産業用PCで世界シェアトップのアドバンテックは、日本を台湾、中国に次ぐ第3の製造拠点に位置付け、世界トップのエッジコンピューティングプロバイダーを目指して事業を展開している。今や日本の製造業となったアドバンテックの取り組みを紹介する。
国内で製造業に携わる技術者であれば、「アドバンテック」という社名とブルーに白抜きのロゴはなじみのあるものだろう。しかし、アドバンテックがどのように製品を企画・開発し、どのような体制でビジネスを展開しているかを知る人は少ないかもしれない。
アドバンテックは、台湾で誕生して2023年に創業40周年を迎えた“老舗”企業だ。工場で用いられる産業用PCの世界最大手として知られ、その世界シェアは42.5%に達している(出典:OMDIA-Market Share estimates for Industrial PCs: World, 2023 Edition)。アドバンテックが現在注力しているのは、AI(人工知能)エッジコンピュータやIoT(モノのインターネット)製品といった、これからの社会で強く求められる製品だ。この他にも手掛ける製品は非常に多く、正確な数を求めるのは難しい。
アドバンテックには、製品を開発する部門だけでも約80ある。それぞれの部門が顧客や市場の要件や仕様を実現する製品を日々開発している。細分化された市場に対して一律に製品を提供するのではなく、業種や業態に合わせて提供するスタイルを取っている。同社の開発部門が約80に達したのはその思想が顕在化したためだ。「セクタードリブン」と呼ぶこの開発体制によって、顧客の要望を忠実に反映しつつ製品を効率的に開発している。
製品の開発は台湾で行っており、アドバンテックの日本法人は他の外資系企業と同じく販売とサポートのみを手掛けているというイメージが強いかもしれない。実際、1997年に日本法人を設立して東京、大阪、名古屋と拠点を広げて人員も拡充してきたが、日本でモノづくりを行っていたわけではない。
しかし2019年に転機が訪れる。1966年から福岡県直方(のおがた)市でオムロンのさまざまな製品を生産してきたオムロン直方を買収したのだ。これによって、アドバンテックは日本に工場を持ってモノづくりを行う製造業となった。
先述したセクタードリブンな開発体制で日本の顧客の需要にきめ細かに応えるためには、日本国内で地産地消できる環境を整える必要があった。50年以上のモノづくりの歴史を持ち、直近では高密度プリント基板技術を核としたEMS事業などを手掛けていたオムロン直方を傘下に収めることは、まさにうってつけだったと言える。
アドバンテックの日本法人は製販一体体制に統合しており、従業員は約250人に拡大した。旧オムロン直方は直方事業所となり、約150人が所属している。
直方事業所は、国内向けにモノづくりを行うAJMC(Advantech Japan Manufacturing Center)と、アドバンテック製品全般のサービス業務を担うAJSC(Advantech Japan Service Center)の役割を果たしている。AJMCはDMS(開発/製造受託サービス)のデザインセンターにもなっており、国内顧客に柔軟できめ細かなサービスを提供している。
日本では、標準的な仕様の製品を大量に購入するよりも独自のカスタマイズを施した製品を中小規模で導入する傾向が強い。直方事業所の発足前は、そういったカスタマイズへの対応は台湾のDMS拠点で行っていたが、一定以上の規模がなければ受注が難しいという課題があった。
直方事業所が発足して日本国内でDMS対応が可能になることで、この課題が解決した。受注規模の大小にとどまらず、日本国内で開発することで顧客が望む仕様や要件をより正確かつ効率的に実現できるというメリットもある。
アドバンテックの日本法人が、直方事業所の高い品質を示す取り組みとして推進してきたのが「IPC-A-610 Class 3」の認証取得だ。同社が2024年1月に取得したこの認証は、日本国内では第1号となる(出典:日本IPC事務局であるジャパンユニックスによる認定)。
IPC-A-610は、電子組み立て品を手掛ける製造業の業務プロセスに関する品質の国際標準規格だ。一般用途のClass 1、特定用途のClass 2、高性能用途のClass 3に分かれており、Class 3は最上位の品質を認証する。
IPC-A-610 Class 3認証を取得した背景には、日本で行っている高品質のモノづくりを電子部品組み立ての標準規格を通して日本国内外にアピールするという狙いがある。特に、海外に展開する製品のモノづくりに直方事業所を利用している場合に、“Made in Japan”と併せて国際標準規格による高い品質が担保されることは大きなメリットになる。アドバンテックとしても、IPC-A-610 Class 3の取得が日本で第1号となったことは同社が業界のリーダーであることを示す大きな成果だったと考えている。
直方事業所は、アドバンテックがタグラインに掲げる「Enabling an Intelligent Planet」に基づき、ビジョンの一つとする「未来を見据えてインテリジェントプラネットの実現に向けて前進し続ける」を実行する、日本国内における社会貢献活動の拠点にもなっている。
