製造業を中心にエッジAIの需要が高まっているが、依然としてスムーズに導入できるとは言い難い状況にある。そこで紹介したいのがエッジAI導入のハードルを大幅に下げるインテルの「 OpenVINO(TM) ツールキット」だ。
業種業界を問わず、あらゆる企業でAI(人工知能)活用の動きが広がっている。製造業のここ数年のトレンドでは「エッジAI」の需要が着実に高まっている。特定の業務について学習済みのAIモデルを活用し、工場や倉庫など現場により近い場所に置いたエッジデバイスで推論を実行する仕組みだ。
エッジAIの導入については「2022年ごろから徐々に増加しており、2025年後半から本格的に加速する」と言われている。ある調査では、エッジAI市場が対前年比で2桁成長しているという動向が示されている。エッジAIの用途についても、これまでは生産ラインにおける異常検知や状態監視が中心だったが、現在ではカメラと連携した外観検査や人流/人物解析、侵入検知といった分野から装置のAI自動操業にも拡大している。
エッジAIの伸長の背景には、経営層の意識の変化もありそうだ。少し前まで、AIと言えば多くの経営者にとって「どこか得体の知れない技術」「自分たちには縁のない先端技術」「高度な知識を持った専門家がいなければ使いこなせない技術」「活用したいが何から手を付けていいのか分からない」という認識だった。これが昨今のAIブームによって「自分たちも何かしら活用しなければ取り残されるのではないか」という危機感に変わっている。
東京エレクトロンデバイス EC BU クラウドIoTカンパニー IAソリューション部 セールスグループ グループリーダーの河内卓氏は「トップダウンで予算が付けられ、当社に引き合いをいただくケースも増えています」と語り、ある素材メーカーにおける次のようなケースを紹介する。
その企業の工場が行っている原材料の加工処理には非常に危険なプロセスが存在している。過去には爆発事故を起こすなど、作業者の命をも脅かしかねない重大なリスクを抱えていた。そうした中で経営層が着目したのが、エッジAIを活用した既存装置のAI自動操業だった。
本来であればカメラやセンサー、計測器などで状態を監視するところから始めるが、非常に高温で粉じんなどが舞う環境に装置自体を設置するのは不可能であるため、熟練作業者の勘と経験に基づいて周辺環境の変化などの異常を察知していた。こうした人に依存した判断には常に間違いを起こすというリスクがあり、そもそも熟練作業者が現場にいないと判断さえできない。「同業のプラントなどでも頻発している事故を目の当たりにして社長決済で予算が付けられ、製品の外観検査においてエッジAI導入の取引実績があった当社に白羽の矢が立てられました」(河内氏)
もっとも、前述のようなエッジAI導入のケースは製造業全体としてはまだ少数にとどまっている。河内氏によれば、エッジAI導入に際して企業が直面する壁は大きく分けて2つのパターンがあるという。
一つは、エッジAI導入を内製化しようとしてぶつかる壁だ。社内人材の主導でエッジAIの導入や運用ができれば理想的だが、そのためにはAIのアルゴリズムなどを熟知したデータサイエンティストとまではいかなくても、ソフトウェア開発に精通した人材は不可欠だ。「一部の大企業を除き、特に中堅・中小規模の製造業に在籍しているソフトウェア人材は極めて少数で、AIモデルの開発から実装まで内製で行うのはハードルが高いと言わざるを得ません」(河内氏)
ならば「ソフトウェア人材を新たに採用してはどうか」と考えるかもしれないが、これはさらに困難だ。ソフトウェア人材はあらゆる業界で引く手あまたの状況で獲得競争が激化しており、すぐに人材を採用できる可能性は低い。
社内人材の育成も困難だ。多くの製造業は慢性的な人手不足の状況にあり、ギリギリの人数で生産を維持している中、多くの時間とコストをかけてソフトウェア人材を育成する余裕はない。
もう一つは、エッジAI導入を東京エレクトロンデバイスなどのソリューションプロバイダーに任せようとしてぶつかる壁だ。内製化が無理となればこの方法を選ぶしかないのだが、どうしても“丸投げ”になりがちだ。「発注する企業自身がAIの特性や限界を十分に理解できていないケースが想像以上に多いのです。漠然とした課題は持っていても、AIを活用することでそれをどう解決するのかというイメージがないことから要件定義は非常に粗くなり、開発を請け負うソリューションプロバイダー側にはハードとソフトの両方の知見を持ち合わせている必要があります」(河内氏)
製品の外観検査にエッジAIを適用するといった、比較的よくあるケースでもこの問題は発生している。「品質管理の担当者が目視で行っている良/不良の判定をAIに置き換えたい」という依頼からスタートするのだが、ソリューションプロバイダーと打ち合わせを重ねる過程で、生産現場から「異常を検知するためには製品の表面だけでなく裏面や側面も見る(カメラで撮影する)必要がある」「素材が変わった場合でも対応できるようにしてほしい」「めったに起こらないレアケースではあるが、○○の状況も無視できない」など、新たな要件が次々に出てきてゴールがなかなか定まらない。
