業務フローばかりに注目する国内製造業 復活には真価である「モノの情報」に再注目せよ製造業のデータDX

データドリブン経営の実現は国内製造業にとって急務だ。しかし実際に取り組む中で、データ活用の仕組みづくりやシステムデザインの設計などでつまずき、頭を悩ますこともある。製造業のデータ活用に詳しい識者や経験者のディスカッションを基に、データドリブン経営においてどのような視点が必要になるかを紹介しよう。

» 2023年03月16日 10時00分 公開
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 デジタルトランスフォーメーション(DX)の一環として「データドリブン経営」に取り組む企業は多い。目まぐるしく移り変わる環境の中で、データドリブン経営の体制を整備することは企業にとって急務と言って差し支えないだろう。

 実際にデータ活用がどういう課題を解決し得るのか。データ活用に最新のITをどのように生かしていけばよいのか。国内製造業におけるデータドリブン経営の最前線を伝えるため、ビジネスエンジニアリング主催のイベント「BE:YOND 2023」(2023年2月16日開催)で行われたスペシャルセッション「モノづくり王国復権を本気で考える3人のエキスパートが見る未来」の内容を紹介する。

 同セッションでは、航空機内装品などを製造するジャムコ 技術業務計画課 課長の岡本拓志氏と製造業向けコンサルティング事業を営むプリベクト 代表取締役 北山一真氏に、ビジネスエンジニアリング デジタルソリューション推進部 PLMエバンジェリストの若林賢氏が話を聞いた。

スペシャルセッション「モノづくり王国復権を本気で考える3人のエキスパートが見る未来」 提供:ビジネスエンジニアリング

マスターに着目したシステムデザインを

 データドリブン経営では、組織内外に蓄積されたデータを活用し、経験や勘などの属人性を排除して、効率的で効果的な経営・業務の実現を目指す。言葉にすると簡単だが、実際に取り組んだ経験者はこれが一筋縄ではいかないことを理解しているだろう。

 最初にこれに言及したのは岡本氏だ。同氏は技術部門全体の業務改善やITシステムの開発・管理、原価管理や製造原価管理まで担当している。技術部門のIT化推進やPLMシステムと技術書類の連携、複数のCADデータのBOM連携、3Dモデリングの自動化なども行う。設計段階で製品価格がほとんど決まってしまう現実を鑑みて、ITツールを活用した製造原価管理の徹底などの取り組みを強化している。一見すると順調に改革が進んでいるようだが、課題も残されているという。

 「私たちはPLMからERPや工程設計、工場までデータが流れるようにシステムをつないできました。しかし、そこではデータの流れが一方通行で、PLMから1つ先のシステムまでは把握できますが、その先の流れまでは追えません。工場で設計者がどんな変更を加えようとしているのか、リアルタイムでは全く把握できないのです」(岡本氏)

ジャムコ 技術業務計画課 課長の岡本拓志氏 提供:ビジネスエンジニアリング

 このため岡本氏は双方向で情報を連携させられる、もしくは全員がアクセスできるデータのプラットフォームが必要だと指摘する。同様の課題を抱える組織は多いと応じたのは若林氏だ。これらの組織では、各領域で優れたツールを導入しつつも全く相互連携がなされておらず、システムやデータのサイロ化が生じている。データの流れは作れていても、重要な実績データのフィードバックがなされていない。

 北山氏はPLMが「プロダクトライフサイクルマネジメント」の略語であるにもかかわらず、適用範囲が設計部門システムにとどまり、ライフサイクルの管理になっていないと指摘する。問題の原因は、「フロー(業務)」情報の管理にのみ着目しているシステムデザインにあるようだ。

 「業務フローを追いかけて、データ化・システム化すると、部門に依存したシステムに陥っているケースが多くあります。本来は製品情報をどうやってデザインすべきか考え、製品情報や品目情報といった『ストック(マスター)』情報に着目すべきでしょう」(北山氏)

業務フローのみに着目することは問題だ[クリックして拡大] 提供:プリベクト

 北山氏は、システム間の連携の在り方をあらかじめデザインしておく必要があると述べる。フローに応じてデータの流れをデザインすることは比較的簡単だが、真にデータの価値を使い切るにはマスターを含めてシステム全体を俯瞰(ふかん)してデザインしなければならない。「製品情報の扱いは難しく面倒ですが、モデル・図面や各種属性などをどのように管理するかを議論しなければなりません」(北山氏)。

フローやプロセスを合わせる必要はない

 岡本氏はデータ活用に関するもう一つの課題を取り上げた。ジャムコは複数の製品を製造しているが、設計者や開発開始時期が違うため、3D CADや2D CADなど設計の形式が異なることがある。結果、PLMで管理してもサイロ化から抜け出せず、システム化や自動化が敬遠されてしまっている。システムで管理し切れないPDFやExcelなどのデータも増え、「そうしたシステム間連携の外側にある重要なデータをどう生かすかも課題の一つになっています」(岡本氏)という。

