工場を悩ませる二大課題「人手不足」と「脱炭素」 部門を超えた連携が製造現場の進化を生み出す製造業DX

国内製造業の工場を悩ませる「人手不足」と「エネルギーの最適利用」への対応は個別最適ではもはや限界を迎えつつある。両課題に対応する部門の壁を超えた全体最適こそが解決の糸口になるだろう。

» 2025年09月04日 10時00分 公開
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 国内製造業を取り巻く課題は多岐にわたるが、中でも工場などの現場で共通項となっているのが次の2つだろう。

 1つは、生産年齢人口減少に伴う「人手不足」だ。経済産業省が公表した「2024年版ものづくり白書」によれば、製造業の有効求人倍率は約1.26倍。2018年に1.64倍を記録した後、コロナ禍を経てそこから低下したものの人手不足は慢性的に続いている。特に、現場に立つフロントラインワーカーの減少が著しい。全就業者に対する34歳以下の若手就業者数の割合も、2000年代に30%を切ってから現在は24.5%程度まで減少している。

 もう1つは、脱炭素化に向けた「エネルギーの最適利用」である。2000年代から地球温暖化対策に向けた取り組みが進んでいるものの、一方ではAI(人工知能)技術の普及に伴い電力需要が増加しており、2050年のカーボンニュートラル達成に向けては、さらなる省エネや創エネに対する施策が求められる状況にある。企業のSDGs(持続可能な開発目標)の達成でも重要な役割を担っており、ESG(環境、社会、ガバナンス)視点でも企業価値を左右すると言っても過言ではない。

機械学習で熟練者の計画業務を再現する「MLCP」

※MLCP:Machine Learning Constraint Programming

 日立製作所(以下、日立)は、長年にわたる自らのモノづくりの知見やノウハウを生かした多様なソリューションを製造現場に提供することで、これら2つの課題解決にアプローチしている。

 人手不足への対応で貢献しているのが「Hitachi AI Technology/計画最適化サービス(以下、MLCP)」である。「状況に応じて計画を組み替える。デジタル化したのは職人の“機転”です」という製品コンセプトを掲げ、さまざまな製造現場で計画業務に当たっている熟練者の経験やノウハウをシステム上で再現することで、最適化された計画を即座に立案することが特徴だ。

日立 インダストリアルAIビジネスユニット インダストリアル事業統括本部 ソリューション&サービス事業部 産業第2ソリューション本部 産業第4ソリューション部の滝口偉氏 日立 インダストリアルAIビジネスユニット インダストリアル事業統括本部 ソリューション&サービス事業部 産業第2ソリューション本部 産業第4ソリューション部の滝口偉氏

 日立 インダストリアルAIビジネスユニット インダストリアル事業統括本部 ソリューション&サービス事業部 産業第2ソリューション本部 産業第4ソリューション部の滝口偉氏は、MLCPを次のように説明する。

 「一口に製造現場の計画といっても生産計画や要員計画など多々あり、それぞれの課題を整理した上で、実際に熟練者がどのように計画を立てているのかというノウハウの所在を明確にします。統計手法によって熟練者が独自に持つ計画パターンを抽出する『制約インタプリタ』と、さまざまな制約条件ならびに熟練者の計画パターンを考慮して最適な計画を作成する『数理最適化エンジン』の日立独自の2つのエンジンを活用し計画立案業務の最適化を支援します」

 このようにMLCPは、さまざまな計画に対してそれぞれの課題を整理した上で、2つのエンジンを活用して計画を最適化できる高い汎用性を有していることから、業種や計画種別を問わず、多くの製造業で導入が進んでいる。2017年にリリースされたMLCPは、現在まで4カ国の60サイト、合計88計画に適用されている。滝口氏は「食品メーカーや化粧品メーカー、自動車部品メーカーなど、組み立て系からプロセス系まで幅広い製造業のお客さまに採用をいただいています」と語る。

「MLCP」の特徴 「MLCP」の特徴[クリックで拡大] 提供:日立

エネルギーと設備の最適な運用を支援する「EMilia」

※EMiliaは、株式会社日立製作所の登録商標です。

 一方の課題である「エネルギーの最適利用」に貢献してきたのが、統合エネルギー・設備マネジメントサービス「EMilia」だ。工場内のさまざまな施設やシステムを接続し、エネルギーと設備の最適な運用を支援するプラットフォームを提供する。

