設計者向けリアルタイムシミュレーション環境として構想設計や初期設計の現場で活用が進む「Ansys Discovery」。今回、デル・テクノロジーズのワークステーション製品「Dell Precisionシリーズ」を用いてベンチマークテストを実施した。その結果をレポートする。
製品開発に欠かせないツールとして、その利用価値が高まっているCAE。近年ではより多様な目的からもCAEの活用が求められている。中でも急務なのがサステナビリティへの対応だ。これからの製造業は今まで以上に環境へ配慮したモノづくりを行っていかなければならない。実際にモノを作っての試作や実験の回数をできる限り減らすことなどが求められており、CAEを活用したバーチャルなモノづくりに大きな期待が寄せられている。
モノづくりのあらゆるシーンで活用が広がるCAEの市場をリードしているのがAnsys(アンシス)だ。数値流体力学(CFD)シミュレーションの「Ansys Fluent」や、有限要素法解析(FEM)を用いた構造解析ソフトウェアの「Ansys Mechanical」といった解析専任者向けのフラグシップ製品などに加え、近年ではデザイナー/設計者向けのリアルタイムシミュレーション環境「Ansys Discovery」の提供も行っている。「Ansys Discoveryはモデラーとソルバーが一体になったCAEツールで、構想設計や初期設計におけるアイデアおよび設計案の検討などに活用いただけます」とアンシス・ジャパン 技術部 物理モデルチーム Fluid BUの山口貴大氏は説明する。
Ansys Discoveryには、直観的な操作性で解析対象となるジオメトリを素早く作成/編集できる「MODEL」、思考を止めることのない高速な解析処理によりデザイン案の方向性を迅速に検討できる「EXPLORE」、よりハイエンドなソルバーを用いた忠実度の高い解析が可能な「REFINE」という3つのステージが用意されており、同一GUI環境でこれらを切り替えながら、デザイナーや設計者は設計/解析のサイクルをシームレスかつ高速に回すことができる。「Ansys Discoveryであれば、解析条件の設定から計算まで煩わしい操作がないため、解析の専門知識を持たない設計者でもアイデアの検討などに注力できます」と山口氏は述べる。
では、実際にAnsys Discoveryを利用するには、どのような環境を用意すればよいのだろうか。そのポイントについて山口氏は「3Dモデル作成から条件定義までジオメトリの処理はCPUで行いますが、それ以降のメッシングから解析計算、ポスト処理までは全て独自開発のGPUソルバーで行います」と説明する。Ansys Discoveryにおける解析計算のスピードはNVIDIA CUDAのコア数に、メッシュ精度はVRAMの容量に、それぞれ大きく依存するため、ここが使用するワークステーション環境の重要な選定基準となる。
使用するワークステーション環境によってどの程度、Ansys Discoveryによるリアルタイム解析のパフォーマンスに違いが出てくるのか? 今回、デル・テクノロジーズのワークステーション「Dell Precisionシリーズ」(モバイル/タワー)環境を用いてベンチマークテストを実施した。題材は、室温30度の空間でエアコンとサーキュレーターを稼働させ、室内の熱気を換気扇から排出する際の気流をシミュレーションするというものだ。50秒間の非定常計算(分解能は同一サイズで設定)を基準として、この計算時間をどれくらい短縮できるかを評価した。
使用した機材は以下の通りだ。まずモバイルワークステーションは3機種で比較し、次にタワーワークステーション(1機種)を用い、複数のグラフィックスカードを差し替えてそれぞれ評価を行った。
【モバイル】
・Dell Precision 5470(14インチ)
NVIDIA RTX A1000(VRAM:4GB、CUDA:2048コア)
・Dell Precision 5560(15.6インチ)
NVIDIA RTX A2000(VRAM:4GB、CUDA:2560コア)
・Dell Precision 5570(15.6インチ)
NVIDIA RTX A2000(VRAM:8GB、CUDA:2560コア)
【タワー】
・Dell Precision 3660 タワー
NVIDIA RTX A2000(VRAM:6GB、CUDA:3328コア)
NVIDIA RTX A2000(VRAM:12GB、CUDA:3328コア)
NVIDIA RTX A4000(VRAM:16GB、CUDA:6144コア)
NVIDIA RTX A4500(VRAM:20GB、CUDA:7168コア)
NVIDIA RTX A5500(VRAM:24GB、CUDA:10240コア)
NVIDIA RTX A6000(VRAM:48GB、CUDA:10752コア)
まずは、Dell Precisionモバイルワークステーションの検証結果だ。
