コロナ禍を経て、製造業の設計開発業務においてVDIなどを活用したリモートワークが普及しつつある。レノボ・エンタープライズ・ソリューションズとNVIDIAは、このVDIを基点にして設計者のコラボレーションをさらに促進するデジタルツインプラットフォームを提案している。
ワークスタイル変革の機運の高まりやコロナ禍を経て、さまざまな業務でリモートワークが広く普及した。だが、製造業の設計開発業務は高性能のPCやワークステーションを必要とするCADやCAEを用いた作業が多いことから、依然としてオフィスに出社しなければならないと考える向きも多いだろう。
だが、大手製造業を中心に設計開発業務のリモートワーク対応が浸透し始めている。それを可能にしたのが、高性能GPUを搭載するサーバで構築したVDI(仮想デスクトップ環境)などの新しいIT環境だ。これにより、設計開発に携わる技術者はオフィスに出社することなく、ノートPCなどでいつでもどこでもCADやCAEを使った設計開発業務ができるようになったのだ。
国内製造業におけるVDI導入の最初の契機は2011年に起きた東日本大震災だった。被災した企業では社内のPCやワークステーションに保持していた設計データの破損などの被害が生じた。これを教訓としてVDI導入が少しずつ進み始めた。これと同時期にNVIDIAが発表した仮想GPU(vGPU)もVDIの普及を強力に後押しした。レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ ソリューション推進本部の坂巻宏亮氏は「仮想GPUは、1つのGPUのリソースを仮想的に分割する画期的な技術であり、これによってVDIの利便性が大きく高まったのです」と話す。
そして、2020年から始まったコロナ禍によって在宅で設計開発を行うための環境整備のニーズが急激に高まり、VDI導入の流れは加速していった。現在、大手製造業の設計開発部門ではリモートで働ける環境が当たり前になりつつあると言っても過言ではない。
VDIのメリットは何といっても、場所や端末を選ばずに設計開発業務ができることにある。これにより、オフィスにあるワークステーションでしか作業できないといった状況から解放され、生産性の向上が期待できる。クライアント端末にデータを保持しないことはセキュリティの観点でもメリットが大きい。
VDI導入によって大きな成果を得たのがJVCケンウッドだ。一般的なオフィス業務向けのVDI導入に続き、CAD用途のVDI導入も進めていった。2014年以降のVDI導入時には、VDIユーザーは既に2000に達していた。しかしWindows XPからWindows 10へのOSアップデートによってCPUやメモリの要件が増加したため、3D CADの高いシステム要求やテレワーク率の高まりに対応し切れず、パフォーマンスの低下が深刻な問題になった。
そこで同社は、従来のVDIを高性能CPU、大容量メモリ、高性能GPUを搭載するレノボ製の最新サーバに刷新し、CADユーザーを含む約4000ユーザーに対応できる環境を整えることに成功した。VDIの高性能化により、増大するアプリケーションの要求スペックへの対応やグラフィックス処理の高速化を実現した。
JVCケンウッドがVDIの刷新に成功した大きなポイントは、レノボ製サーバの際立ったコストパフォーマンスの高さだ。これがJVCケンウッドにおいても大きな選定理由になった。レノボはスーパーコンピュータ構築のリーダー企業としても知られており、その経験を生かしたサーバ製品の優れた電力効率についても市場で高い評価を得ている。
設計開発に限らずコロナ禍でリモートワークが進んだ結果、多くの企業でコラボレーション関連の問題が生じることになった。顔を突き合わせるコミュニケーションが大幅に減って周囲のスタッフとの連携が難しくなったことから、オフィスに出社していたころよりも生産性が低下したことが深刻な課題になっている。
レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ ソリューション推進本部 統括本部長の早川哲郎氏は「かつては隣の人のCAD画面をのぞけば一瞬で理解できたようなことも、リモートワーク環境では冗長なプロセスを経ないと分からなくなってしまいました。このため、設計開発部門内でのコミュニケーション&コラボレーションを効率化して積極的に促す仕組みづくりが強く求められているのです」と指摘する。
ここで重要なのは、コラボレーションにおいてリモートワークは必ずしもデメリットばかりではないという点だ。VDIを構築できているということは、それを基点とする設計データの一元管理が可能になっているということであり、これはスムーズに情報共有できるポテンシャルがあることを意味する。そこで、コロナ禍以前のようにオフィスに出社する体制に戻すのではなく、リモートワーク環境ならではの特徴を踏まえた効率的なコラボレーションをいかに実現するかという視点が大切になる。
ワークスタイルが多様化する時代にふさわしいコラボレーション環境を創出するソリューションとして製造業で注目を集めているのが、NVIDIAのデジタルツインプラットフォーム「NVIDIA Omniverse Enterprise」(以下、Omniverse)だ。
