その製品が売れないのは「良くないから」だ――一橋大学米倉教授:製造マネジメント インタビュー(1/3 ページ)
日本の製造業の競争力低下に対する危機感が叫ばれているが、競争力を生み出すイノベーション創出にはどのように取り組むべきだろうか。イノベーション研究の第一人者である一橋大学イノベーション研究センター教授の米倉誠一郎氏に聞いた
グローバル競争が加速し主要製品のコモディティ(一般商品)化が進む中、イノベーションの重要性が指摘されている。イノベーションは日本語では「革新および革新的商品」と訳されているが、本来の意味は「社会・経済に対し新しい価値をもたらすこと」。「日本人は新しい技術だけがイノベーションだと思いがちだが、それが間違いの原因だ」と一橋大学イノベーション研究センター教授で、プレトリア大学GIBS日本研究センター所長の米倉誠一郎氏は語る。
日本企業がイノベーションが生み出しにくくなってきた問題点はどういうものがあるか、また今後組織的にイノベーションを創出していくにはどういう手段があるか。イノベーション研究の第一人者である米倉氏にインタビューした。
イノベーションは技術だけではない
MONOist 日本企業のイノベーションへの取り組みについてどう考えていますか。
米倉氏 日本の製造業は特にイノベーションの考え方が狭いことが問題だ。イノベーションは本来「社会・経済に新しい価値をもたらすもの」で、その手段は「新製品開発」だけではなく、「新生産方法」「新マーケット」「組織の改革」など、さまざまなものが考えられる。
例えば、垂直統合型が主流だったPC産業に水平分業型で直接販売と受注生産の組み合わせた「デルモデル」というビジネスモデルを作り上げた米デルの例は、生産方法のイノベーションだと言うことができる。
また、ジェイアイエヌのPC用眼鏡「JINS PC」は、LEDディスプレイのブルーライトをカットする技術面や商品面でのイノベーションである一方、「目が悪い人」市場以外にも眼鏡を掛ける市場を作ったという意味で、市場面でのイノベーションとも言うことができる。
日本企業はどうしても技術や製品でのイノベーションを考えがちだ。結果として必要のない機能や技術追求だけが進み、顧客が本当に求めるところではない部分で競争している。国際競争力が落ちイノベーションが生み出せないという理由にはそういう点が関係している。
また、日本市場を重視し過ぎたというのも日本企業をイノベーションから遠ざける結果となった。バブル期は日本市場が企業にとって非常に“おいしい”市場になっていた。本来はそこで蓄えたリソースをグローバルで展開し、世界でのポジションを確立すべきだった。しかし各社が国内市場に傾注した結果、競争の幅は狭くなり、コモディティ化、価格競争激化を招き、企業全体の疲弊につながっている。
売れない製品は全て「悪い製品」
MONOist イノベーションにどう取り組むべきだと考えていますか。
米倉氏 企業の技術者に会うと「どうしてこんなに良い製品なのに売れないのだろう」と言っている人がいる。しかし、答えは非常に簡単でそれが「良くない製品」だから売れないのだ。「良い製品」か「悪い製品」かを決めるのは技術者でなく、企業でもなく顧客だ。その顧客が求めるものを再現できていないから、売れない。期待通り売れていない製品は全て何らかの問題を抱えていると考えた方がいい。
そういう顧客視点が欠如しているために、不必要な技術競争に走る。しかし技術を追い求めても売れないであれば、他の要素が足りないということに気付くべきだ。
顧客視点を企業として持つためには、顧客に聞くしかない。また今までにない領域へのチャレンジであれば技術者の想像力に任せるしかないだろう。
ただ現在の状況をみるとイノベーションは単発の技術では生まれにくくなっている。また技術革新を行ってもすぐに似たような技術で追随され、コモディティ化していく。例えば、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)などのように、幾つかの技術を組み合わせて最適な効果を生み出す形だ。単発の製品ではなく、システム化、サービス化も含めたモノづくりが必要だ。
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