医療DXを加速する福井大学医学部附属病院が無線ネットワークを「sXGP」に刷新医療DX

先進的な医療DXを進めていることで知られる福井大学医学部附属病院が、ソフトバンクの「sXGP」によって無線ネットワークを刷新している。PHSの後継としても注目されるsXGPを導入した狙いについて、同病院で医療DXを主導する山下芳範氏に聞いた。

» 2023年12月20日 10時00分 公開
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 さまざまな国内産業が、デジタル技術を取り入れてDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しようとしている。これは医療分野においても同じだ。皆さんも、電子カルテやお薬手帳アプリなどで医療機関のICTシステムに接する機会が増えているのではないだろうか。

 とはいえ、病院や診療所(以下、病院と総称)におけるDXが急激に進展しているかというとそうではない。特に無線ネットワークについては整備が遅れがちだ。その理由の一つとして考えられるのが医療機器への影響だ。病院では多くの医療機器が使われているが、これらが無線ネットワークの影響を受けることは避けなければならない。また、医療機器は固定ではなく、移動することが多い。このため院内の無線ネットワークは構築と運用の両面で電波環境の綿密な設計と調整が必要なのだ。

医療情報システムの仮想化が起点に

福井大学医学部附属病院 医療情報部 総合情報基盤センター 副部長 准教授の山下芳範氏 福井大学医学部附属病院 医療情報部 総合情報基盤センター 副部長 准教授の山下芳範氏

 病院内の無線ネットワークの刷新を含め、先進的な医療DXを推進していることで知られるのが福井大学医学部附属病院(以下、福井大学病院)だ。その改革の中心が、同病院 医療情報部 総合情報基盤センター 副部長 准教授の山下芳範氏だ。

 取り組みの起点は、山下氏が中心となって2006年から進めてきた医療情報システムの仮想化だ。それまでオンプレミスで運用していたサーバをクラウドに移行して可用性を高めたことで、デスクトップPCからしかアクセスできなかった医療情報にいつでもどこからでもアクセスできるようになった。山下氏は「いつでも、どこからでもアクセスできる以上、病院内で無線ネットワークを有効活用しない手はありません」と語る。

 かつて、エックス線画像はフィルムに撮影され、患者別に封筒で管理されていた。しかし現在では、デジタルデータとしてサーバに保管され、ネットワークを介して場所を問わず参照できる。カルテや投薬などのデータも同様だ。これらのデータをクラウドで統合管理して無線ネットワークのインフラを整備すれば、患者がいるベッドサイドでノートPCを使ってエックス線画像を示して治療の説明をしたり、看護師が薬を確認したりできる。「医療DXによって、医療従事者が医療業務をより安全かつ効率的に行えるようになるのです」(山下氏)

“シングルチャンネル方式の”Wi-Fiを導入も音声通話の課題に直面

 無線ネットワークといえばまず思い付くのはWi-Fiだろう。しかし、病院という特殊な環境でWi-Fiを運用するには相応の知見が必要だ。Wi-Fiで使う電波には2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯がある。例えば2.4GHz帯のWi-Fiは帯域を22MHzごとに14のチャンネルに分割して通信する。しかし、隣り合うチャンネルで重なる部分があるため干渉が生じるという弱点がある。言うまでもなく、人の命を預かる施設の通信設備として、干渉による通信途絶は回避しなければならない。5GHzはチャンネルが多く重なる部分が無くなっているのが売りとなっているが医療機器の利用を考慮すると実質的には解決にならない。

 600床もある福井大学病院のような広い敷地をWi-Fiでカバーするには、多くのアクセスポイント(AP)を設置する必要があるという問題もある。複数人がネットワークに同時にアクセスするには、AP間で干渉しないチャンネルで通信するなど、複雑な設計も要求される。

 そこで福井大学病院は「シングルチャンネル方式」でWi-Fiを構築した。シングルチャンネル方式は複数のAPを仮想的に1台のAPとして扱い、各APが同一のチャンネルを使う。これによってWi-Fiでも電波干渉が大幅に抑えられる。さらに、病院内の通信環境を整備したことで、これまでPHSを利用していた院内の音声通話をWi-FiでVoIP(Voice over IP)化できた。

 ただ、この方式も完璧ではなかった。まず課題となったのは通話の品質だ。VoIPはPHSよりも音質が劣る傾向があり、Wi-Fiの電波が届かない場所では通話できない。移動によってエリアが切り替わるタイミングで通話が途切れる、また、スマートフォンのWi-Fi性能によってはVoIPのパケットロスによって肝心な箇所が聞き取れないなどの不具合もあった。

より堅牢で高品質な通信環境を目指しsXGPネットワークで実証実験を開始

 これらの課題を解決するために山下氏が実証実験を開始したのが、ソフトバンクのグループ会社であるBBバックボーンが提供する無線通信サービス「sXGP」(shared eXtended Global Platform)だ。sXGPはPHSの後継として日本で開発された規格で、自営通信によるデータおよび音声の無線ネットワークを手軽に構築できる。