Omniverseは仮想コラボレーションとリアルタイムシミュレーションの双方を支援するプラットフォームであり、オープンな標準データフォーマットであるUSD(Universal Scene Description)に基づく3Dデータを仮想空間でリアルタイムに共有、閲覧、編集できる。これにより、設計開発業務においてもストレスのないシームレスな共同作業を促し、生産性向上を実現する。既存のVDIと組み合わせて運用することが可能なので、それぞれの企業のニーズに応じたVDIの柔軟な拡張にも対応する。
Omniverseの核となるのが、リアルタイムでのUSDデータの交換を可能にするデータベースおよびコラボレーションエンジンである「Nucleus」だ。Nucleusはサーバやワークステーションに展開されたコラボレーションを実現する拡張性のあるコアマイクロサービスであり、USDファイルをベースにデータを一元管理できるのが大きな特徴だ。
エヌビディア エンタープライズ事業本部 プロフェッショナルビジュアライゼーション ビジネスデベロップメントマネージャーの高橋想氏は、「USDデータを核とすることでデータのサイロ化問題を解消し、レビューサイクルの高速化やコンセプトとエンジニアリングのスムーズな橋渡しをするなど、チームやツールの垣根を越えた真のコラボレーションが可能になります。現在使っているCADやCAEなどのツールを変更せずにワークフローをシンプルに改善できるのもOmniverseの特徴の一つです」と説明する。
Omniverseの大規模導入時に大きな効果を発揮するのが「NVIDIA OVXシステム」だ。NVIDIA OVXシステムは、要求の厳しいOmniverseのワークロードを高速化するコンピューティングシステムであり、データセンター規模での多様なアプリケーションの構築・運用に最適化されている。中でも「NVIDIA OVXサーバ」は、データセンターにおけるOVXアーキテクチャの基盤として最も高度なグラフィックスとAI(人工知能)の機能を提供する。「レノボはこのOVXサーバのファーストベンダー3社の1社であり、Omniverseに関する多くの知見を有する頼もしいパートナーです」(高橋氏)。
欧米の製造業を中心に、Omniverseの大規模な導入事例も出始めている。その一つが、デザインレビューにOmniverseを活用している米国大手自動車メーカーのGM(General Motors)だ。
かつてのGMの設計開発プロセスでは、社内で行うデザインレビューの準備に3〜5日ほどかかっていた。デザインレビュー完了後の設計データを社外へのマーケティング活動用に展開するためのマーケティングアセットの準備には8〜12週間も要していた。
GMは、年間で100件行われているこれらのデザインレビューとマーケティングアセット準備の期間短縮を目的にOmniverseを導入した。統一されたデータパイプラインの構築によって、デザインレビューで時間がかかっていた原因の一つだった組織のサイロ化を解消すると同時にリアルタイムで協調的なワークフローを実現した。データをUSDに変換することでいつでも誰でもコラボレーションできる状態になるため、マーケティングアセット準備のボトルネックになっていたデータアセットの準備やエクスポート/インポートに要する時間が大幅に短縮された。
Omniverseの導入によって複数ユーザーのコラボレーションを活性化させ、意思決定やレビューサイクルを加速し、生産性を向上させることに成功したGMの事例は日本の製造業にとっても大いに参考になるに違いない。
Omniverseでできることは多岐にわたるため、各企業の課題解決の糸口が見いだせるはずだ。坂巻氏は「そのためにも、まずはOmniverseを使って効果を実感してみることを強くお勧めします」と訴える。例えば、レノボ・エンタープライズ・ソリューションズの本社オフィス(東京都千代田区)にある「レノボ・カスタマー・エクスペリエンス・センター(LCEC)」では実際にOmniverseを体験できる。リモートでの利用も可能だ。NVIDIAも、クラウドベースで同社ソリューションを体験できる「Launchpad」やトライアルライセンスなど、無償でOmniverseを試せる環境を整えている。
「Omniverseの最大の価値は、データをオープンなUSDフォーマットにすることで今までバラバラだったデータを一元管理できることにあります。自動車業界であれば、バラバラだった設計開発プロセスをオープンなUSDで一元管理できるようになることでしょう。Omniverseは開発プラットフォームであり、それぞれの目的に合わせて柔軟にカスタマイズできます。あらゆる製造業における設計開発業務の価値向上に寄与できるものと自負しています」(高橋氏)
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提供:レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2023年9月21日