福岡県や直方市といった地域の行政や大学と連携し、高齢化対策や災害対応、農産物の収穫向上などをテーマに、産学官が連携して社会課題解決に向けたプロジェクトを立ち上げる活動を行っている。アドバンテックはこれらのプロジェクトにプラットフォームを提供しており、実証実験の成果を地域のシステムインテグレーターや事業主に展開してn倍の活用ができる仕組みづくりも進めている。
この他にも、小中学生にハイテク分野に興味を持ってもらうようなアントレプレナーシップや未来のデータサイエンティストを育成するために中高学生にプログラミングに触れる機会なども提供している。
アドバンテックが近年注力しているのはエッジコンピューティング市場だ。
2024年6月14日に大阪市で行われたパートナー向けイベント「Partner Conference 2024」の基調講演に登壇したアドバンテック日本法人 社長の吉永和良氏は「アドバンテックは、台湾の産業用PCメーカーから世界トップのエッジコンピューティングプロバイダーを目指して成長を継続する。日本市場は堅実かつ着実な成長を実現しており、エッジコンピューティングに注力する上でグローバルに活躍する開発と生産の拠点として大きく期待されている」と語った。
同イベントでは、エッジコンピューティング市場向けの最新ソリューションとして、IoT分野ではAMR(自律搬送ロボット)やEV(電気自動車)充電ステーション向け製品、エッジで高い処理能力を発揮するAI分野の製品が紹介された。
AMR向け製品は、最新の「Intel Core Ultraプロセッサー」を中核に、ロボットの“目”となるカメラで得た映像をスムーズに処理するMIPIやGSMLなどの豊富なインタフェースやさまざまなセンサーに対応することが特徴。「AFE-R360」はカメラ画像を扱うAIの処理能力は32TOPSを確保しながら消費電力は低く抑えている。USBやCANなどのインタフェースを用いた拡張性の高さにより、今後市場の立ち上がりが期待されるAMRの開発に柔軟に対応できるという。
EV充電ステーションでは、充電制御以外に決済処理や監視カメラ、サイネージ、駐車の管理といった機能を要求されることがあり、それらに付随する通信機能も必要になる。これらの要求に対応して、柔軟な設計や保守を提供するのがアドバンテックの統合EV充電ステーション向けプラットフォームだ。
EVにはさまざまな充電規格があり、求められるインタフェースも異なる。ArmもしくはインテルのCPUを搭載する1個のボードでEV充電ステーションに求められる機能への対応を完結させられるのが、アドバンテックの統合EV充電ステーション向けプラットフォームの強みだ。
AI分野では、処理能力の他、消費電力やコストなど、要件が多岐にわたることが課題となる。アドバンテックは、顧客がより適した製品を選べるようにラインアップを拡充している。
最新のラインアップの例となるのがQualcommとHailoのソリューションだ。Qualcommについては「QCS6490」を搭載したモジュール製品「ROM-2860」の販売を2024年4月に開始した。QCS6490はAIエンジンを内蔵したオクタコアのCPUで、高負荷時でもスムーズな処理が可能だ。AI推論機能によって物体検出や衝突回避といった処理の効率を高められる。
2024年6月に発売した小型のエッジAI推論システム「AIR-150」は、「第13世代 Intel Core モバイルプロセッサー」とAIエンジン「Hailo-8」を搭載。省電力ながら26TOPSのAI処理性能を持つHailo-8を利用できるとともに、非常にコンパクトでありながらCOM、USB、LAN、M.2 E-Keyなど豊富なインタフェースによって高い拡張性と接続性を備えていることも特徴だ。
アドバンテックは、エッジコンピューティング市場を意識したこれらの標準品と直方事業所が日本国内で対応を完結させるDMS事業によって、顧客のさまざまな要望に応える体制を整えている。
エレクトロニクス製品の開発で何か困り事があるならば、もはや台湾の産業用PCメーカーではなく、日本を第3の製造拠点として世界トップのエッジコンピューティングプロバイダーを目指すアドバンテックに相談してみてはいかがだろうか。
アドバンテックが、2024年7月18日に東京、同年9月26日に大阪の2カ所で、組み込みPC/デバイスに興味がある法人(技術者、営業、調達)向けのイベント「アドバンテック エンベデッド デザイン・イン・フォーラム 2024」開催します。Intel、NVIDIA、NXP、Qualcommといった業界をけん引するシリコンベンダーをはじめ、他にも貴重なゲストを多数招き、最新技術やトレンドを紹介するプレゼンテーション、アドバンテックのエコシステムパートナーによる展示や2024年最新の組み込みPCの展示など、より具体的に今後のビジネス開発に生かせるコンテンツを準備しています。皆さまのご来場を心よりお待ち申し上げます。
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提供:アドバンテック株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2024年7月16日