世界的な「脱炭素」の機運の高まりとともに、太陽光発電を導入する企業が増えている。アンリツは、エネルギー効率を最大化するために、オムロン フィールドエンジニアリングの太陽光発電と大容量蓄電池を組み合わせたシステムを導入した。蓄電池設置までいたらない企業も多い中、アンリツはなぜ導入に踏み切ったのか。決断の背景などを聞いた。
企業にとって「脱炭素」は共通のテーマと言っても過言ではない。太陽光発電を既に設置したり設置を検討したりしている企業も多いが、この取り組みは地球温暖化への対応という意味合いだけでなく、環境対策を重視する企業の取引先選定要件にもなりつつある。
だが、太陽光発電が機能するのは日中だけなので、日没以降の電力としては活用できない。自社で発電した電力をロスなく使うには、発電した電気をためる蓄電池や充放電を適切にコントロールするシステムが必要だ。しかし大容量の蓄電池の導入は大きな投資になるため、踏み込めずにいる企業も多い。
その中で、アンリツは環境を重視する経営方針の下、太陽光発電システムと大容量蓄電池の導入に踏み切った。
アンリツは、1895年創業という長い歴史を持つ情報通信技術のパイオニア的存在だ。1912年には現在のスマートフォンの元祖とも言える無線電話機を開発しており、長年培った技術を生かし、今ではスマートフォンの各種試験に使われる測定器などの通信計測事業を主な事業領域としている。スマートフォンの開発・生産が海外に移るにつれて、同社の全売り上げの7割を海外が占めるようになった。
アンリツは、温室効果ガス削減に向けて高い目標を設定し、積極的に取り組んでいる。
2019年、同社は再生可能エネルギーの自家発電・自社消費を行う「Anritsu Climate Change Action PGRE 30」(以下PGRE 30)を策定した。PGRE30は、2018年度のアンリツグループ電力消費量における太陽光自家発電比率0.8%を、2030年ごろまでに30%程度に高めることを目標とする。
この目標は2019年、パリ協定が目指している「2℃目標」(産業革命前に対して気温上昇を2℃以内に抑える)の達成に科学的な根拠がある水準であると「SBT(Science Based Targets)イニシアチブ」に承認された。
2022年には、事業活動に伴う温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロにするカーボンニュートラルを宣言。そのために2030年をターゲットとする中期目標を見直した他、UNFCCC(国連気候変動枠組条約事務局)の「Race To Zero」にも参加し、SBTに承認されている「2℃目標」を「1.5℃目標」に引き上げて2024年2月に承認された。
PGRE 30を中核とする同社の取り組みは高く評価されており、環境分野における国際的な非営利団体CDPが実施している「サプライヤーエンゲージメント評価」において、3年連続で最高評価の「サプライヤー・エンゲージメント・リーダー」に選定されている。
海外売上比率が高い同社にとって、こうした取り組みや評価は環境への配慮、脱炭素を重視する海外の大手顧客との取引において極めて重要な意味を持つ。
アンリツは、既にPGRE 30の一環で米国子会社のAnritsu Companyに1100kWの太陽光発電設備を設置している。同社が次の舞台に選んだのは、マザー工場として各種の計測器を製造している東北アンリツ(福島県郡山市)だ。
1985年に設立した東北アンリツは、2013年にBCP(事業継続計画)などの観点から第二工場を開設し、200kWの太陽光発電を設置した。2022年に第二工場内に完成した新棟では、太陽光発電だけでなく大容量蓄電池の導入を決めた。
大容量蓄電池には大きな投資を要する。それでも導入に踏み切った理由を、アンリツ 環境・品質推進部長の佐藤勝史氏は「蓄電池の期待寿命の間に全ての投資を回収するのは難しい状況でした。しかし、PGRE 30で定めた太陽光発電比率30%は、発電するだけで実現できません。平日に使用しきれない電力や、工場が稼働していない土曜日、日曜日に発電した電力もロスなく使える仕組みが必須だったのです。経営陣も、投資回収が難しいとしても、蓄電池を導入するべきだという判断でした」と説明する。
大容量の産業用蓄電池を調べる中で着目したのが、既に電力会社などでも使われており、グローバルな販売実績もある日本ガイシのNAS電池だ。硫黄とナトリウムイオンの化学反応によって充放電するNAS電池は、高出力で長時間の電力貯蔵に適している。
ただ、蓄電と放電を最大効率で行うためには最適な制御が必要だ。そこで白羽の矢が立ったのが、既に太陽光発電とNAS電池の導入実績を持っていたオムロン フィールドエンジニアリング(以下、OFE)だ。
OFEは、オムロンで社会システム事業を手掛けるオムロン ソーシアルソリューションズのグループ会社で、環境ソリューションやエンジニアリングサービスの提供を担っている。同社は“創エネ”、“蓄エネ”、“省エネ”を組み合わせて賢くコントロールし、エネルギーの最適利用を実現する「Smart-EMS(Energy Management System)」をコンセプトに、太陽光発電と大容量蓄電池を組み合わせたソリューションを展開している。
OFE エネルギーマネージメント事業本部 営業2課 課長代理でエネルギー診断プロフェッショナルの西畑真氏は「当社は、制御を強みとする会社です。太陽光パネルや蓄電池の設置工事はもちろん、それらをつないだ制御、また導入後の運用や保守までワンストップで提供し、安定稼働を支えることができます」と話す。
