メーカーとツールベンダーの協業が生み出す“クロスオーバー”な価値IAR×NXP対談

単機能のシステムから、IoTやセキュリティ、AIなどより複雑な機能が組み込み機器の開発で求められるようになっている。そこで、IARシステムズの原部和久氏とNXPジャパンの大嶋浩司氏に、これらの組み込み開発における新たな潮流をテーマに語ってもらった。

» 2022年09月01日 10時00分 公開
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 組み込み開発の大きな流れとして、従来型の単機能のシステムから、IoT(モノのインターネット)などのネットワークやセキュリティ、その先にはAI(人工知能)などさまざま要素が必須要件となる複雑なシステムに移行しつつあることは明白である。

 そうした流れに向けて、独自のクロスオーバーMCU「i.MX RT」をリリースし、さらに2022年6月には新たな汎用MCU「MCX」を発表したNXP Semiconductors(以下、NXP)は、統合開発環境「IAR Embedded Workbench」で知られるIAR Systems(以下、IAR)と密接な関係を築きこの流れに対応しようとしている。そこで、IARシステムズ株式会社 代表取締役社長の原部和久氏と、NXPジャパン株式会社 マーケティング統括本部 本部長の大嶋浩司氏のお二人に、組み込み開発の新たな潮流をテーマに語ってもらった。

15年以上の長きにわたる協業関係

IARシステムズ株式会社 代表取締役社長の原部和久氏 IARシステムズ株式会社 代表取締役社長の原部和久氏

原部氏 IARとNXPの関係性を語る上では、IAR Embedded Workbenchにおける長年のデバイスサポートがまず挙げられます。それこそ旧Freescale Semiconductor(以下、Freescale)の製品も網羅し、Armベースの「Kinetis」「LPC」「i.MX」「S32K」だけでなく、「Vybrid」「S08」「HCS12」「ColdFire」など、実に15年以上に渡って非常に良い関係を築いております。また、NXPのパートナープログラムにおいて、IARは最上位の「Platinum Partner」に位置付けて頂いており、これは非常にありがたいことです。

 例えば、日本国内のお客さまがNXPの製品を使ってIAR Embedded Workbenchで開発するなど、半導体とツールが別々のベンダーになる場合、最終的なサポート体制に不安を抱かれるお客さまもいらっしゃいます。しかし、IARがNXPのPlatinum Partnerに位置付けられていることにより、こうしたお客さまにも安心していただけていると感じています。さらに、国内における営業やマーケティング、技術サポートなどさまざまな場面で長く協業を続けており、今後も強化していくことでお客さまに開発しやすい環境を提供していきたいと考えています。

大嶋氏 NXPは、ご存じの通り2015年にFreescaleと合併しており、その結果としてMCU製品のラインアップも多岐にわたっています。車載、非車載を問わずIARにサポートして頂いていることは大変に心強いです。NXPとしては周辺回路やソフトウェアで差別化を図っていく方針ですが、お客さまがNXPのさまざまな製品を活用する際に同じユーザーインタフェースで開発を進められるIARのツールの役割は非常に重要になっていると思います。

 先ほどパートナープログラムの話がありましたが、NXPは新製品を出す場合、一般公開される前にPlatinum PartnerであるIARには技術情報を開示しています。その結果として一般公開のタイミングではIARのツールは既に対応済になっているわけで、そういったパートナーシップを築けていることはNXPやNXPのお客さまにとって非常にメリットがあります。2022年6月に発表したMCXマイコン・シリーズの対応も進めて頂けているということで期待しております。

 グローバルの関係性では、Platinum Partnerとしてデバイス開発の早い段階でエンゲージしていただけており、日本ローカルでもセミナーを共催するなどして協業を深めています。2022年も、i.MX RTクロスオーバーMCUやセキュリティなどのセミナーを既に数回開催しており、特にセキュリティはIoTへの対応で必須になるということで、日本市場への提案を強化できればと考えています。

