薬の種類を問わず、副作用や効能を高精度に予測できるAIシステムを開発:医療機器ニュース
Karydo TherapeutiX、科学技術振興機構、国際電気通信基礎技術研究所は、ヒトでどのように作用するか確認されていない被験薬を含め、薬の副作用や有害事象、効能を高精度に予測できるAIシステム「hMDB」を開発した。
Karydo TherapeutiX、科学技術振興機構(JST)、国際電気通信基礎技術研究所は2020年1月10日、薬の種類を問わず、ヒトでの副作用や有害事象、効能を予測できるAI(人工知能)システム「hMDB(humanized Mouse DataBase)」を開発したと発表した。
hMDBは、現在流通しているさまざまな医薬品を野生型マウスに投与し、その結果得られた全身24臓器にわたる遺伝子発現パターンと、それぞれの医薬品に関して実際に報告されているヒトでの副作用や効能の情報を、AIによってひも付けることで構築したシステムだ。
同データベースに、ヒトでどのように作用するか分からない被験薬をマウスに投与して得た24臓器の遺伝子発現パターンを入力すると、その薬品におけるヒトでの副作用や効能が予測できる。
15種類の医薬品を用いて、hMDBの有効性を検証したところ、医薬品の構造や標的を問わず、副作用または有害事象5519項目について、発生の有無や頻度、既知の疾患1万1312種類に対する効能の有無を予測できることが分かった。
また、性別や年齢で層別化したヒトの副作用データを計算機に学習させることで、性別、年齢層別に副作用と有害事象の有無、発生頻度を予測することにも成功した。この層別化データを用いる予測手法は「hMDB-i(humanized Mouse Database individualized)」と名付けられた。
効能の予測については、各医薬品とそれらの投与により発生する有害事象を、hMDBにリンク予測(Link Prediction)で関連付けた「hMSB/LP法」も開発した。hMDBとhMSB/LP法は、医薬品開発において広く用いられる予測システムの1つ「LINCS L1000」(提供元:アメリカ国立衛生研究所)をはじめとする既存のAI予測システムと比較して、高い予測性能を示した。
今回開発したシステムは、医薬品の副作用や有害事象、効能を高精度に予測できたが、予測の仕組みは十分には分かっていない。今後、研究グループは、その仕組みの解明に取り組むとともに、医薬品開発に関するリスク、コストをさらに低減すべく、hMDBとhMSB/LP法の次世代バージョンの開発を進めていく。
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