二刀流実験化学者が材料探索を切り拓く Matlantisを導入したAGC株式会社のMI戦略

» 2024年04月26日 10時00分 公開
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 2011年以降、情報科学に基づくマテリアルズ・インフォマティクス(MI)の取り組みは世界中に広がり、データを活用した材料探索が着実に成果を上げ始めている。しかし既知のデータから出発するMIでは、まったく新しい材料の開発に至ることは難しいとされている。

 21年7月にリリースされた株式会社Preferred Computational Chemistry(PFCC)のMatlantis は、物理シミュレータに深層学習を組み込んだ汎用原子レベルシミュレータだ。リリース当初は計算化学者など専門知識のあるユーザーを設定していたが、実験化学者など計算化学をベースとしない現場の人々も使えるようにチュートリアルやユーザーサポートを充実させてきた。

 AGC株式会社では、Matlantisを導入した直後から実験化学者も使い始めたという。なぜ「計算もできる実験化学者」が必要になるのか、同社技術本部の研究者3人に聞いた。

AGC株式会社技術本部の研究者3人。左から加藤毅之氏、吉田拓未氏、清良輔氏

実験化学者が導入直後から使用できた訳

 Matlantisを導入したAGC株式会社では、計算化学者も実験化学者も同時にこのツールを使い始めた。同社では、2010年代から実験化学者に向けて計算化学の基礎を学ぶ講習を行うなど、人材の育成を進めてきた。「計算する人」と「実験する人」は別々であることが多いが、両者の間に齟齬が生まれることもある。ならば、現場にいる実験化学者が計算をできるようになればギャップが生じにくく、効率もいいはずで、いずれは研究開発の加速につながることが期待できる。こうして計算化学も使える実験化学者が増えてきたところに、Matlantisが登場したのだという。

AGC株式会社 先端基盤研究所共通基盤技術部 吉田拓未氏

 計算化学を用いたシミュレーションなどの業務を行いながら、先端技術の導入も担う先端基盤研究所共通基盤技術部の吉田拓未氏によれば、同社が機械学習ポテンシャルという技術に注目し始めた頃、PFCC社からMatlantisのPoC(Proof of Concept:概念実証)を打診されたという。計算化学者として「これはブレークスルーになり得る、すごいツールかもしれない」と感じた吉田氏は、PoC段階から実験化学者が利用することを推進した。この時にMatlantisを使い始めた材料融合研究所無機材料部ガラス・セラミックス材料チームの実験化学者・加藤毅之氏は、「コーディングの経験はほとんどなかったのですが、危惧していたほどハードルは高くありませんでした。Matlantisの公式サイトにチュートリアルなどが豊富に用意されていたこともあり、特に困ることはなかったです」と、話す。

 23年の本格導入後は、さらに多分野の計算化学者たちがMatlantisを使用するようになった。材料融合研究所機能部材部コーティングチームの清良輔氏は「当時は機械学習ポテンシャルが何なのかも知りませんでした」と苦笑しつつ、「既に実験で結果がわかっている系の検証から始めたのですが、組成の絶対値まで一致した結果を出してきたことに衝撃を受けました。これはすごいと思いましたね」と、驚きを隠さない。

 加藤氏が扱うガラス・セラミックス材料も清氏のコーティング材料も非平衡過程を扱うため、DFT(Density Functional Theory:密度汎関数理論)計算などの従来手法は使いにくかったそうだ。Matlantisは非平衡過程の再現が可能で、しかも特別な検討や準備をする必要もない。その手軽さとスピードを肌で感じた両氏は、計算化学者だけではなく自らも計算化学を用いることが研究に大きな変化をもたらすと実感した。そして、材料探索は「実験ありき」から「計算ありき」の研究サイクルへとシフトするだろうと確信したという。

 一方、計算化学者の吉田氏は、MD(Molecular Dynamics:分子動力学)計算やDFT計算といった既存の手法にMatlantisが加わることで引き出しが増え、それまでは困難だった課題に対して多様なアプローチができる可能性が高まったと話す。今後も様々な開発の場でMatlantisを使用していくと考えているという。

 現在、材料探索の分野にはMetaやGoogle、MicrosoftなどのBig Techが参入し、華々しい成果を発表している。「このように競争の激しい材料探索の分野で生き残っていくためにMatlantisは大いに役に立つものと確信している」と、吉田氏は力を込める。

計算化学を活用し始めた実験化学者の本音は?

 Matlantisを使い始めてから約1年になる清氏は「実験化学者が自分の感覚と考えで計算化学を使えるようになれば、より早く正解にたどり着けるだろう」と話す。以前は「計算は専門家に依頼するもの」と考えていたが、扱っている材料に対する感覚、「ここが知るべきポイントだ」というような勘どころは、実験をしている本人にしかわからない。実験を進める中で得た細かい気付きを即座に反映させられるようになったことなどを挙げ、今は自分で計算できる意味は大きいと考えているそうだ。

AGC株式会社 材料融合研究所無機材料部ガラス・セラミックス材料チーム 加藤毅之氏

 約3年間Matlantisを使ってきた加藤氏は、新しい技術に触れる、知る、学ぶことをこれまで以上に心がけなければならないと感じていると話す。Matlantisは確かに初心者にも使いやすいが、使うほどに計算化学のスキルやリテラシーを更に高めて、実験にフィードバックできるようにならなければ、すぐに取り残されてしまうのではないかと危機感を覚えたそうだ。「Matlantisは未知の領域に踏み込むことを可能にするツールだからこそ、そこで自分は何ができるかを考えなくてはならないのです」と、同氏。未知の領域が前提になったことで、研究者としての姿勢が変わったのだ。さらに「MIや計算化学など実験化学者が知っておくべき技術は増えていますが、その中でもMatlantisは確実にブレークスルーとなるツール。注目しておいたほうがいいと思います」と、付け加えた。

 いくら使いやすいツールでも「プログラムを書く」という文言を目にしただけで、及び腰になってしまうコーディング未経験者もおられるだろう。いちからPythonコーディングに取り組んだ2人によれば、「真面目に勉強すれば、それほど高いハードルではなかった」とのこと。計算化学者の吉田氏は「今はChatGPTをはじめとする生成AIのおかげで、初心者も習得しやすくなっていますよ」とアドバイスしてくれた。

材料の研究・開発現場はもっと加速できる

AGC株式会社 材料融合研究所機能部材部コーティングチーム 清良輔氏

 AGC株式会社の技術本部では、Matlantisの導入による変化はまだまだ進行中である。加藤氏は、自身で行えるようになった「計算ありき」の研究サイクルを普及させていきたいと考えている。清氏は、「考えるよりも手を動かせ」式で辿り着くことも大切だが、頭の中でしっかりと考えて組み立てた通りに結果を出すことも重要だとし、そのためには実験化学者が自分で計算できたほうがいいと話す。吉田氏は計算化学やMI、DXを材料探索・開発のサイクルに組み込むことで、さらに研究が加速すると考えている。

 化学品や電子部品など素材全般にアプローチし、独自の素材ソリューションの提供を目指す同社では、その幅広い材料分野とテーマにMatlantisを活用していきたいと考えている。未知の領域はますます広大だが、革新的な材料候補を目指す実験化学者が新たなツールを手にしたことは、心強いだろう。

※本記事は、株式会社Preferred Computational Chemistryから提供された記事を許諾を得て転載したものです。

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