日立 インダストリアルAIビジネスユニット インダストリアル事業統括本部 ソリューション&サービス事業部 産業第2ソリューション本部 産業第4ソリューション部の竹下紀之氏 日立 インダストリアルAIビジネスユニット インダストリアル事業統括本部 ソリューション&サービス事業部 産業第2ソリューション本部 産業第4ソリューション部の竹下紀之氏

 日立 インダストリアルAIビジネスユニット インダストリアル事業統括本部 ソリューション&サービス事業部 産業第2ソリューション本部 産業第4ソリューション部の竹下紀之氏はEMiliaについて次のように説明する。

 「EMiliaは、製造業におけるエネルギー管理業務の効率化および最適化を実現するために開発したソリューションです。日立はエネルギーシステムの豊富な導入実績を有するとともに、自らも省エネ実施を支援するエネルギーサービス事業のESCOを手掛けてきました。これらの事業で培ってきた設備管理の高度なノウハウを最大限に生かすことで、製造現場における省エネ活動の促進、エネルギーの需要予測、発電設備や空調設備の効率的な制御などを支援する機能を提供しています」

 なお、2015年にリリースされたEMiliaは既に10年以上の実績を有しており、導入実績は75サイトに上る。電力をはじめとするエネルギーに関わる施設や設備、システムを所有/運用している企業であれば、業界業種を問わず利用できる。竹下氏は「EMiliaは製造業以外のお客さまにも幅広くご採用をいただいています。病院やオフィスビル、チェーンストア、ショッピングモールの他、再開発地域といったかなり広域な街区全体のエネルギーマネジメントを支える統合プラットフォームとして導入された事例もあります」と述べる。

「EMilia」の特徴 「EMilia」の特徴[クリックで拡大] 提供:日立 ※EMiliaは、株式会社日立製作所の登録商標です。

生産計画とエネルギー計画を掛け合わせた全体最適を実現する「TSPlanner」

※TSPlannerは、株式会社日立製作所の登録商標です。

 もっとも、国内製造業を取り巻く環境は厳しさを増しており、少子高齢化は加速度的に進むとともに脱炭素化に対する要求も高まる一方だ。

 その意味でも各社には、さらに一歩踏み込んだ対応が求められる。これまでは「人手不足」については生産管理部門、「エネルギーの最適利用」についてはエネルギー管理部門がそれぞれ対応していた。しかし、こうした個別最適の取り組みは限界を迎えており、得られる効果も“頭打ち”となっている。生産管理部門とエネルギー管理部門のKPI(重要業績評価指標)が競合し、ときには部門ごとのKPIが優先されるため全体最適が進んでいないのだ。

 人手不足とエネルギーの最適利用という2つの観点から製造業の在り方そのものを変える必要があり、社内に潜む“構造的な壁”を払拭しないことには、次世代の工場に向けた進化を促進できない。

 こうした新たな課題を捉え、日立が2025年3月に発表したのが計画連携ソリューション「TSPlanner」である。

日立 インダストリアルAIビジネスユニット インダストリアル事業統括本部 ソリューション&サービス事業部 産業第2ソリューション本部 産業第4ソリューション部の正木祐樹氏 日立 インダストリアルAIビジネスユニット インダストリアル事業統括本部 ソリューション&サービス事業部 産業第2ソリューション本部 産業第4ソリューション部の正木祐樹氏

 日立 インダストリアルAIビジネスユニット インダストリアル事業統括本部 ソリューション&サービス事業部 産業第2ソリューション本部 産業第4ソリューション部の正木祐樹氏はTSPlannerを次のように紹介する。

 「日立が新たに開発したAIエンジンを活用することで、社内の複数部門を横断した生産計画とエネルギー調達計画の最適化を実現します。これまで多くの製造業は生産効率を向上するための計画策定に主眼をおいてきましたが、TSPlannerでは生産計画を立案する際に同時にエネルギー効率や環境負荷低減も考慮します。これにより生産計画の最適化のみならず、省エネや創エネ、CO2排出量削減にも寄与する総合的なソリューションを提供します」