IARとNXPの協業でISO 26262のトータルソリューションを提供

原部氏 IARはグローバルでも車載は成長分野と捉えており、NXPは最重要パートナーの1社となっています。例えば、2021年にNXPがS32K3車載マイコンを発表した際にも、IARはツールでのサポートを表明させていただき、いち早くマーケットニーズに対応しています。

 近年は、機能安全規格であるISO 26262への対応などを含めて車載分野での開発が難しくなってきています。IARのコンパイラはISO 26262の全てのASILレベルで使用可能である第三者認証を取得しており、S32K3ファミリを使われるお客さまへも提供を開始しています。さらに、車載ソフトウェアの標準であるAUTOSARでの実績も豊富で、関連パートナーとの連携も推進しています。また、車載分野でのセキュリティ対応など新しい要望も出て来ています。そうした部分でもお客さまが困らないような準備をしていきたいと考えています。

大嶋氏 半導体メーカーであるNXPとしては、デバイスと量産向けソフトウェアにおいてISO 26262の規格に基づいた開発をしております。しかし、お客さまが必要としているのはシステムレベルでISO 26262に対応するためのトータルソリューションです。つまり、開発ツールについてもISO 26262に対応する必要があるわけで、IARとの協業によってお客さまの求めるトータルソリューションの提供が可能になります。

原部氏 これは車載に限った話ではないのですが、「お客さまにとっての価値は何か」というと、もちろん難易度が上がり続ける開発の負荷を少しでも軽減するという話もあるのですが、開発期間の短縮に貢献することも重要です。IARは良いコンパイラと優れたサポートを提供し、これに+αでISO 26262を含む機能安全認証に対応可能なコンパイラという付加価値を提供することで、お客さまの機能安全認証の対応にまつわる膨大な手間を一気に軽減できるという点が大きな価値になっているのではないかと思います。

「Edge Lock」と「Embedded Trust」でIoTデバイスのセキュリティに対応

NXPジャパン株式会社 マーケティング統括本部 本部長の大嶋浩司氏 NXPジャパン株式会社 マーケティング統括本部 本部長の大嶋浩司氏

大嶋氏 直近では、IoTデバイスにおけるセキュリティ対応への注目度が急速に高まっています。とはいえ、数年前までは「やり方がよく分からない」というお客さまがかなり多かったこともあり、IARと一緒になって開催を重ねてきたセキュリティのセミナーによる啓蒙活動はまだ必要だと考えています。

 セキュリティ対応と一言でいっても求められるレベルとかけられるコストはアプリケーションごとに異なり、「どのレベルのセキュリティを担保する必要があるか」「何を守るべきか」をきちんと考える必要があります。もともとNXPはクレジットカード向けのセキュリティチップを手掛けており、それらの事業で得たセキュリティに関する知見やノウハウを基に「EdgeLock」と呼ぶスケーラブルなセキュリティソリューションをIoT向けや車載向けのデバイスに展開しています。

 ただし、EdgeLockを導入するだけでセキュリティ対応が全て済むわけではなく、デバイスのプロビジョニングや、そもそも量産に入るときにどうやって鍵をインジェクションするのかといったことも必要になります。こういったことも半導体ベンダーだけでは対応するのは難しく、まさにツールベンダーであるIARとの連携が重要になってくる部分だと考えています。

原部氏 セキュリティのニーズはIoTにとどまらず、さまざまなアプリケーションで求められるようになってきています。IARは2018年に英国のセキュリティ専門企業であるSecure Thingzを買収しており、現在はIAR Embedded Workbenchの拡張オプションの一つとして「Embedded Trust」というツールをリリースしています。

 実はEmbedded Trustの機能の一つがプロビジョニングであり、セキュリティに必要となる鍵や証明書をどうやってデバイスにプロビジョニングするのか、そしてそれをどうやってソフトウェアのエンジニアの方が扱うか、というところに重きを置いております。ただし、ツールベンダーから「プロビジョニングの機能があります」と言ってもそれだけでは事足らず、ハードウェア側の対応も当然必要です。しかも、これはコンパイラがデバイスをサポートするよりも深いレベルでの連携が求められます。この領域でIARとNXPは連携していますが、今後はもっとその連携のレベルを高めていきたいですね。

