バーチャルなテストコースで感性評価、開発初期にユーザー体験をリアルに検証CASE時代をリードするドライビングシミュレーター

自動車業界は100年に1度といわれる大変革期を迎えている。競争が激化する中、実車の完成を待ってから評価するのではなく、ドライビングシミュレーターをフル活用しながら乗車体験を作り込む必要がある。ISIDとエステックは、次世代モビリティのバーチャル検証拠点「VDX Studio」によって次世代自動車の開発を支援する。

» 2022年08月22日 10時00分 公開
[PR/MONOist]
PR

 自動車業界は、いわゆるCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング/サービス、電動化)による100年に1度の大変革期を迎えている。自動車業界に新規参入する企業も増加し、競争が激化している。その中で勝ち抜くには、新しい価値を付加した製品を短期間で世に出せるかどうかがカギを握る。

 そうした製品を短期間で作り上げるには、エンジニアの新しいアイデアや、ユーザーの要望を反映しながらコンセプトをいち早く形にして、リアルな感覚を伴う検証を行うことが不可欠だ。クルマが人のパートナーになるような、人に寄り添ったクルマを開発することも1つの大きなテーマとなっている。ただ、実際の車両がまだない開発の初期段階で、新しい機能やサービスの市場性や、乗った人がどう感じるかを具体的に検討するのは難しい。そこで貢献するのがドライビングシミュレーターである。

 ドライバーや乗員を対象にした感性評価は従来であれば実車の完成後に行われるが、課題や変更点が見つかってもハードウェアができてから抜本的に修正するのは困難だ。ドライビングシミュレーターを活用して実車がない開発の上流段階において走行中の乗員の感覚を含めたダイナミックな検証を行えるようにすることで、顧客体験を重視した開発をフロントローディングで進めることができる。ドライビングシミュレーターの活用は、CASE対応で増加する開発コストの抑制にもつながる。

独自の小型ドライビングシミュレーター「VTD」

 電通国際情報サービス(以下、ISID)では、ユーザーのニーズに合わせて独自にインテグレーションするドライビングシミュレーターのソリューション「VTD(Virtual Test Drive、バーチャルテストドライブ)」を展開している。他社のドライビングシミュレーターよりも小型であることが特長だ。

 VTDは、前後上下左右の並進方向3方向とそれぞれの軸まわりの回転を含めた6軸のモーションベースによって、車両の動きを正確に再現する。また、評価の内容や用途に応じて、表示装置やステアリング/ペダルなどの操作系、音響などの装置を組み合わせられる。さらに、車両の運動を計算するソフトウェアや交通環境を定義するソフトウェアなどもニーズに合わせて変更できる拡張性の高さを持っている。

カスタムできるドライビングシミュレーター 出所:ISID

 車両ごと持ち込むような大型のドライビングシミュレーターとは異なり、VTDはアンカー工事が不要で、オフィスビル内にも設置できる。開発者の執務室に設置し、諸元や仕様、制御のパラメータを動的に試せるバーチャル環境だ。VTDをオフィスの外に持ち出し、イベント会場でのデモンストレーションに使用することも可能だ。

 ISID 製造ソリューション事業部 製造技術統括本部 エンジニアリング第2ユニット 先進CAE技術部/部長の友安大輔氏は「一般的なドライビングシミュレーターは、パッケージ化されている中から必要な機能を選ぶため、カスタマイズが難しい場合もある。これに対し、ISIDのVTDでは、モーションベースを始めとする装置はユーザーの要望に最も合うものを選定してシステムとして組み込むため柔軟性が高い」と語る。

ハイスペックなVTDを常設したVDX Studio

 ドライビングシミュレーターで感性評価まで行うには、駆動系部品の詳細な特性まで考慮した車両のモデル精度や粒度の向上が必要になる。ステアリングを戻す感覚や、実車との相関を見るためだ。また、車両の挙動を体感するための高周波振動の正確な再現、速度感や加速度感をより強く体感できる仕組み、実車と同等の感じ方を可能にする没入感やリアリティーの向上といった課題の解決も求められる。

 ISIDは、VTDの提供を通じて感じた顧客課題を解決するために、「VDX Studio(VDX=Virtual Driving eXperience)」をエステックの技術開発センター(横浜市金沢区)に設立した。ハイスペックなVTDだけでなく、実車試験に基づく高精度なシミュレーションモデルやソフトウェアを併せて提供する「日本初」(ISID)のレンタル型スタジオだ。

 これまでの小型VTDをさらに発展させ、映像や音、振動、コンテンツが一体となって没入感を演出するハイスペックなVTDが設置されている。再現性の高いドライビングシミュレーターにより、実車のない開発初期段階において、音響や振動を含めたドライバーのリアルな体験を再現し、次世代自動車の開発でのフロントローディングを実現する。時刻を同期させながら走行ログやドライバーの操作、生体信号などを計測することで感性評価にも使うことができる点も特長だ。