 さまざまな制約条件を加味して生産計画を自動立案するシステムと、エネルギー消費量の低減を支援するシステムを連携させることで、エネルギー効率を考慮した生産計画を自動的に立案するのである。

「TSPlanner」の仕組み 「TSPlanner」の仕組み[クリックで拡大] 提供:日立 ※TSPlannerは、株式会社日立製作所の登録商標です。

 実際にTSPlannerはどのような形で製造現場に適用するのだろうか。

 「第1ステップとして過去の生産データとエネルギーデータから相関関係や因果関係を分析し、効果検証します。その結果、投資対効果が高いと判断されたなら、第2ステップとして実際の業務に即した詳細な生産計画ならびに利用エネルギーの制約条件/評価指標などヒアリングし、コアロジックを作成します。そして第3ステップとして、このコアロジックを組み込んだ計画立案システムを構築して実用化に向かいます」(正木氏)

「TSPlanner」の導入ステップ 「TSPlanner」の導入ステップ[クリックで拡大] 提供:日立

 なお、日立はTSPlannerのリリースと同時に、住友化学との協創による検証を開始している。多様な化学製品を生産する住友化学では、大規模なエネルギー管理と複雑な生産計画の立案の両立をめざした。しかし、生産計画部門とエネルギー管理部門では意思決定プロセスや使用システム、業務フローが異なっていたことから、工場全体のエネルギー効率を考慮した生産計画の立案が困難だった。加えて合成樹脂の生産計画の策定および変更に伴う調整は、熟練者が経験/ノウハウを基に手作業で行っており、業務負荷の軽減と脱属人化が急がれていた。

 今回の事前検証はこの課題解決に向けた効果を実証するもので、住友化学の千葉工場(袖ケ浦地区)において実際にTSPlannerを適用することで、エネルギー消費量を一定量削減できることを確認できた。

住友化学が「TSPlanner」の横展開に向けた検討を開始

 住友化学では上述の検証結果を受けて第2ステップのコアロジック作成に乗り出すとともに、国内6工場への横展開に向けた検討を開始している。

 こうした成果の発表も大きな契機となって、TSPlannerはさまざまな製造業から注目を集めるところとなり、多数の引き合いが寄せられる中、既に数社が第1ステップの効果検証に着手しているという。正木氏は「省エネの要素は各施設や設備の日々の運転だけでなく、計画の中にも潜んでいます。その意味でもまだ“伸びしろ”があるエネルギー効率化の可能性をTSPlannerから見いだし、広い製造業のお客さまに提示していきます」と意気込む。

 この効果はMLCPやEMiliaのビジネスにも波及する。

 MLCPを担当する滝口氏は「TSPlannerが登場したことで、人手不足への対策とエネルギーの最適利用を包括したトータルソリューションをお客さまに提供することが可能なりました。先に述べた通り、MLCPは過去8年間で60サイトへの導入実績を上げてきましたが、今後はこれを上回るペースで拡販を加速していきます」と強調する。

 EMiliaを担当する竹下氏も「TSPlannerによって可能となる生産情報との連携により、必然的にEMilia自体の提供価値も飛躍的に向上します。特に製造業において生産管理とエネルギー管理は表裏一体の強い因果関係があり、お客さまが本来求めていた全体最適のソリューションを、満を持して提供することが可能となりました。EMiliaとしても決して後れを取るわけにはいきません」と述べ、TSPlannerならびにMLCPと足並みをそろえたビジネス展開にアクセルを踏み込んでいく考えだ。

 TSPlanner、MLCP、EMiliaが三位一体となった展開は、フロントラインワーカーの減少を中心とした人手不足、企業のSDGs達成に向けたエネルギーの最適利用という製造業の2つの課題の解決に大いに貢献しそうだ。

左から、日立の滝口偉氏、正木祐樹氏、竹下紀之氏 左から、日立の滝口偉氏、正木祐樹氏、竹下紀之氏。「MLCP」「TSPlanner」「EMilia」により、人手不足への対策とエネルギーの最適利用を包括したトータルソリューションを推進する

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提供:株式会社日立製作所
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2025年10月3日