大嶋氏 NXPはEdgeLockというブランドでセキュリティのソリューションを提供していますが、全ての製品が同一のセキュリティ機能を有しているわけではありません。要求されるセキュリティのレベルに合わせて、例えばキーストレージの数やサポートされる機能の有無などが変わってくるので、本来であればそうした違いをお客さまに意識してプログラミングしていただく必要があります。しかしIARのツールを使えば、そうした違いをツール側で吸収してくれるので、プログラマーから見ると同一のユーザーインタフェースでセキュリティ周りを扱えることもお客さまにとってのメリットになるかと思います。

高まるクロスオーバーMCUへのニーズ

大嶋氏 これまでの組み込み開発は、MCUとMPU、つまりマイコンとアプリケーションプロセッサで大まかに分けることができたと思います。NXPで言えば、MCUはKinetisやLPCで、MPUがi.MXになります。そしてMCUはベアメタルないしRTOSで開発するローエンド向け、MPUはLinuxなどを使ったハイエンド向けといった分類になるでしょうか。ところが昨今、MCUを使っていたお客さまの中に「もっと高い性能がほしい」というニーズが増えてきました。

 ただし、そこからMCUをMPUに替えてOSもLinuxで、となると開発環境が全く違うので移行の壁がかなり高い。そこで、既存のMCUの延長線上で開発ができる高性能な製品ということで、クロスオーバーMCUと名付けてi.MX RTを提供させていただいております。こちらは高性能ではありますがMCUなので、従来の開発環境をそのまま踏襲できます。こちらもラインアップは多く、マルチコアの製品も含めて、非常に市場からの引き合いも多くなっています。

 背景にあるのは、MCUベースの組み込み機器でも、IoTに対応するコネクティビティーやセキュリティなどさまざまな機能を入れなければならなくなり、かつ性能も必要になっていることがあります。i.MX RTは、この新しいマーケットニーズにちょうどマッチしました。おそらく今後はAIなどのニーズも間違いなく増えてくるでしょうし、IARとの協業をより深めなければお客さまの要望に対応できないと考えております。

原部氏 クロスオーバーMCUのニーズの高まりについては、私から何も補足する必要もないほど全く同じ感触です。やはりMCUからMPUに移行するとなると、これまでMCU向けに作ったアプリケーションを移行するのが難しいですし、消費電力も高くなってしまいます。OSにLinuxを使う場合にはブートシーケンスの問題も出てきます。しかし、クロスオーバーMCUであればそれらの問題をおおむね解決できます。

 クロスオーバーMCUへの移行で課題になるとすれば、ソフトウェア開発者の負荷増大が考えられます。クロスオーバーMCUは非常に使いやすい製品なのですが、一部マルチコアのものもありますので、これまでシングルコアMCUしか扱ってこなかった開発者にはハードルが高い。そこで、このような技術的課題について理解を深められるようなセミナーをNXPと共同で開催していきたいです。

 複雑化する組み込み開発に対して、協業によってQCDを維持しながらのTime to Market実現に貢献したいと考えています。ツール面では、例えばセキュリティの実装など、デバイスとツールの両方の使い方が複雑な要素技術において、ワンストップサポート以上のサポートで開発者に安心感を与えられるようにしたいです。そのベースは長期の協業関係であり、車載・産業をはじめとする長期サポート/長期供給を前提とするお客さまに対して、引き続き両社の強みを合わせて価値を提供していきたいと考えています。

IARの原部和久氏(左)とNXPの大嶋浩司氏(右) IARの原部和久氏(左)とNXPの大嶋浩司氏(右)。複雑化する組み込み開発の課題解決に向けて協業を深めていく[クリックで拡大]

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提供:アイエーアール・システムズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2022年10月31日