ソフトバンク 法人プロダクト&事業戦略本部  sXGP事業推進室 課長代行の前田雄介氏 ソフトバンク 法人プロダクト&事業戦略本部 sXGP事業推進室 課長代行の前田雄介氏

 sXGPは、携帯電話と同じLTE方式を用いることから「プライベートLTE」とも呼ばれている。自営通信は免許取得の手間が課題になることが多いが、sXGPは無線免許も無線従事者も必要ない。ソフトバンク 法人プロダクト&事業戦略本部 sXGP事業推進室 課長代行の前田雄介氏は「Wi-Fiよりも電波干渉が小さいので安定した通信ができ、自営通信なのでキャリア通信が影響を受けるような災害時にも問題なく使えます。回り込みやすい1.9GHz帯の電波を使うので障害物に強く、基地局を削減できます」と述べる。sXGPはAndroid端末でしか利用できないことが課題の一つだが、BBバックボーンのsXGPであればiPhoneなどのiOS端末にも対応している。

 プライベートLTEは、5Gを用いる自営通信のローカル5Gと比較されることも多い。ローカル5Gは免許取得が必要だが、プライベートLTEのsXGPは前述の通り免許が不要なので手軽かつスピーディーに導入でき、電波利用料も発生しない点が大きく異なる。

sXGPのメリット sXGPのメリット[クリックで拡大] 提供:ソフトバンク

 BBバックボーンのsXGPは、LTE回線を使った音声通話サービス「VoLTE」も利用できる。Wi-Fiを使ったVoIPではPHSと同等の通話品質は難しいが、sXGPでVoLTEを使うと“こもり感”のないクリアな通話が可能だ。VoLTEの通信はLTEネットワークの中で優先度が高く設定されているという設計上の利点もある。このため、ネットワークを流れるデータが多い状態でも高品質な音声通信ができる。

 他の医療機関における干渉実験で、sXGPはPHSと同等の安全性が確認されている。これらを受けて、福井大学病院は一部エリアに限定したsXGPの実証実験を2019年12月に開始した。「プライベートLTEを提供しているベンダーは幾つもあります。その中でも、業界に先んじてサービスを提供するとともに病院を含む多くの導入実績によってノウハウを蓄積しているBBバックボーンのsXGPが最適だと考えました」(山下氏)

医療DXの基幹を担う、sXGPの全フロア展開

 実証実験の成果を受け、福井大学病院は2024年からsXGPを全フロアに展開する計画だ。実証実験によって、Wi-Fiでは約20台必要だったAPをsXGPでは2台に置き換えられることが確認できた(スマートフォンは最大100台)。ユーザーである看護師からは、音声通話が途切れにくく音質もクリアになったとの声が寄せられた。電波干渉による医療機器への悪影響がないことも検証された。

福井大学病院の実証実験で利用しているsXGPのAP 福井大学病院の実証実験で利用しているsXGPのAP。ナースステーションのすぐそばに検証用として仮設されている[クリックで拡大]

 今後の全フロア展開では看護師と医師全員がsXGPを利用するため、スマートフォンは700台になる。看護師は1人に1台のモバイル端末を割り当てている。しかし、看護師以外の医療従事者にも必要であり、今後は1000台程度まで増やす計画もあるという。病院全体で稼働するsXGPのAPは数十台になる予定だ。

 全フロア展開後のsXGPの活用については、医療機器の無線ネットワーク接続が検討されている。「病院で使っている医療機器が無線ネットワークに接続されれば患者のバイタル情報をリアルタイムに取得できる。記録も自動化され、履歴の確認も容易になる。患者の状態確認や行動・移動の把握、投薬後の経過観察などさまざまな用途や場面で活用できるので、医療に携わる全ての人の働き方を大きく変えることにつながるだろう」(山下氏)

sXGPなら、いろいろできる

 もちろん、sXGPは病院に特化した通信サービスではなく、製造業や建設業など多くの業界と場所で広く使われている。

 sXGPには、電波干渉が少なく免許不要で手軽に運用できるという優れた特徴がある。製造業では、工場の製造ラインに並ぶロボットの制御やセンサー情報の取得などに利用できる。建設業では、高層ビルの上層階やトンネル内など、携帯の電波が届かない工事現場との通信ネットワークを構築することもできる。

ソフトバンク 法人プロダクト&事業戦略本部 sXGP事業推進室の藤川祐大氏 ソフトバンク 法人プロダクト&事業戦略本部 sXGP事業推進室の藤川祐大氏

 ソフトバンク 法人プロダクト&事業戦略本部 sXGP事業推進室の藤川祐大氏は「sXGPには、ソフトバンクのサービスとして業務に特化した機能が用意されています」と強調する。病院向けには、sXGPを使ってスマートフォンでナースコールを受信できる「VoLTEナースコール」というソリューションがある。

 山下氏は、サーバの仮想化やsXGPの導入に代表される医療DXによって医療従事者の負担が減ることを期待しているという。「仮想化と無線ネットワークの導入で、患者のベッドサイドで作業が完結できることを看護師に提示できたことが大きかったですね。そこで医療DXで働き方が劇的に変わることを実感し、そこから看護師や医師が自身で働き方を変えていったことが何よりの成果です」(同氏)

 sXGPの本格導入によって医療DXをさらに進めていく福井大学病院。今後予定されている医療機器の無線ネットワーク接続も含めて、さらなる進化が見られそうだ。

左から、福井大学医学部附属病院の山下芳範氏、ソフトバンクの前田雄介氏、藤川祐大氏 左から、福井大学医学部附属病院の山下芳範氏、ソフトバンクの前田雄介氏、藤川祐大氏。sXGPの本格導入によって医療DXをさらに進めていく[クリックで拡大]

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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2024年1月8日