OFEは東北アンリツの第二工場に太陽光パネル(発電容量1100kW)とNAS電池(定格出力:400kW、定格容量:2400kWh)を設置。並行してNAS電池設置に関する消防署への届け出や電力会社への系統連系の申請などを進めた。電力会社らとの協議には、相当な専門知識や技術、ノウハウが必要だ。「アンリツ様の強い意思と、オムロングループが保有している技術やノウハウを結集したからこそ、系統接続の課題を乗り越えられたのだと思います」と西畑氏は振り返る。
こうして2023年7月、全システムの正式運用が開始された。制御を担っているのはOFEのEMSコントローラーだ。オムロンのPLC(Programmable Logic Controller)にOFEが独自開発したアプリケーションを搭載しており、クラウドシステムを経由して最適な制御を実現する。
契約電力量を上回る発電容量の太陽光発電設備と、長期間電力を安定供給できるNAS電池を組み合わせたシステムによって、アンリツグループ全体の太陽光発電能力は2500kWになった。東北アンリツ第二工場は、2023年7月中旬から11月末までの電力総消費量のうち、約36%もの電力を自家発電した再生可能エネルギーで賄えたという。
太陽光発電と大容量蓄電池を組み合わせたシステムのメリットは、これだけではない。EMSコントローラーによってエネルギーの使用効率を最大化することで購入電力量を抑え、化石燃料由来のエネルギーを削減できる。さらに使用電力量のピークをシフトさせることで、契約電力量の削減も可能だ。BCP施策として欠かせない電源確保も可能な上、地域の防災拠点としても活用できる。
同社は、太陽光で十分発電している時間帯は一部の電力を蓄電し、日没後から放電して使っている。災害などによる停電時も自立運転が可能なので、天気さえ良ければ発電・蓄電して夜間に使用したり工場を稼働させたりできる。「発電した電力を、電力が逼迫(ひっぱく)する時間帯や発電しない夜間に使えることは、当社だけでなく社会貢献の観点からも大きなメリットです」(佐藤氏)。
発電電力量や受電電力量、蓄電池の残量や蓄電電力量、放電電力量などは、PCやスマートフォンでリアルタイムに確認できる。この「見える化」は副次的な効果も生み出している。「人がいない夜間でも一定の電力が使われていたり季節によって電力使用量が変化したりすることも見ることができ、エネルギーに対する意識が変化しています」(佐藤氏)。アンリツ 郡山事業所 総務部 参与の大越章光氏も「太陽光発電と蓄電池の組み合わせによる効果は大きいと思います。再エネと省エネの取り組みにより、東北アンリツ全体で2023年12月の電気料金は2022年12月の半分程度に下がっています」と効果の大きさを話す。
これらの取り組みもあって、アンリツは環境省が主催する「第5回ESGファイナンス・アワード・ジャパン」の「環境サステナブル企業部門」において、企業規模や業種特性に照らして優れた取り組みを行っている企業であると認められ、特別賞を受賞した。
アンリツは太陽光発電比率30%を達成するため、本社(神奈川県厚木市)、東北アンリツ、米国の3拠点でメガソーラーを実現する構想だ。「カリフォルニアで1100kW、東北アンリツは1300kWになりましたが、本社は耐荷重の関係でカーポートの屋根に設置した700kWにとどまっています。2027年ごろに実用化されるともいわれている軽量なペロブスカイト太陽電池なども注視しつつ、太陽光発電比率30%に取り組んでいきます」(佐藤氏)。
アンリツ 環境・品質推進部 環境推進チーム 主任の澤田昌幸氏も「当社は2050年までのカーボンニュートラルを宣言しており、実現するための道筋を作っていかなければなりません。今後も新しい技術を率先して取り入れて、より積極的に進めていきたいと考えています」と語る。
OFEは太陽光発電の運用・保守でも多くの実績があり、2000件を超える発電所の現場データを保有している。現場はもちろん、データの側面でも太陽光発電の特性を熟知しているからこそ、最適な太陽光発電と蓄電池の制御が可能。その強みを生かし同社は、電力制御のさらなる高度化を目指している。「蓄積したデータから需要電力を学習し、太陽光の発電予測などを加味して最適な運転計画を作成。この計画に基づいて充放電を制御するなど、AI(人工知能)も取り入れたより賢い使い方をますます進化させていきます」(西畑氏)。
OFEでは太陽光発電と蓄電池を組み合わせたシステムの引き合いが増加している。5件が稼働しており、さらに複数の商談と工事も進んでいるという。「現在は電力料金が上がり、再エネへの投資の回収は早まっています。夏と冬は太陽光で発電できない時間帯に必ず電力が逼迫しますから、蓄電池も併せて導入することで電力需給にも貢献できます」(佐藤氏)。
いまや投資回収だけではなく、太陽光発電比率が投資判断の基準になっている。これは脱炭素が進む欧米との取引だけに限らず、国内取引においてもさらに加速していく。アンリツのような先進的な考えや取り組みを増やしていくことは、世界の脱炭素化を進めるだけでなく、日本企業の競争力を高め、世界で一層存在感を発揮することにもつながるだろう。
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提供:オムロン フィールドエンジニアリング株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2024年4月24日