小城市役所のオフグリッドなエネルギー管理システムはなぜ実現できたのかエネルギー管理システム 監視・制御システムSA1-III(三菱電機システムサービス製)

製造業をはじめ日本国内の各産業が脱炭素の実現に向けた取り組みを加速させる中、2022年2月に「ゼロカーボンシティ宣言」を行った佐賀県小城市の取り組みが注目を集めている。宣言と同じタイミングで稼働させた市役所庁舎のエネルギー管理システムは、基本的に全ての電力消費を再生可能エネルギーで賄えるようになっており、災害時の司令塔となる市役所庁舎の強靭なBCPを実現しているのだ。

» 2022年11月17日 10時00分 公開
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 2020年10月の政府によるカーボンニュートラル宣言を受け、製造業をはじめ日本国内の各産業が脱炭素の実現に向けた取り組みを加速させている。それは自治体においても例外ではなく、都道府県から市町村に至るまで、多くの自治体で2050年のカーボンニュートラルを目指す「ゼロカーボンシティ宣言」が発表されている。

 佐賀県中部に位置する小城(おぎ)市もその一つ。同市では、2022年2月に市長の江里口秀次氏が宣言を行い、脱炭素に向けて取り組む姿勢を見せた。

 小城市における宣言は、他の市町村に先行していたわけではない。しかし、小城市では、宣言時には既に市役所庁舎において全ての電力消費を再生可能エネルギーで賄うシステムを完成。年間360トンを超えるCO2排出量を削減できる仕組みを構築していた。宣言後に施策検討に入る自治体が多い中、これは特筆に値する。

BCP対策を主眼とし、脱炭素にも効果のある設備を構築

 小城市は、佐賀県の県庁所在地である佐賀市の西に隣接する人口4万4000人強(2022年9月末時点)の市だ。北に天山山系の天山(てんざん、標高1046.2m)、中央に佐賀平野、南に有明海がある。肥沃な佐賀平野や日本有数の干潟を有する有明海からの恵みを受け、農業、漁業が盛んな地域として知られている。

小城市役所 総務部 財政課 兼防災対策課 副課長の松本吉弘氏 小城市役所 総務部 財政課 兼防災対策課 副課長の松本吉弘氏

 自然の恵み豊かな小城市だが、昨今の気候変動の影響と思われる自然災害と無縁ではない。小城市役所 総務部 財政課 兼防災対策課 副課長の松本吉弘氏は「近年は小城市でも自然災害の被害が出るようになっています。2019年と2021年も予想だにしない豪雨に見舞われました」と語る。

 今回導入したエネルギー管理システムは、災害時における防災活動業務の継続、いわゆるBCP(事業継続計画)に向けた施策として構想された。きっかけの一つとなったのは、令和元年(2019年)と令和3年(2021年)の豪雨だ。松本氏は「その際に市内で浸水が多く、避難所の運営にもかなり苦慮しました」と当時を振り返る。

 これまで、小城市役所に備えられていた重油を使った自家発電装置は、14時間しか稼働できないものだったという。ちなみに、内閣府からの指導では「人命救助の観点から重要な“72時間”は、外部からの供給なしで非常用電源を稼働可能とする措置が望ましい」という手引きが出ている。

 内閣府が示す“72時間”に対して、小城市役所が備える14時間の電源供給能力はあまりに脆弱だ。市庁舎は災害時の防災拠点であり、ここが機能しなくなると他部署/施設との連携や情報収集にも大きな問題が発生する。このことから、喫緊の課題として、市庁舎のBCPを強靭化する必要性がクローズアップされた。

 CO2削減の実現は、このBCP対策にシンクロする形で追加されたものだ。1997年の「京都議定書」以降、温室効果ガスの削減への意識は高まっていた。小城市役所のように重油を使う自家発電の場合、単に燃料タンクの容量を増やせば稼働時間は長くできる。しかし、それではCO2削減には結び付かない。松本氏はBCP設備の導入に際して「今後のCO2削減につながるところを踏まえて、何かできることがないかと模索しました」と語る。

 このような状況の中、2020年10月に政府が行ったのが“2050年までに国内の温暖化ガスの排出を実質0にする”というカーボンニュートラル宣言である。この宣言が後押しする形で、小城市役所のBCP対策は、CO2削減にも考慮したシステムであることを要件に加えることとなった。

