運転支援
トヨタ自動車は2020年7月7日、レクサスブランドのフラグシップセダン「LS」の新モデルを世界初公開した。日本での発売は2020年初冬を予定している。 - レクサスの安全システムをトヨタ車で民主化、ハード変更せずにコストを抑制
トヨタ自動車は2020年2月3日、東京都内で記者向けに説明会を開き、運転支援システムパッケージ「Toyota Safety Sense」や今後の安全システムの展開を発表した。 - トヨタとデンソーの後付け用踏み間違い防止装置、スズキでも採用
スズキは2020年8月6日、後付けで装着可能な急発進等抑制装置「ふみまちがい時加速抑制システム」を8月21日に発売すると発表した。 - 障害物なくてもペダル踏み間違いの加速抑制、トヨタが新車と後付け用で
トヨタ自動車は2020年7月1日、ペダル踏み間違いによる急アクセル時の加速抑制機能を開発し、新車向けの「プラスサポート」や、後付け装置「踏み間違い加速抑制システムII」として発売したと発表した。プラスサポートは「プリウス」「プリウスPHV」から搭載し、今後対応車種を拡大する。