あらゆる製品で電子化や電動化が進む中、製品内で使用が増える電子基板の開発や生産に苦慮する製造業が増えている。こうした企業の受託開発や受託生産で業績を伸ばしているのがOKIのEMS事業部だ。今後、同事業部が注力する2つの領域について話を聞いた。
脱炭素化やDX(デジタルトランスフォーメーション)があらゆる産業で進む中、製造業が生み出すあらゆる製品が、電子化を前提とするものに切り替わろうとしている。従来は電子技術に無縁だった製品でも電子化へのシフトが必要になるが、電機メーカー以外の多くの製造業は電子技術のノウハウを持っておらず、対応に苦慮するケースが増えている。
こうした動きをつかみ成長しているのが、ATM(現金自動預け払い機)などの高信頼製品を製造してきたノウハウなどを強みにEMS(Electronics Manufacturing Service、電子機器製造受託サービス)を提供する沖電気工業(以下、OKI)のEMS事業部だ。同事業部の現状と、今後強化を進めるモビリティー向けと航空/宇宙向けの取り組みについて、OKI 執行役員 EMS事業部長の西村浩氏に話を聞いた。
OKIのEMS事業部のスタートは2002年にさかのぼる。2000年ごろの生産拠点の海外移転に伴い、国内工場で生産能力が余る状況が発生した。そこで「自分たちの製造のノウハウを他の製造領域でも生かせるのではないか」と考えた工場技術者たちが工場の生産能力を生かすために営業活動を行い、外部から生産委託を受けるようになったことが始まりだ。
最初は、OKIで既に生産していた通信機器分野の生産受託から開始したが、取り組みを進める中でノウハウを「Advanced M&EMS」として確立し、対象製品や対象サービスを広げていった。現在は、通信機器、産業機器、計測機器、医療用機器などを製造するようになり、安定した収益を見込める事業に成長している。
さらに、設計開発まで請け負うDMS(Design and Manufacturing Service)へと拡大。問い合わせ数も年々増加しており、現在は設計も含めて年間100件以上の引き合いがあるという。西村氏は「あらゆる製品に電子技術が入ることになり、その開発負荷は高まっています。リソースが限られる中、それぞれのメーカーが自分たちの『コア』を考えたときに、そうではない部分は外部に任せることも選択肢の一つです。業務の切り分けをして、標準化された競争力につながらない部分を委託したいという企業が増えています」と環境について説明する。
EMS企業は世界に数多く存在するが、OKIの強みは情報通信やプリンタ、金融関係など、生活や社会のインフラになる製品を製造してきた「高信頼性」と「高度なモノづくり」だ。こうした製品は一般民生品に比べると数が少ないため「変種変量生産」でも効率的に対応できる体制も保持しており、大手のグローバルEMSが参入しない「生産数量が少なく、高品質が要求される製品」に特化しているところが特徴だ。
その中でOKIが今後注力するのが「モビリティー向け」と「宇宙産業向け」だ。西村氏は「乗用車のEV(電気自動車)化が加速する中、乗用車以外のモビリティーでも電動化や電装化が進んでいます。搭載されるECU(Electronic Control Unit)の数が跳ね上がる中、この流れに対応したくてもできない製造業も多くあります。一方、民間主導の小型人工衛星やロケットなどの『Newスペース』分野が盛り上がりを見せる中、宇宙空間で使用できる電子機器の開発に苦労する話も多く聞いており、こうした需要も伸びると見ています」と力を入れる理由について語る。
「モビリティー向け」で現在力を入れているのが、建設機械やバス、トラックなどに向けた電装品の開発と生産の受託だ。これらの商用車や特殊車両では、工事現場の安全性向上やCO2削減を目的とした電動化や電装化が進んでいる。その電装化を行うサプライヤー企業なども、電動化のモーター制御やバッテリー制御についての知見不足、多品種少量による部材調達の煩雑化などの課題を抱えており、これらを外部委託するケースも増えている。
OKIは、モビリティー向け電装品の開発から製造、信頼性の評価試験までワンストップで行うサービスを提供している。設計請負サービスでは、要件定義からエレクトロニクス、ソフトウェア、メカのそれぞれの設計を一貫して請け負う他、評価も自社グループ内で行う。製造請負サービスでは、量産/生産計画から量産/基板実装、組み立て、検査、出荷まで行う。
特に、モビリティー向けの法規制や国際基準などにのっとった評価や試験も同時に行えることは他社にない強みだ。評価については、子会社のOKIエンジニアリングがISO/IEC 17025を取得しており、第三者機関として車載電装、医療機器、情報機器、計測制御機器など製品カテゴリーにおける主な規格に対応した評価が可能だ。
品質保証については、エックス線検査装置を用いて全部品全ピン検査を実現するなど高信頼性を担保する製造請負サービスを提供している。基板や部品をエックス線でスライスし、その断面の面積や体積を測って、接続部分がきちんと接合しているか、また逆に電気的には接合していても穴が開いていたりクラックが出ていたりしないかを事前に判定することで不良を発見できる。