プリベクト 代表取締役 北山一真氏 提供:ビジネスエンジニアリング

 ビジネスモデルが異なる、使用するツールが違うなど理由はさまざまだが、システムのカスタマイズがうまくいかずに事業部間での横展開に悩む企業は多い。これに対して北山氏は、「事業部間で業務プロセスや管理情報が異なるため、システムを完全に共通化することは現実的に困難であると思います。ただし、製品情報のマスターのデザインを共通化することが重要です。3D CADと2D CAD、部品図と検査図、CADとBOMなどのリレーションの考え方を同じフレームワークにすることが現実的な解かと思います」とアドバイスした。

 プロセスやフローの統一とマスターデザインの統一は同義ではない。統合的なマスターを定義して、全社的に共通化されたデータを準備することは大事だ。しかし、フローやプロセスまで各部門や事業部が無理に合わせる必要はない。

 「トレーサビリティーの観点では手続き情報は重要です。しかし最も重要なのは、CADの図面データやExcelの計算書、仕様書など製品に関わる情報です。モノづくりの企業なのだから、一番価値のある『モノ』に着目してほしいと思います」(北山氏)

 北山氏はCADやBOMに注目するあまり、仕様書や技術計算書、購買時の発注仕様書など、設計図面以外の情報を管理するPDMの取り組みが不足している企業が多いとも指摘した。PLMの3大機能であるCAD、BOM、PDMを三位一体で考えて、CAD以外の図書の管理も漏れなく実行する必要がある。

 岡本氏はPLMからERPにBOMのみが送られているケースは多いと語る。技術部門では3Dモデルや関連する技術書類、プロセス書類、検査のプロシージャなど多様な情報を取り扱っているが、それが他部門に共有できていない。同氏はこれを「もったいない」と嘆き、「3Dデータには多くの情報を持たせられます。関連情報を付与することで、共通言語として組織内で回せるとよいと考えています」と述べた。北山氏も岡本氏に同意しつつ、3Dデータに持たせられる情報には限りがあり、関連図書を含めてデータ全体をしっかり管理することが重要だと強調した。

仕組みづくりは容易でも「そもそも思い付かない」問題

 ジャムコは現在、ビジネスエンジニアリングが展開する製品情報管理システム「mcframe PLM」を活用した製造原価管理に取り組んでいる。岡本氏は、同一の部品であっても発注時期やサプライヤー、発注の方法が異なると、正確な原価積算が難しくなるケースがあると説明する。新規の設計が増えるとコストテーブルを手作業で計算しなければならず、それが重要な設計業務を圧迫することも多い。

 「あらゆる製造現場では、開発期間の短縮と製造原価の抑制が経営層から求められています。設計諸元などから自動でデータを吸い出してコストを抽出する仕組みがあれば、設計業務により注力できると思います」(岡本氏)

 北山氏は原価のフィードバック自体は技術的には容易だと述べる。そうした仕組みをつくれば、シナリオに基づいたコストシミュレーションも可能となる。だが、「そもそも、現状としてデータをフィードバックするという業務がないです。フロー中心のシステムデザインではこのフィードバック自体が見落とされてしまいます。(岡本氏のように)課題を指摘できる人が少ないのです」(北山氏)と根本的な問題を指摘した。

進化しながらデータ活用を支援し続けるmcframeシリーズ

 セッションではジャムコが活用するmcframe PLMなど、ビジネスエンジニアリングが展開するmcframeシリーズの機能強化に関するロードマップも紹介された。ビジネスエンジニアリングはどの業界の国内製造業でも最新のITを活用できる環境をつくるため、自社製品に新機能を反映すべく努力している。

mcframeシリーズの機能強化に関するロードマップ[クリックして拡大] 提供:ビジネスエンジニアリング

 例えば、2022年からは「パッケージの基礎体力強化」(若林氏)として、個別受注を請け負う製造業や組み立て製造業向けの機能をテンプレート化する取り組みを始めた。「自動車や航空機などの業界では量産型のPLMパッケージシステムがあります。しかしその他の業界事業に合わせた製品は少ないのが現状です。私たちは日本の製造業を本気で強くしたいと思っており、そのための機能の標準搭載に努めています」(若林氏)

ビジネスエンジニアリング デジタルソリューション推進部 PLMエバンジェリストの若林賢氏 提供:ビジネスエンジニアリング

 2024年以降には「“もうかる”ものづくりへの貢献」として、mcframeシリーズが得意とするシステム連携の強化や自動化の推進を取り上げる。2025年以降はAI(人工知能)の活用や新しいワークスタイルへの適応を通じて、「“選ばれる”ものづくりへ貢献」する機能強化を計画する。

 北山氏は国内製造業では個別受注企業が非常に多く、パッケージ製品がマッチしないケースは多い。そのため、mcframeシリーズのように個別受注業界向けの機能が強化されることは望ましい方向性だと述べた。岡本氏もデータが社内に散在して連携が進まない、必要なデータが見つからないといったジャムコの課題を念頭にmcframeシリーズへの期待感を述べた。

 セッションのテーマには「モノづくり王国復権」というワードが掲げられていた。国内製造業が今後さらに成長していく上では、やはりデータを最大限に活用する仕組みが欠かせない。それには岡本氏や北山氏が挙げたデータ活用の課題解決が重要だが、その鍵を握るのがマスターの活用の仕方となるだろう。北山氏はマスターを整備してデータを使い切ろうとする姿勢が、「『モノづくり王国』としての日本の復活につながるのではないでしょうか」と語った。

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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2023年3月30日