電力会社との契約を解除し“オフグリッド”での運用を実現

 このような経緯を経て小城市役所に導入されたエネルギー管理システムは、1200枚の太陽光パネルにより発電(パネル総出力552kW/パワーコンディショナ出力500kW)を行い、電力を鉛蓄電池に充電して運用する構成となった。蓄電池の容量は3456kWh。当然ながら、市庁舎の空調や照明などの消費電力を基本的には24時間365日賄える容量が確保されている。

太陽光パネルと鉛蓄電池 太陽光パネルは庁舎の横にある駐車場の屋根に設置されており、鉛蓄電池は写真内中央右側にある建物の内部に収納している[クリックで拡大]
小城市役所 総務部財政課契約管財係 係長の古賀勝貴氏 小城市役所 総務部財政課契約管財係 係長の古賀勝貴氏

 ユニークなのは、このシステムの導入に際し、それまで契約していた系統電力を解約し、いわゆるオフグリッドな環境に移行したことだ。

 電力会社との契約を解除したことで、基本料金や月ごとの使用料といった電気代は0円になった。小城市役所 総務部財政課契約管財係 係長でシステム導入の検討や調整を行った古賀勝貴氏は「(市役所の電気代は)年間で1000万円ほどかかります。非常に高いと思っていたので、そこが削減できるのは極めて魅力的です」と語る。

 今回、市庁舎のエネルギー管理システムを刷新するに当たり、小城市役所は令和3年(2021年)1〜3月にかけてプロポーザルの公募を行った。強靭なBCP能力とCO2削減を実現することを目的に公募を行い、結果、複数の提案の中から株式会社九電工を代表とするグループによる提案が選定された。

 古賀氏は、選定の理由の一つとして環境負荷に関する環境省の補助事業「地域レジリエンス・脱炭素化を同時実現する避難施設等への自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業」を活用して補助金をしっかりと獲得できるシステム構成にあったと説明する。「ランニングコストを含めて総合的な視点がありました。導入時に低価格であることだけを重視したわけではありません」(同氏)。

 ちなみに、今回導入されたシステムは、市庁舎側で十分な電力が確保されている場合は、太陽光発電による余剰電力を市庁舎と道路を挟んで向かい側にある保健福祉施設「ゆめりあ」にも送れるようになっており、市庁舎とゆめりあの間で電力系統がつながっている。ゆめりあは災害時の避難場所にも指定されており、小城市役所のエネルギー管理システムは災害時の防災拠点の業務継続だけでなく、避難場所への電力供給も行えるようになっているのだ。

 これまでの電力は「買う」のが当たり前だったが、カーボンニュートラルが求められるこれからは電力を「作る」という意識が必要だ。古賀氏は「今回導入したシステムがこれから加速していく脱炭素社会への一つの事例になれば」と強調する。異常気象をこれ以上進めない、将来を守るための投資とも言えるだろう。

小城市役所の1階に設置された大型モニター 小城市役所の1階に設置された大型モニターには太陽光発電や蓄電容量の状況、市庁舎の消費電力などが表示されている他、ゆめりあへの送電電力も示されている[クリックで拡大]

 さらに、ゆめりあと電力系統をつなぐことで、万が一、市庁舎側の電力が不足した場合に、電力会社と契約を結んでいるゆめりあ側から市庁舎への電力供給も可能になっている。基本的にオフグリッドで運用される小城市役所だが、さまざまな事態を想定した配慮がなされていることがうかがえる。

他社製機器も制御可能な、SA1-IIIと三菱電機システムサービスの対応力

 小城市役所のエネルギー管理システムで重要な役割を果たすのが、再生可能エネルギーの出力制御を行うEMS装置と市庁舎内の使用電力を制御するBEMS装置であり、このBEMS装置こそが三菱電機システムサービスの監視・制御システム「SA1-III」である。つまり、このエネルギー管理システムは、EMS装置とBEMS装置の連携により出力側と使用側の電力バランスを保つことでオフグリッドな環境が成り立っている。

小城市役所のエネルギー管理システムの構成 小城市役所のエネルギー管理システムの構成。中核を担うのが「SA1-III」だ[クリックで拡大] 提供:三菱電機システムサービス