結果として、取りあえず思い付いたパターンを次々に試しながら要件や仕様を固めて行くといった、無限に続く「PoC(概念実証)地獄」に陥る。「コストがどんどん膨らみ、試したパターンの中で実用化のめどが立つのはごく一部に過ぎません。結果として要件が固まらず、プロジェクト自体が立ち消えになってしまうこともあります」(河内氏)
そこで注目されているのがインテルの「 OpenVINO(TM) ツールキット」だ。
東京エレクトロンデバイス EC BU EC技術本部 第三技術部 エンジニアリングプロフェッショナルの坂田雅昭氏は、 OpenVINO(TM) ツールキットの概要を次のように説明する。
「端的に言うと、学習済みのAIモデルを基に多様なエッジデバイスで推論処理を高速実行するツールキットであり、無償でありながら商用でも利用できることがメリットです。TensorFlow やPyTorchなどのAIフレームワークを使用して自前で構築したAIモデルだけでなく、数百種類におよぶ事前学習済みのAIモデルやそれらをエッジAIとして実装するためのサンプルコードも公開されています。ソフトウェア開発の専門スキルがなくても、誰でも手軽にエッジAIを試すことが可能です。社内にAIの学習環境がない、そもそもAIの学習が難しい、基になるデータセットがないといった場合でも、 OpenVINO(TM) ツールキットのAIモデルやサンプルコードをダウンロードしてすぐにエッジAIを試すことができます」
OpenVINO(TM) ツールキットにはどんなAIモデルやサンプルコードが用意されているのだろうか。坂田氏は「当初は画像認識系のモデルが大半を占めていましたが、現在はバラエティーを大きく広げています。音声認識や近年話題の生成AIに用いられるLLM(大規模言語モデル)に対応したモデル、サンプルコードも登場しています。エッジAIの目的の大半は、 OpenVINO(TM) ツールキットでカバーできるのではないでしょうか」と語る。
自動車のナンバープレートを検知するモデルは、ロック板がないコインパーキングの課金システムや店舗を訪れた顧客の認識などに応用されている。ユニークなところでは人体の骨格を検知する「ヒューマンポーズエスティメーション」というモデルも人気を集めており、医療機関におけるリハビリやトレーニング施設におけるスポーツの運動解析、一般企業でのセキュリティエリアへの侵入検知、従業員の異常行動検知といった用途に利用されている。
OpenVINO(TM) ツールキットのもう一つの重要な特長は、エッジデバイスに必ずしもハイスペックを要求しないことだ。一般的にAI推論を実行するためには高価なGPUを搭載したマシンが必須と考えられているが、 OpenVINO(TM) ツールキットはこの“常識”に当てはまらない。
東京エレクトロンデバイス クラウドIoTカンパニー IAソリューション部 フィールドアプリケーションエンジニアの藤井将貴氏は「 OpenVINO(TM) ツールキットは、汎用(はんよう)PCから組み込み機器まで、幅広いエッジデバイスに用いられているインテルの一般的なxPU(CPU、GPU、NPUなど)との組み合わせでAI推論を高速に実行できるのです」と強調する。CPU、GPU、NPUのいずれでも同一のコードで動作するため、コード変更が不要である点も大きなメリットとなる。また、 OpenVINO(TM) ツールキットはWindowsやmacOSなどの主要OSのほとんどに対応しているためデバイスを選ばず、早期のエッジAI導入を実現する。
新たな取り組みとして、インテルは OpenVINO(TM) ツールキットの利用を自社製プロセッサーに限定していた方針を改め、他社製プロセッサーにも対応しつつある。「Raspberry Piに用いられているArm(R)にも、既に OpenVINO(TM) ツールキットのデバイスプラグインが提供されています」(藤井氏)とのことで、今後の動向に注目だ。
エッジAIの導入に際して高いハードルに阻まれてきた方々も、こうした多くのメリットを無償で利用できる OpenVINO(TM) ツールキットならば「やりたかったこと」を簡単に試せるのではないだろうか。
繰り返すが、 OpenVINO(TM) ツールキットの利用に当たって特別なスペックを搭載したハードウェアを調達する必要はない。既に業務で使用しているノートPCでも始めることが可能なのだ。少しでも興味を持たれた方は、以下に紹介する東京エレクトロンデバイスのホワイトペーパーの導入ガイドに従って、まずは OpenVINO(TM) ツールキットをインストールしてみてはいかがだろうか。
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提供:東京エレクトロン デバイス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2024年9月18日