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その製品が売れないのは「良くないから」だ――一橋大学米倉教授製造マネジメント インタビュー(2/3 ページ)

日本の製造業の競争力低下に対する危機感が叫ばれているが、競争力を生み出すイノベーション創出にはどのように取り組むべきだろうか。イノベーション研究の第一人者である一橋大学イノベーション研究センター教授の米倉誠一郎氏に聞いた

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イノベーションを生む組織と仕組み

MONOist イノベーションを組織的に生み出すことは可能なのでしょうか。

米倉氏 確かにイノベーションは体系的に生み出すことはできないし、今法則が存在していないからこそのイノベーションだ。そのため「イノベーションは闇研から生まれるものだ」というようなことも言われているが、それは誤解だ。仕組みを作り、予算を付けることで、イノベーションを組織的に生み出していくことは可能だ。

 例えば、米3Mや米Googleなど欧米企業では実際に導入されているが「労働時間の一定量を好きな研究に充てる」という規則を作ることも1つの解決策になるだろう。研究開発費の売上高における比率を決めることも1つのやり方だ。イノベーション専門部門を作るのもいいかもしれない。

米倉氏
「イノベーションが必要ならそれに伴う組織と予算を用意すべきだ」と語る米倉氏

 また事業部にノルマを課すことも検討すべき方法だろう。例えば「事業部の売上高目標の3割は既存ビジネス以外から得る」というようなノルマがあれば、事業部長は事業部内および企業の研究開発部門から新たなビジネスの芽を探すようになるだろう。新たなビジネスにチャレンジするうちに必然的にイノベーションを起こす確率も高くなる。

 これは、現在の競争社会において企業を運営していく上で必要な考え方だ。ビジネスの変化が激しい環境の中で「既存ビジネスを守る」という考え方では、今は良くても早晩競争に負けることになる。「リスクを取らないことがリスク」の時代になっている。

 企業としての考え方を「過去の遺産を守る」から「新たなチャレンジ」という方向に変えていくことが必要だ。そのためには組織としてそれを奨励する仕組みを作らなければならない。欧米企業は既にそういう取り組みで成果を出している。もし、「イノベーションが必要だが出てこない」と思うであれば、それに伴う組織と予算を用意するべきだ。

失敗は共有することが重要

MONOist 研究開発費用は成果が出るか出ないか分からない領域も多く、予算を掛け続けることに難しさもあります。リスクとのバランスをどう考えますか。

米倉氏 基本的には、研究開発費用をしっかり継続的に掛けられれば、何らかの成果が出るものだと考えている。きっちりした制度設計を行ってさえいれば解決する問題だ。

 例えば、3Mの例がある。3Mは新規研究開発において「失敗の責任は問わない」という方針を貫いている。ただし、そのプロセスについてはドキュメントとして公開することが条件だ。

 プロセスをドキュメントに残すことには2つの意味がある。1つはドキュメントとして残すことを考えるので慎重になる。もう1つは失敗の蓄積が行えることだ。過去の失敗を把握することで、同じ失敗をしないということはもちろん、要件を分析し蓄積しておくことで、障害がクリアされたときに再度チャレンジすることが可能になる。技術的な課題が明らかになることで、効率的な研究開発を行える。

 日本企業はこういう技術経営の面で問題を抱えている企業が多い。例えば、某大手電機メーカーでは、新たな研究開発プロジェクトのキックオフミーティングは非常に多いものの、クロージングミーティングを行わないという話を聞いた。これでは、失敗を含めた技術的な蓄積が共有されない上に、同じ失敗を何度も繰り返す可能性がある。失敗を勉強することで、企業としては多くの財産を得ることができる。

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