検索
連載

イノベーションを生む「デザインマネジメント」の力とは【後編】製造マネジメントインタビュー(1/3 ページ)

「デザインマネジメント」を切り口に多くの企業の事業革新に携わるエムテド 代表取締役の田子學氏のインタビューを通じてデザインがもたらすイノベーションとは何かを伝える本企画。後編では実際にデザインマネジメントによりどういう事業革新が行われ、何が起こったのかという事例を紹介する。

Share
Tweet
LINE
Hatena
mted

 エムテド 代表取締役の田子學氏のインタビューを通じてデザインがもたらすイノベーションとは何かを伝える本企画。「デザインマネジメントとは何か」を紹介した【前編】に対し、【後編】では鳴海製陶の「OSORO(オソロ)」、建築金物を扱うキョーワナスタのLaundryシリーズ「nasta」など、デザインマネジメントにより事業革新が成功した事例について紹介する。

【前編】はこちら




経営とクリエイティブをつなぐ

MONOist 「デザインマネジメント」で事業を変革するということは、どういうきっかけで始めたのですか。

田子氏 デザインマネジメントそのものはインハウスデザイナーの時から意識していたが、1つの成功事例は、高級食器を扱う鳴海製陶の新ブランド「OSORO(オソロ)」だ。鳴海製陶は、ボーンチャイナ※)という種類の高級食器が主力の製品だ。しかし、高級食器の利用範囲が限られる中、新たな製品作りに悩んでいたところだった。そこで、コンサルティング企業が入っていろいろ動く体制を作っており、その中でクリエイティブ担当として声を掛けてもらった。正直に言えば、当時手掛けていたモノと全く異なる業界であるため、分からない点も多かったが、だからこそ新たな可能性が広がるかもしれないと考え、最終的に引き受けることを決めた。

※)ボーンチャイナ:原料に牛のボーンアッシュ(骨灰)を加えた磁器。素地が薄くても強度があり、乳白色の滑らかな表面に繊細な絵などを描き込むことが可能。

OSORO
鳴海製陶の「OSORO」。電子レンジや冷蔵庫などでも利用可能でコンパクトに収納できる特徴を持つ。高級食器「ボーンチャイナ」の高級感を維持しながら、普段使いでの利便性を兼ね備えている(出典:鳴海製陶)

 その時に1つ条件を出した。経営陣と直結して話ができる環境を用意してもらうことだ。クリエイティブ担当だからといってデザイン部門とだけ仕事をするのであれば、手を入れられる部分は限られている。経営とクリエイティブをつなぐ役割がやりたいということを訴えた。

 仕事を始めた最初の頃、役員会の場でブランドを作るということやデザインについての本質をプレゼンテーションする機会を設けてもらった。世間一般的に多くの経営層がデザインを狭義の意味でしかとらえていないのが実情だからだ。【前編】で「デザインは物質的な外観などの価値だけではなく、企業価値やブランドに直結する知財そのもの」という話をしたが、経営者も“自分のこと”として積極的に参加しなければ「自分たちが説明できない製品を売っていますよ」と宣言しているようなものだ。「どういう企業体でどういうこだわりや誇りを持ち、こういう考えを持っているからこそ、このモノの形なんだ」ということが言えなければ、経営陣としての責任を放棄しているも同然だ。「そういう認識から変えていきましょう」ということを訴えて、最終的に新ブランド「OSORO」の誕生に行きついた。

ボーンチャイナの価値と課題

MONOist どういうプロセスを経て、新しい製品ブランドを生み出したのですか。

田子氏 プロセスそのものは単純だったが、実現には多くのハードルを乗り換えなければならなかった。

 鳴海製陶はボーンチャイナを作るメーカーだ。ボーンチャイナは繊細で美しい形のモノを作れるということが特徴だ。しかし一方で、電子レンジやオーブン、食器洗い機に入れられないという課題を抱えている。現在“日常使い”の場面で食器を電子レンジや食器洗い機に入れられないと説明すると難色を示されることも多い。高級食器という位置付けであればいい。しかし、高級食器に憧れを持つ消費者が少数派になっていることを考えると、現代なりの解釈でモノづくりをしないとどんどん“古い会社”になってしまう。

 新製品を作る中で「自分たちの未来を切り開く商材は何か」というワークショップを行った。その中で見えてきたのは「現代のママが楽しくて、使い心地が良くて、それがあることでうれしくなるような食器」ということだった。“日常使い”という文脈には当てはまりにくいとはいえ、新たなコンセプトの本質的な部分は、素材がボーンチャイナであっても通じる部分であることが分かった。

 鳴海製陶の食器は艶やかで美しく精度が高いことが高い評価を受けていた。ホテルやレストランで多く愛用されているのだが、その理由の1つとして「積み上げた時のたたずまいがきれいだから」という理由があった。それは強みであり誇りでもあったからこの文脈に沿った新しい商材を作れたら、それは鳴海製陶の理念を踏襲した上で新たな市場を作れるんじゃないか、と考えた。先ほどのコンセプトに「積み上げた時に美しい」という要素を加えるコンセプトが徐々に固まってきた。

 しかし「日常で使えない問題をどうするか」という課題は残された。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

       | 次のページへ
ページトップに戻る