インテルが自社イベントでFPGA事業の最新状況と今後についてを説明。サプライチェーンに対する取り組みやローエンド向けのIntel Agilex 3 FPGAを含むIntel Agilex FPGAのポートフォリオ拡大に加え、2023年10月に発表したFPGA部門の分離・独立について詳細が語られた。新たな決断を下したFPGA事業の戦略とは?
インテルは、FPGA技術および関連製品の最新情報やパートナーのソリューションなどを紹介するオンラインイベント「インテル FPGA テクノロジー・デイ2023(以下、IFTD 2023)」を2023年11月に開催した。講演ではサプライチェーンに対するインテルの取り組みやFPGAの新製品を紹介。さらに、2024年1月にインテルから分離・独立するプログラマブル・ソリューション・グループ(以下、PSG)事業の成長戦略の詳細が語られた。本稿では、基調講演「プログラマブル・イノベーションの実現」の内容を中心に、同社のFPGA事業の戦略を紹介する。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が全世界で猛威を振るったことで生活環境は一変し、経済活動にも大きな影響を及ぼした。半導体業界でも製造ラインが長期間停止するなど、多大な被害を受けた。半導体デバイスの納品が滞ったことで応用機器メーカーは計画通りの製造と出荷ができなくなり、さまざまな市場に混乱を招いた。
基調講演では、プログラマブル・ソリューションズ事業本部 営業本部長代理を務めるショーン・ドカティー氏やデータセンター&AI事業本部の上席副社長兼プログラマブル・ソリューションズ事業本部長を務めるシャノン・ポーリン氏らが、サプライチェーンの重要性に触れた。
サプライチェーンの現状や取り組みについてドカティー氏は、「ここ数年間、私たちは業界始まって以来とも言える複雑で広範囲のサプライチェーン危機を乗り越えてきました。供給面での問題解決に向け、皆さまに最優先で取り組んでいただいたことについて、改めて感謝の意を表します。2023年7月時点で供給上の制約は完全に解消されました。インテルとしては、あらゆる需要に応えるために、引き続き供給の安定性確保に向けた投資を継続します」と語った。
インテルは今回、FPGA事業に関して大きな決断を下した。その一つは「FPGAポートフォリオの拡大」だ。FPGAの市場規模は、2022年実績で90億ドルとなった。2023年は100億ドル以上になると見込まれ、2028年には130億ドル規模になると予測されるなど、市場の拡大が続く。インテルのFPGA事業規模も、2023年第2四半期は対前年同期比で16%の増加となった。「ワット当たりの性能に優れ、エンタープライズクラウドからエッジネットワーク、組み込みシステムまで、あらゆる分野でFPGAが利用されている」(ドカティー氏)と、好調な要因を挙げた。
インテルは2015年にFPGA大手のアルテラを買収した。その後はアルテラを母体とするPSGがFPGA事業を展開。主にハイエンド領域にフォーカスした製品戦略を打ち出し、開発投資を行ってきた。この結果、IPUやネットワーク、通信分野で高いシェアを獲得した。その半面、「ローエンド領域向けの製品開発の投資は十分でなかった」(ポーリン氏)と振り返る。
こうした中でインテルは、2023年9月に「Intel Agilex 3 FPGA」を新たに発表した。ハイエンドからローエンドまでをIntel Agilexデバイスファミリーで包括し、幅広い市場に対応するための、フル・ポートフォリオを確立するためだ。
その背景には、業界の急速なDX(デジタル変革)化がある。キーワードとしてインテルは「アクセラレーション」「スケーラビリティ」「フルスタックソリューション」を挙げた。これらの変化に対応できるのがFPGA製品だという。AI処理や車の電動化、医療用ロボットなど、さまざまな用途においてFPGA製品が果たす役割はますます大きくなってきた。
もちろん、1つの製品で市場の要求の全てをカバーするのはなかなか難しい。顧客の要求は「最高性能を実現したい」「最大限のトランシーバー帯域幅が欲しい」「差異化された独自のIPブロックを活用したい」というようにさまざまだ。エッジ側では「コストと電力消費を最適化しつつ、リアルタイムで処理して低遅延でフィードバックしたい」という要求もある。
このためには、全ての要求に対応できる製品ポートフォリオが必要だ。そこでインテルは、Intel Agilex FPGAポートフォリオを拡大することにした。また“速やかに高品質のFPGAを提供する”ことに加え、“エコシステム”にも目を向けた。システム開発に必要なソフトウェアや開発ツール、フレームワークなど、関連製品も幅広く提供する。しかも、FPGAを応用したシステム開発の経験や知識が十分でなくても、比較的容易に開発できる環境をそろえていくことにした。
インテルのPSG部門は、Intel Agilex FPGAの他、RISC-Vコアアーキテクチャのソフトプロセッサ「Nios V」や「Open FPGA Stack」(以下、OFS)、「F2000 IPU」など6種類のリーダーシップ製品を提供してきた。FPGA製品は、Intel Agilex 7に続いてIntel Agilex 5 FPGAやIntel Agilex 3 FPGAといった製品を投入する計画だ。
Intel Agilex 7 FPGAは、チップレットアーキテクチャを採用することによってハイエンド市場に向けて多種の新技術を効率よく提供している。デバイスの中央部にコアファブリックがあり、端にはRチップレットやFチップレットがある。タイルと呼ばれるこれらはさまざまな組み合わせが可能で、「116Gビット/秒の高速トランシーバーやPCIe Gen 5などにアクセスできる」(ポーリン氏)という。
Intel Agilex 3 FPGAとIntel Agilex 5 FPGAはローエンドからミドルレンジまでの幅広い市場に対応する製品だ。その分、「顧客との接点は格段に増える。インテルのFPGA事業にとって、いずれは大きな比重を占めることになるだろう」(ポーリン氏)と分析する。これらの製品を全てインテルテクノロジーで提供するフルスタックプレヤーを目指す。