 SA1-IIIは、産業/工場向けの監視・制御システムとして事業展開されてきた製品だ。しかし、市役所庁舎を“建屋”と考えれば、小城市役所に要求されるエネルギーマネジメントの要件を満たすのに何ら不足がないことが分かる。「SA1シリーズ」は、2001年に初代モデルを投入して以来、機能を強化しつつ、これまで国内の製造業を中心に約3000のシステムが導入されている。長年に渡る採用と実績の積み重ねは、SA1シリーズが多彩な環境に導入でき、機能や堅牢性などの面でも確かな評価を得ていることを裏付けている。

 小城市役所では、今回のシステム導入に当たり、空調と照明を省エネタイプに交換した。消費電力が少ない機器に入れ替えることで災害時の稼働時間を伸ばす意味合いが大きいが、採用された空調機器は日立製であり、照明はパナソニック製のLEDだった。

 三菱電機システムサービス 九州支社 機電部 機電営業課の船岡菜子氏は「三菱電機のPLCを活用することで、さまざまな機器の連携制御をスムーズに行えるようにシステム構築を行いました」と説明する。これは、三菱電機製に限らずさまざまなメーカーの機器への対応が求められる三菱電機システムサービスのSIerとしてのノウハウが生かされた例といえるだろう。

エネルギー管理システムの制御盤の内部 エネルギー管理システムの制御盤の内部。上側の中央にある三菱電機のPLCによって「SA1-III」の未サポート機器の出力制御を行えるようにした[クリックで拡大]

 さらに、今回の導入では、庁舎内の3カ所に設置した大型モニターに表示される電力使用状況の画面や、SA1-IIIサーバの操作画面をグラフィカルにするなどの配慮もなされた。「お客さまの要望を満たすことを大前提に、使いやすいシステムを意識したシステム開発を行っています」(船岡氏)。

「SA1-III」サーバの操作画面 「SA1-III」サーバの操作画面。基本的には自動制御だが、画面左側のシンプルなGUIを使えば簡単に手動で操作できるようになっている[クリックで拡大]

 小城市役所におけるSA1-IIIの導入事例は自治体向けにとどまるものではなく、SA1-IIIの主要顧客である製造業向けにも展開できる。2050年をめどとするカーボンニュートラルの実現に向け、製造業での同様なニーズは急速に高まっており、災害大国といわれる国内製造拠点のBCP強化に対する引き合いも依然として強いからだ。

 太陽光パネルや蓄電池を用いた発電、再生可能エネルギーの有効的な活用に対する課題は製造業でも同じであり、三菱電機システムサービスは小城市役所への導入事例を基に製造業向けも含めた提案を強化していく構え。製造業向けでは、環境への配慮と同時に生産性の向上も大きなテーマになるが、三菱電機システムサービスは約3000システムの納入から得られた知見やノウハウを基に、BCP・カーボンニュートラルの実現と、生産性の向上をバランスよく実現するソリューションを構築することが可能だ。

さらなるBCPの強化に向けて、“電気を運ぶ”電気自動車を導入

 SA1-IIIを中核に据えた小城市役所のエネルギー管理システムは、稼働がスタートして半年以上が経過し、安定的に運用ができている。現在は、より効率的なエネルギーの運用に向けたデータの蓄積とチューニングを行っているところだ。また、庁舎内の大型モニターにシステムの稼働状況を表示することで、来庁者や職員の環境意識の向上にも役立っている。

 SA1-IIIの制御によって得られる余剰電力については、ゆめりあへの送電にとどまらず、新たに導入した電気自動車の充電にも用いられている。電気自動車は、車体に搭載された大容量のバッテリーによって、遠方に電気を運ぶ仕組みとして使える。例えば、災害時の避難所に電気を運べば携帯電話機の充電などに活用できる。このような電気自動車の活用についても、自動車メーカーなどとの連携が防災関連の部署で始まっているという。

 昨今の世界情勢を受けてエネルギー価格が高騰しており、電気料金は政府が支援に乗り出す程の状況となっている。しかし、基本的にオフグリッドで運用される小城市役所は、電気料金の高騰とは無縁で安定した庁舎運営が行えている。災害時のみならず、平時にも安定したエネルギー運用ができるのは、思わぬメリットだったとい言えそうだ。

左から、小城市役所の古賀勝貴氏、松本吉弘氏、三菱電機システムサービスの船岡菜子氏 左から、小城市役所の古賀勝貴氏、松本吉弘氏、三菱電機システムサービスの船岡菜子氏。市庁舎のより効率的なエネルギーの運用や活用範囲の拡大に向けて取り組みを進めていく[クリックで拡大]

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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2022年12月16日