最新14インチモデルの「Dell Precision 5470」の計算速度を1としたとき、相対比較として前世代15.6インチモデルの「Dell Precision 5560」および最新15.6インチモデルの「Dell Precision 5570」は、約1.75倍の速度向上が見られた。Precision 5470のCUDAが2048コアであるのに対し、Precision 5560とPrecision 5570のCUDAは2560コアあり、これによる並列計算の能力の差がほぼストレートに結果に表れたといえる。ただし、Precision 5470のパフォーマンスも決して不足しているわけではなく、「シミュレーションをスムーズに実行できており、十分に使えるワークステーションに仕上がっています」と山口氏は評価する。
さらに、自動的に生成されるメッシュサイズについても比較検証を行った。その結果、キャプチャーサイズを最も粗い状態から1段階上げた設定では、VRAMの容量が4GBのPrecision 5470とPrecision 5560のメッシュサイズが同じ54.62mmだったのに対し、VRAMの容量が8GBのPrecision 5570では38.92mmとなった。また、キャプチャーサイズを最高レベルに設定した場合もPrecision 5470とPrecision 5560が29.28mmだったのに対し、Precision 5570では21.04mmとなった。この検証結果からVRAMの容量が大きいほど精緻なメッシュが得られることが分かる。
総評として、山口氏は「細かい形状の対象物やスケール比が大きい対象物を扱う場合は、VRAMの容量が大きいに越したことはありませんが、その分、モバイルとしての可搬性を若干犠牲にしなければなりません。近年増えているハイブリッドワークでの利用を想定すると、モバイル性とスペックはどちらも妥協できないポイントとなります。その意味で14インチながら十分なパフォーマンスを発揮してくれるPrecision 5470は、とてもバランスの取れたワークステーションだと思います」とコメントする。
続いて、Dell Precisionタワーワークステーションの検証結果だ。
「Dell Precision 3660 タワー」に、NVIDIA RTX A2000(VRAM:6GB、CUDA:3328コア)を搭載した場合の計算速度を1とすると、RTX A2000(VRAM:12GB、CUDA:3328コア)を搭載した場合は約1.1倍、RTX A4000(VRAM:16GB、CUDA:6144コア)を搭載した場合は約1.5倍、RTX A4500(VRAM:20GB、CUDA:7168コア)を搭載した場合は約1.9倍、RTX A5500(VRAM:24GB、CUDA:10240コア)を搭載した場合は約2.1倍、RTX A6000(VRAM:48GB、CUDA:10752コア)を搭載した場合は約2.5倍と、CUDAのコア数が増えるにつれて、それぞれ相対速度の向上が見られた。
また、メッシュサイズの比較検証については、VRAMの容量が48GBのNVIDIA RTX A6000を搭載したPrecision 3660では、キャプチャーサイズを最高レベルに設定した場合に10.74mmという非常に精緻な結果が得られた。
検証結果を踏まえ、山口氏は「例えば、NVIDIA RTX A2000(VRAM:12GB、CUDA:3328コア)を搭載したPrecision 3660でも、十分にスムーズなシミュレーションを行うことができますので、予算に合わせて、あるいは扱う対象物の形状などに合わせて選定することをオススメします」とコメントする。
さらに、ベンチマーク結果とは別に、山口氏が太鼓判を押すのがPrecision 3660の優れた内部レイアウトである。「Precision 3660の筐体はとてもコンパクトでありながら、NVIDIA RTX A2000からRTX A6000まで対応できるため、将来的なグラフィックスの増強も視野に、扱う対象物の形状などに合わせて最適なGPUを柔軟に選定できます」(山口氏)。
Ansysでは、デル・テクノロジーズの協力の下、これまで数年にわたり最新のDell Precisionシリーズを用いたベンチマークテストを実施しており、「毎回、Dell Precisionシリーズの技術進化、パフォーマンスの向上に驚かされています」(山口氏)という。CAEツールを快適に使うには、ハードウェアに依存する部分も大きいだけに、「最新テクノロジーの恩恵を取り入れる」という観点からも、Ansys DiscoveryとDell Precisionシリーズの組み合わせを最優先に検討してみてはいかがだろうか。
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提供:デル・テクノロジーズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2022年10月30日