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イノベーションを生む「デザインマネジメント」の力とは【前編】製造マネジメントインタビュー(1/3 ページ)

「デザインが経営を革新する」というと、少し大げさだと思うだろうか。しかし、実際に「デザイン」を基軸にして新たな視座に立つことにより、多くの事業革新につながるケースがあるという。「デザインマネジメント」を切り口に多くの企業の事業革新に携わるエムテド 代表取締役の田子學氏に話を聞いた。

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 高級食器を扱う鳴海製陶の「OSORO(オソロ)」、建築金物を扱うキョーワナスタのLaundryシリーズ「nasta」など、従来とは全く異なる新規事業を「デザイン」によって切り開くケースが増えてきている。これらの事業展開をディレクションしているのがエムテドだ。エムテドは「デザインマネジメント」の観点で、企業価値の向上を目指している。

 「デザインマネジメント」とは何なのか。また、具体的にどういうことを行うのか。エムテド 代表取締役の田子學氏のインタビューを【前編】【後編】の2回に分けてお送りする。




モノづくりにおける「デザイン」の意味とは何か

MONOist 「デザイン」と「マネジメント」はそれぞれでは理解できますが、「デザインマネジメント」となると、どういうことを指すのでしょうか。

田子氏  例えば、モノづくりにおいてデザインはあらゆる工程に関わっている。製品外観のデザインだけではなく、最初の企画段階、システムやインタフェース、コミュニケーション、など多くの部分に関連している。しかし多くは、企画当初の「文脈」を踏襲してデザインが全うされない。結果、届けるべきメッセージが発信できていない製品が、多いように感じる。企画当初の意図がきちんと伝わらないと、新たな価値を発信するのは不可能だ。

田子氏
エムテド 代表取締役の田子學氏。東京造形大学II類デザインマネジメント卒業。東芝デザインセンター、リアル・フリートを経て、2008年エムテドを立ち上げる。現在は幅広い産業分野のデザインマネジメントに従事。高級食器の鳴海製陶の新ブランド「OSORO」や建築金物を扱うキョーワナスタのランドリーブランド「nasta」などを手掛ける。デザインを社会システムの一部として活用してもらうことをモットーに、さまざまな要素の関係性を統合的に捉えた戦略によって、個別最適化ではなく全体適正化が成り立つコンセプトメイクからブランドの確立を視野にいれたデザインで実績を残す。

 「なぜその製品を作ろうと考えたのか」「どのように形にするのか」「どのように消費者へ届けるのか」など、さまざまな要素を一気通貫で捉えることができないと、最終的に意図が伝わらないおかしなモノづくりになる。デザインに関わる人々が“伝言ゲーム”を繰り返すうちに、コンセプトが崩れていくという構造だ。

 しかし、世の中を見ると一貫したデザインを実現する企業も存在する。例えば象徴的なのが米国アップルであったり英国のダイソンだったりするわけだが、これらの企業の製品は明快にコンセプトが伝っていて、強いメッセージを感じることができる。一方で多くの日本企業ではこういう発信が苦手なように見える。「この違いの原因は何か?」その回答の1つは「一連のデザインワークに対しディレクターがいるか? いないか?」ということだ。さらに言えばディレクターは、「技術」と「デザイン」の両方が経営資源であるということ、双方を活用する意思がある、という観点が必要だ。

 「経営戦略にデザインを」と広く語られるようになるなど、現在「デザイン」という言葉の解釈は大きな広がりを見せている。デザインは単に物質的な外観などの価値だけではなく、企業価値やブランドに直結する知財そのものだ。しかし、どうしても日本の大手製造業はデザインを「モノ基準」でしか見ていないところが多い。日本企業によるイノベーションが起こりにくい要因に、そういった面も影響しているように感じている。

 デザインとは、突き詰めて考えると「社会的課題を産業で解決する仕組み」だといえる。社会システム、システムを構成するモノ、モノによる体験がもたらすブランド構築、それらを最適化して提供する手段の1つがデザインであり、それをマネジメントするのが「デザインマネジメント」だ。

 ブランドとはいろいろな事象が多面的につながって構築される。そのプロセスにおいては「デザイン」が必要になる。物質的なデザインに加え、組織や人の在り方、プロジェクトの進め方なども関係している。望ましいプロジェクトの推進の姿は、最適にチームを運営することや、モノやサービスの提供の仕方に至るまで、一連のストーリーがいかに美しく整っているかでもある。そういうデザインを基軸にしたマネジメントが日本ではまだまだ足りないと感じる。

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