製造から評価や品質保証まで一貫して請け負うことで、より信頼性を高めたモノづくりが可能になる。高信頼性が求められるパーツでは高強度はんだやコーティングで対応している。はんだは2種類の素材を使った独自開発のものを使い、IPC(米国電子回路協会)策定の認定規格で車載や航空宇宙など高性能用途の「Class 3」に準拠できる。この他の信頼性基準に適合するはんだの採用も可能だ。
さらに、OKIグループとしての強みを生かした周辺技術との組み合わせ強化も進める。OKIはこれまでATMやプリンタなどの製造を通じて高精度なモーター制御技術を培ってきたが、モーターの出力範囲は1KW以下に限定されてきた。そこでさまざまなモビリティーの電動化に対応するため、商用車で使用できる数十KWの高出力モーターの開発プロジェクトを2022年度に開始。2023年度には社内外のパートナーを募りながらモーターインバーターECUの受注活動を本格化する予定だ。西村氏は「大手のインバーターメーカーでは少量のカスタマイズが難しいため、商用車や特殊車両ではモーターの特徴が必ずしも生かされないという話も聞きます。OKIのEMSを活用することで、モーターの特性を生かしたインバーターの設計から生産までを行えます」と訴える。
宇宙産業向けでは、民間企業による小型ロケットや小型人工衛星など新たに広がる宇宙ビジネスである「Newスペース」分野での成長を目指す。OKIはこれまでOKIエンジニアリング、OKI電線など、グループで公的宇宙機関向けのロケットや人工衛星用の電子機器の設計や製造に関わってきた。特にプリント配線板についてはOKIサーキットテクノロジーがJAXAの認定を全て持つなど、「宇宙基準」のモノづくりのノウハウを持つことが特徴だ。
OKIは従来、数量と価格帯の観点からNewスペース分野のビジネス化は難しいと見ていた。しかし、「参入する企業が想定以上に増えており、数がある程度見込めるようになってきたことで費用対効果を合わせられる可能性が出てきました」と西村氏は市場性について語る。そのために、Newスペース分野向けに新たな製造標準である「OKIテーラリングスタンダード」を構築する考えだ。テーラリングとは、顧客のQCD(品質、コスト、納期)に合致した生産製造の仕方を提案・提供するもので「このテーラリングを生かしてNewスペース市場向けの基準を確立したい」と西村氏は今後の展開について語る。
この新たな基準を構築する中で西村氏は2つのポイントを挙げる。1つ目は素材や部品、コンポーネントの「調達」だ。民生品や一般産業品で転用できる部品や技術を活用することでコストや時間を削減する。2つ目は機能や性能「試験」についてだ。試験の反復は高価格化、長期化の原因となるため、評価手法の標準化で対応する。これらのメリットを説明するに当たり、西村氏は「バリュー品質」を訴える。
「バリュー品質とは、万全を期す超高品質と対になる概念で、工程を簡素化しつつ不良品を出さない品質のことです。超高品質な公的宇宙機関とは製造や検査の方法を変えることで、必要十分な品質とコストの両立を実現しようとしています。これは公的宇宙機関の手法を知り尽くしているからこそできる話です」とOKIの強みについて西村氏は訴える。Newスペース市場は年5%の高い成長率で推移しており、OKIは2030年に同分野のEMS市場の50%のシェアを目指すとしている。
今後の展望について西村氏は「宇宙産業向けについては、共通化できる部分がまだ数多く残されています。宇宙産業を広げていくという観点で考えると、共通化できる部分を標準化していく動きを進めていきたいと考えています。Newスペース分野で共通化を進めてOKIでまとめて製造をすることで、コストメリットを市場全体で享受できます」と利点を訴える。
モビリティー向けについては「今後は建設機械も電動化が進み、関連部品のニーズも高まります。モビリティー自体が変化していく中で市場自体も混乱している状況で、既存のメーカーにとって新たな電動化や電装化領域の開発負荷は大きな負担になります。そこに、われわれが新たな技術やノウハウを提供することで円滑な移行に貢献し、業界全体の価値向上に貢献できます」と語る。
製造業を取り巻く環境が大きく変化する中、製品開発の全てを自社で賄うのは限界がある。特に自社の知見が少ない場合や新たな市場に乗り出す場合は、知見のある企業と組むのが合理的だ。電子機器に関する知見が少ないモビリティー関連メーカーや宇宙産業に参入するスタートアップ企業は、既に豊富な知見と実績を有するOKIのEMS事業部が強力なパートナーになってくれることだろう。
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提供:沖電気工業株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2023年4月18日