製造現場でのAI活用が広がりを見せている。ただ、製造現場独自で高度なAIモデルを構築し活用フローを定着させるのは難しいのが現実だ。そうした中で、多くの製造現場でAI導入の実績を積み、カスタムソリューションを展開してきたのが、京都のAIベンチャーのRistである。同社の取り組みを紹介する。
製造現場でのAI活用への期待は高まるばかりだ。スマート工場化が進み、現場から得られるデータの量が増え、性質が広がる中、これらを有効に活用し、業務の効率化を図るという狙いがあるためだ。しかし、製造現場において独自でAIモデルを構築し、業務運用に反映するまでの仕組みを作り上げるのはハードルが高い。
その中で、外観検査など数多くのカスタムソリューションを製造現場に導入してきたのが京都のAIベンチャーのRistである。Ristは、創業者の遠野宏季氏が京都大学大学院在学中に、同じ京都大学のメンバーを中心に2016年8月に設立。他のAI関連企業では解決が難しかった課題などを持ち込まれる「AI駆け込み寺」としての役割を果たし、製造現場でのさまざまな課題解決に貢献してきた。2018年には京セラコミュニケーションシステムの子会社となり、財務体質を強化した他、業務連携を進めている。現在の従業員数は53人(インターン生含む)である。
Ristの強みの1つが、技術力だ。京都大学出身のメンバーも多く、AIに関するさまざまなコンペティションでも優秀な成績を獲得している。AI領域の技術力の指標としては、世界中のデータサイエンティストと機械学習エンジニアが最適モデルを競い合うコンペティションプラットフォーム「Kaggle」が有名だが、このKaggleの世界ランキングトップ100に入るデータサイエンティストが5人(2022年10月25日時点)所属しており 、高い課題解決能力を示している。
加えて、最新のAI関連の論文の調査や実装などを日々研究しており、先進的な技術や手法などを幅広く取り入れ、これらを組み合わせて課題解決に活用していることも特徴だ。Rist 代表取締役社長の藤田亮氏は「企業活動における課題を考えると、精度を高めることで解決できることもあれば、新しい発想によりそこまでの精度がなくても解決できることもあります。Ristでは、Kaggleなどを通じて、特定領域でのAIの判定精度の向上などトップエンドを高めるために腕を磨く一方で、AIに関する最新の論文の調査やその理論の使い方を研究し、新しい発想による解決アプローチについても研究しています。こうした技術選択の幅と深さで課題解決を進められる点が強みです。だからこそ他社に解決できない課題が解決できる『AI駆け込み寺』のような役割を果たせています」と述べている。
こうした柔軟な技術力が発揮できる領域として力を入れているのが、製造現場である。特にAIを使った外観検査では多くの導入実績を持つ。
Ristで外観検査の導入が進んだきっかけとなったのが、自動車用バックミラーを製造している村上開明堂への導入だ。村上開明堂では自動車用バックミラーの品質検査において、検査員の負担軽減を進めるために、検査装置で不良と判定されたワークの不良種類判別を行うつもりだった。当初はパターンによる画像処理で行うつもりだったが、不具合の出方が千差万別で、高い精度での判別を行うことが難しかった。そこで、Ristに依頼が来たという。
当時は製造現場でのAI活用事例はそれほど多くなかったが、Ristと村上開明堂で協力してAIモデル開発を進めた。製造現場では、日照や温度の日次的変化や季節的変化、機械の経年変化など、日常的なさまざまな環境変化が生まれ、こうした外乱がAIモデルの開発にも大きな影響を与えるが、両社により現場でのさまざまな試行錯誤の上で、これらの日常変化にも対応できるAIモデルの開発に成功。従来は60%程度だった検査精度を99%にまで改善できた。最終的に、検査コストを7割削減できる見込みだという。
藤田氏は「導入した2018年当初は、製造現場でAIを活用したい意向はあっても実証実験が多く、本格的に導入されたケースは多くありませんでした。その中でいち早く使えるAIの導入ができたことで、多くの製造業から関心を持っていただけました。その後はさまざまな製造業での実績を積み、多品種少量生産で混流ラインの中で判断するAIモデルをどう切り替えるのかであったり、検査で少ない不良画像の中でも高い精度で判別をするのにどうすべきかであったり、新たなノウハウも蓄積しています」と語っている。
Ristではこれらの実績をベースに、外観検査を中心とした画像AI事業(Deep Inspection)とデータ分析事業(Deep Analytics)を展開。現状では、工場から直接受託する案件が多く、特に外観検査AIでは多くの製造業で導入実績を持っている。「1つのラインで成果を出すだけではなく、顧客企業がそのまま同様の仕組みを他のラインでも水平展開できるようにするところまで支援を行う点もRistの特徴です」と藤田氏は述べている。
そのため、重視しているのが「水平展開のしやすさ」だ。「われわれはミッションとして『人類の感覚器官に、自由を取り戻す』を掲げています。従来の検査工程では、人が目視によりセンサーの役割を果たしてきましたが、これは人にとって過酷なものでした。こうした業務に対し、AIを用いて少しでも代替し負担を軽くしたいのがわれわれの思いです。ただ、全てを受託開発で行っていると、負担を軽減できる作業や人の数は限られます。世界のより多くの環境で使われるようにするためには、水平展開しやすい形にしていくことが必要です」と藤田氏は語る。
そのための1つの施策として進めているのが、同社のAIアルゴリズムを組み込んだハードウェア込みの検査機器の展開だ。「検査機器メーカーと協業し、AIモジュールとして検査機器に組み込む形で世界中の製造現場で使われるようにしていきたいと考えています。現在、複数社と話し合いをしているところです」(藤田氏)。
さらに、検査領域以外の活用領域の探索も進めていく。「工場×AIの世界はまだまだ広がります。その中でキラーアプリケーションを増やし、『工場×AIであればRist』と言ってもらえるような存在になりたいと考えています」と藤田氏は語る。
製造現場のAI活用は、今後さらに広がる見込みだ。しかし、最先端のAIモデル開発を製造現場のみで行うのは難しい。その中で失敗の可能性を減らしつつAI活用を進めていくには、高度な技術を抱え、製造現場の実情を理解してくれるパートナーの存在は欠かせない。最先端で世界最高峰のAI関連技術力を持ち、さらに製造現場で多くの困りごとに向き合ってきた実績を持つRistは、AI活用に悩みを抱える製造現場の有力な味方になってくれることだろう。
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提供:株式会社Rist
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2022年12月19日