MONOistが2022年11月17〜18日に開催したオンラインセミナー「調達レジリエンス 今すぐやるべき3つのこと」に、KPMGコンサルティングの坂田英寛氏が登壇した。同氏は製造業が調達リスクに対して行っている対策の多くがBCP(事業継続計画)のレベルにとどまると指摘し、より効果が望める「3つの打ち手」を紹介した。
いかに調達リスクを低減して、安定したサプライチェーンを実現するか。これは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以降、製造業に突きつけられ続けている大きな課題である。最近では落ち着きを見せ始めているが、半導体不足の問題は多くの企業の頭を悩ませた。さらに複合的な要因によって、半導体以外にもさまざまな原材料や部材などが不足、または価格高騰を起こし、以前と比べて入手困難な状況になった。サプライチェーンは世界中に網目を広げており、安定調達の実現は以前よりもはるかに困難になっているといえる。
当然、企業側もこうしたリスクに手をこまねいているだけではない。例えば、多くのメーカーでは部品や原材料の供給リスクに備えて、調達先の分散化や多様化、安全在庫の積み増し、サプライヤーとのコミュニケーションなどを行っている。この他にも、製品や部品の標準化や供給リスクを迅速に把握する仕組みをあらかじめ構築しておき、万が一、部品供給不足が発生すれば購買/調達から開発、品質保証、生産など各部門やプロセス間で連携して調達リスクの深刻化を回避するよう努めている企業もある。
だが、KPMGコンサルティング Operations Strategy PARTNERの坂田英寛氏は、「現状では企業の取組みは、BCP(事業継続計画)のレベルにとどまるケースが多く見られます」と語り、サプライチェーンのレジリエンス向上に向けた対策は不十分だと指摘した。本稿では、オンラインセミナー「調達レジリエンス 今すぐやるべき3つのこと」(2022年11月17〜18日、MONOist主催)における、同氏の講演を抜粋してレポートする。
坂田氏は安定調達を実現するために、中長期的には、資源アクセスの確保や、代替品利用、サーキュラーエコノミーへの移行などを進めて行く必要があるが、短期的にも取れるアクションは多く、まずは調達リスクをしっかりと見える化する必要があると説明した。危機時にサプライヤーと連携して適切なアクションを素早く実行する体制を構築するためである。そして、そのための3つの打ち手を紹介した。
1つ目は重要な調達品目について、マクロの需給バランスを把握する体制を構築することだ。この際に必要となるのが、調達品の需要見通しに関する直接的な予測データだけでなく、関連する政府統計や産業動態、物流情報やエネルギー、衛星写真などのさまざまな社外データ(オルタナティブデータ)だ。これらを組み合わせることで、調達品の需給見通しを見える化する。
2つ目は、自社製品における中長期的な需要予測に基づいて、調達品目の需要予測も見える化することである。1つ目のマクロな調達環境を組み合わせて適切なアクションを取れるようにする。
これに関連して参照したいのが、KPMGが提唱している、サプライチェーン上のあらゆる需給情報を一元的に収集して意思決定に役立てる「Cognitive Decision Center」というコンセプトだ。ERPやデータウェアハウスなどから取り込んだ社内データに加えて、気象や経済情報などの社外データや、特急受注や物流停滞、原材料や部品の価格高騰といったサプライチェーン上で生じたさまざまな問題のデータも取り込む。こうした多様なデータを総合的に分析することで、「中長期の需要予測を作成、精度を高めていくとともに、問題発生後でも、タイムリーな需給計画の修正が行えるようになります」(坂田氏)という。
1つ目と2つ目の情報を組み合わせた具体的なシステムの構築例として、坂田氏は「社内の販売実績や売上明細、在庫/仕込みマスターなどのデータに、オルタナティブデータを組み合わせて、AI(人工知能)や予測モデルを通じ、需給見通しの予測データを出力します。それらを基に、調達における意思決定プロセスの支援や、業務プロセスの無人化や高速化、計画変更プロセスにおける変更指示出しなどが行えるようになります」と説明する。
そして3つ目は、調達リスクに対して、自社内だけの取組みにとどまらず、サプライヤーと一体となって対策を講じていくことだ。ここで求められるのが、既存の企業間取引をさらに発展させた仕組みの導入だ。
従来、企業間の取引はEDIを活用して、2社間での取引データ交換として行われることが多かった。しかし、より迅速に調達リスクに対応する取引システムを作るには、さまざまな階層の企業が取引を行い、同時にリアルタイムでさまざまな情報共有を行えるようなサプライチェーンプラットフォームを構築することが求められるだろう。
「取引データに加えて、販売計画や納入予定や在庫、生産計画情報などをプラットフォーム上で素早く共有することで、例外的な事象に素早く対応できるようになります。さらに危機に対して、自社だけではなく、直接的な取引先に加えて下請け企業なども含めたサプライチェーン全体で連携して対応することが可能です」(坂田氏)
こうした仕組みを導入した事例として、坂田氏はある輸送機器部品メーカーを取り上げた。その企業ではサプライチェーンプラットフォーム上で取引データを交換するだけでなく、自社の各部門とサプライヤーが情報を入力して共有する取組みを行っている。営業部門は受注見通しや製品在庫ポジション、工場は納入計画など、Tier1、2のサプライヤーは製造負荷や納入計画をそれぞれ入力する。これによって、受注見通しや在庫情報などのデータをお互いに参照しながら、サプライチェーン全体で円滑な需給対応を進められるようになるという。
だが、これらの3つの打ち手を自社でどのように実践していけばよいのだろうか。1つの手段として、坂田氏はビジネス変革のためのソリューション「KPMG Powered Enterprise」を紹介する。同ソリューションはKPMGが提唱する、次世代のテクノロジーに必要な要素をまとめたコンセプト「Target Operating Model(TOM)」をベースに設計されたものだ。
TOMは「業務プロセス」や、「人材」「サービス提供モデル」「テクノロジー」「パフォーマンス・インサイト&データ」「ガバナンス」の6レイヤーについて、「サプライチェーン」や「調達」など14個の業務領域に変革を起こすアセットをまとめて提供する。企業が変革を通じて目指す姿を策定し、実行するまでに必要な一連のアセットをソリューションにプリセットしている。このため、導入企業はスピード感のある変革を実現できる。
KPMG Powered Enterpriseを利用することで、サプライチェーン全体で調達リスクを解決する体制を迅速に構築できるようになる。世界的に調達リスクが増している現在の環境の中で、今回紹介したような3つの打ち手を実践し、できるだけ早く安定的な調達環境を構築したいと考える企業は、KPMGに問い合わせてみてはいかがだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:KPMGコンサルティング株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2022年12月28日