ポーリン氏は、Intel Agilex 5 FPGAとして最初の実チップ(サンプル品)を手に持って紹介した。チップはモノリシックダイで、パッケージサイズは32×32mmと小さい。消費電力も少なく低価格だという。AI演算に最適化されたAI TensorブロックをIntel Agilex 5 FPGAに統合することで、エッジ側にもAI推論機能を容易に追加できる。Intel Agilex 5 FPGAに最適化されたFPGA AIスイートソフトウェアも2023年第4四半期からサポートを始める。
ローエンド製品と位置付けるIntel Agilex 3 FPGAシリーズは、消費電力と経済性を両立させたFPGA製品だ。新たに追加されるのは「Bシリーズ」と「Cシリーズ」だ。Bシリーズは従来の「Intel MAX 10」よりもI/O密度が高く、電源制御やセンサープロセシング、I/O拡張などに適しているという。Cシリーズは豊富な機能と特徴を備えており、さまざまなCPLD/FPGA用途に対応できる。これらはいずれもインテルのプロセスノードで製造される。
先に述べた通り、Intel Agilex 3 FPGAは幅広い用途や顧客層をターゲットに開発した製品だ。それだけに、全てのIPやシステム、開発キットを使いやすくして提供する必要がある。顧客のさまざまな要求を直接聞いて関連製品に反映させるため、早期アクセスプログラムを始めた。「既に数百人のお客さまがこのプログラムに参加している」(ポーリン氏)
Intel Agilex 7/9 FPGA向けに開発したIPはIntel Agilex 3/5 FPGAでも使えるようにするという。これによって、複数世代のアーキテクチャ間で設計資産をスムーズに移行できる。そのために、開発ツールの改善なども含めてパートナーとの連携を一層強化する予定だ。目標は、「顧客に選ばれるナンバーワンのFPGAサプライヤーになる」ことだ。そのために必要な投資を積極的に行っていく。
もう一つの決断が、PSG事業の分離・独立だ。インテルは、2024年1月1日付けでPSG事業をインテルから分離・独立させることを2023年10月3日に発表した。そして2〜3年以内にはIPO(新規公開株式)を目指すという。新会社のCEOには、インテルの主席副社長兼データセンター&AI事業本部長を務めるサンドラ・リベラ氏が就任する予定だ。
リベラ氏は「PSGを独立した事業組織として運営すれば、ビジネスの成長をさらに加速させることができ、競争力を高めるために必要な自律性や柔軟性も得られる。独立後もインテルとは連携を強化し、FPGA市場での存在感を高めていく。こうした取り組みを行いながらデータセンターや通信、産業、航空宇宙、防衛など、幅広い領域にわたってサービスを提供し続ける」と決意を述べる。
さらに、土台となる「サプライチェーンレジリエンスプログラム」や「インテルファウンドリサービス」との関係強化により、「幅広いFPGA製品ポートフォリオとフルスタックのソリューションを確立しつつ、弾力的で精度が高いサプライチェーンを展開する」(リベラ氏)ことを重ねて強調した。
IFTD 2023では、基調講演に続きインテルやパートナー企業のエンジニアたちが、「データセンターの進化」や「AI開発におけるFPGAの役割」など、テーマ別に多くの講演を行った。この中から幾つかの注目講演の概要を紹介する。
PSGのエグゼクティブによる「パネルセッション」では、FPGA製品へのインテルの取り組みや今後の製品展開などを紹介した。これを受けて「インテルの包括的なFPGAポートフォリオにおけるイノベーション」をテーマにしたセッションが行われた。ここでは、Intel Agilex FPGAポートフォリオに関する最新情報を中心に、インテルが開発しているイノベーションが次世代製品を開発する顧客にどれだけ貢献できるかを紹介した。
「FPGAポートフォリオの拡大」を進める中、インテルが重視しているテーマの一つが「開発ツール」の整備だ。ローエンドFPGA製品を用意したことで、多くの顧客にアプローチできる。その分、IPやシステム、開発キットなどについてもっと使いやすい環境を提供する必要がある。「製品開発をより迅速に行う最新FPGAソフトウェア・ソリューション」をテーマにしたセッションでは、プロセッサポートフォリオのNios Vや仮想プラットフォーム「Simics」、OFSや「oneAPI」などを活用したアプリケーションの開発例を紹介した。
これとは別に、「Open FPGA Stack(OFS)の紹介と最新動向」と題したセッションではオープンソースのソフトウェア/ハードウェアインフラストラクチャーであるOFSの概要や最新動向、oneAPI/SYCLとの関わりについて解説した。
データセンターに向けては、FPGAがもたらす柔軟性やパフォーマンス、低遅延性、低消費電力などについて説明。基調講演「データセンターの進化をリードする最新インテルソリューション」では、世界の主要なクラウドサービスプロバイダーで採用されている「IPU」について、NapatechのCMOを務めるジャロッド・ジケト氏を交えて導入の利点などを紹介した。
FPGAは幅広い分野で採用が進んでいる。DXにより、社会や産業の構造が大転換期を迎えている。こうした変化に対してFPGAが大きな役割を果たしていると言っても過言ではない。
IFTD 2023のオンデマンドサイトでは、今回のイベントで発表されたパートナー各社のソリューション資料をまとめてダウンロードできる。FPGAに関する最新情報を入手し、応用機器を開発する際の参考にしてみてはどうだろうか。そこには技術者が直面している悩みを解決してくれるヒントがあるかもしれない。
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提供:インテル株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2023年12月13日