その製品が売れないのは「良くないから」だ――一橋大学米倉教授:製造マネジメント インタビュー(3/3 ページ)
日本の製造業の競争力低下に対する危機感が叫ばれているが、競争力を生み出すイノベーション創出にはどのように取り組むべきだろうか。イノベーション研究の第一人者である一橋大学イノベーション研究センター教授の米倉誠一郎氏に聞いた
日本企業は「負の意思決定」に慣れていない
MONOist イノベーションへの企業のアプローチとして「オープンイノベーション」が注目を集めていますが、どう考えますか。
米倉氏 オープンイノベーションはイノベーションへの取り組みとして1つの有力な方法だ。これだけ技術の変化が激しく多岐に渡る中で、全ての技術開発を自社内で行うことは不可能だ。そのため自社の要素技術や強い技術を社内に残し、それ以外を外に求めるというような取り組みが必要になる。
オープンイノベーションに取り組む上で1番の問題となるのは、社外の技術についてよりもまず社内の技術だ。自社内にどういう技術があって、優先順位がどうなっているか、という技術の棚卸ができていない企業が多い。そのためどういう技術は社内で守り、どういう技術を外に求めるのか、という経営判断ができない。まず自社内で戦略的に技術が管理できない場合はオープンイノベーションは難しいだろう。
日本企業は、高度成長期以来ずっと右肩上がりで成長してきたため、多くの社員が成長に基づいた方法以外知らない。経営陣も低成長時代にどういう手を打てばいいのか経験したことがない。ずっと「正の意思決定」だけしていればよかった。しかしこれからは、常に成長する時代というのは2度と来ないため、「正の意思決定」とともに「負の意思決定」をセットで考えていかなければならない。技術を選択し優先順位を付けるということもその流れの一環だ。
MONOist 世界で通用する日本企業の強みはどこにあると思いますか。
米倉氏 きっちりしたモノを作るモノづくり力、ボトムアップの改善につながる現場力などは今でも世界に比べて強さを保っている。また分野的には素材分野は非常に強いと考えている。大手企業はもちろんだが、人工のクモの糸の量産に成功したベンチャー企業のスパイバーなど、ベンチャー企業でも有望な企業が数多く出てきている。
ただ日本企業の強みは多いものの、それを生かす経営力が弱い。そのためこれらの強みをうまく企業の収益に結び付けられていないように思う。
例えば、スイスの時計メーカーであるフランク・ミューラーは、老舗のブランドだと思われがちだが、実は創業は1991年。日本の時計メーカーよりはるかに若い企業だ。しかし、独自のデザインで高級路線を追求し、高級時計ブランドとして存在感を築いている。
フランク・ミュラーの時計は、時間がよく狂う。1年間で数秒遅れるケースもある。一方で日本の時計メーカーの電波時計は10万年に1秒しか狂わないとうたっている。しかしそんな時計が数万円程度で売られている。機能としては負けているフランク・ミュラーの時計は100万円以上だ。この差は何なのか、ということを経営者はもっと考えた方がいい。せっかくの技術力が生かされていないことに気付くはずだ。
今必要最低限のものはほとんど形としては周辺にあるような時代になった。その中では顧客に「エキサイトメント(興奮や感動、またそれを呼び起こすもの)」を提供する必要がある。「誰に何を届けるのか」ということを煮詰めて考えなければ、イノベーションは生まれない。技術や機能だけでもなく、もっと幅広い視野で方向性を定めていく必要がある。
世界同時開発を推進するには?:「グローバル設計・開発コーナー」
世界市場を見据えたモノづくりを推進するには、エンジニアリングチェーン改革が必須。世界同時開発を実現するモノづくり方法論の解説記事を「グローバル設計・開発」コーナーに集約しています。併せてご参照ください。
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