VDX Studioの機材やシステム 出所:ISID

 走行シーンなどの映像表示には、ソニー製の高画質LEDディスプレイシステム「Crystal LED」を採用した。正面と左右の3面に設置しており、横に投影される景色の流れから速度感を強く体感できるようにした。

 音に関しては、エステックの技術を生かした臨場感のある音場を提供する。簡易無響室と、スピーカー15台とサブウーファー1台からなる立体音響によって、ドライバーの耳の位置でリアルな音を再現できる仕組みを構築した。再生する音にもこだわりがある。実際に収録した車両の走行音をベースに、シミュレーションの状態に合わせて再生できるようにした。また、音の伝達経路分析のノウハウを生かしており、特定の部位の振動から起因する音を抑制するとどのように聞こえるか、といった音源別のシミュレーションも可能だ。

 振動については、20Hzまで加振できるモーションベースと、ステアリングやシート、ペダルなどを個別に振動させることができる小型の高周波加振器を組み合わせることで高周波数領域の再現が必要とされる乗り心地評価まで可能にしている。

 コンテンツは、エステックの技術を生かした車両モデルとフォトリアルな映像が特長だ。エステックがテストコースで車両の挙動を計測し、そのデータにシミュレーションのモデルの挙動を合わせることで、実車に近い挙動を再現できる高精度な車両モデルを構築した。描画ではゲームエンジンの「Unreal Engine」と車両の走行シミュレーションを連携する技術を独自開発しており、走行する空間、車両ともにリアルなモデルを提供する。

リアルな乗車体験を追求したVDX Studio 出所:ISID

 友安氏は「ドライビングシミュレーターを活用した実践的なサービスを提供するに当たっては広範な技術要素と高度なインテグレーション能力が必要だった」と語る。そのために、ISIDのグループ会社などとの連携も生かされている。例えば、ISIDの全社横断組織「エンタープライズxRセンター(ExRC)」では、VR(Virtual Reality、仮想現実)、AR(Augmented Reality、拡張現実)、MR(Mixed Reality、複合現実)などの表示系の技術を生かして、走行シーンを再現するLEDディスプレイのシームレスな表示を実現した。

 グループ会社のエステックは、実験とシミュレーションの合わせ込みで協力し、シミュレーションの中で動かす車両の精度を突き詰めたいというニーズに応える。また、ISIDビジネスコンサルティングは、人の感性やそのメカニズムのコンサルテーションを提供する。こういったグループ会社も巻き込みながら、ユーザーに寄り添った提案をしていく。

ドライビングシミュレーター関連領域の知見・技術を生かしたトータルソリューション 出所:ISID

VDX Studioはバーチャルなテストコース

 VDX Studioは、自動車開発のさまざまなタイミングで、バーチャルなテストコースとして活用してもらいたいという考えを基に設立された。リアルなテストコースでの評価も開発上不可欠ではあるが、車両の運搬やシナリオの再現などで多くの時間や手間、コストが発生する。これに対し、ドライビングシミュレーターであれば、条件をそろえて複数の被験者に同じシーンを体験してもらったり、ヒヤリハットの場面を繰り返したりといった評価がリアルなテストコースよりも実施しやすい。「1日に実施できるテストが10倍、20倍にも増える可能性がある」(友安氏)

 “バーチャルなテストコース”と称するのは、どんな路面やコースを走りたいかという要望を事前に受けて、ISIDが車両モデルを走らせるコースを作り込んで提供することもできるからだ。場合によってはユーザー自身の車両モデルをVDX Studioに持ち込むことも可能だ。IPG Automotiveのシミュレーションソフト「CarMaker」で作成したモデルであれば持ち込んですぐ使うことができる。また、MathWorksの「MATLAB/Simulink」をベースにしたデータの接続にも対応しているため、評価したいさまざまなモデルを持ち込める。

 VDX Studioのターゲットとなるユーザーは、自動車メーカーやサプライヤー、モビリティビジネスに携わる幅広い企業だ。「社内にドライビングシミュレーターがあるものの、活用しきれていなかったり、評価体制に課題を感じたりしている企業にもアピールしていく。テストコースで車両の評価を行いたいが、試験車両の開発やテストコースへの車両の運搬など、時間やコストに課題を感じている企業にも提案していく」(友安氏)

 VDX Studioでは3つのサービスを提供する。1つはコンサルティングサービスで、カスタムの試乗会を重ねながら、VDX Studioがユーザーの課題解決に寄与する施設であることを確認してもらうサービスだ。自社に導入する設備のスペック選定に使ってもらうこともできる。検証用データを持たない利用者向けにもISIDとエステックがデータを提供することで、利用しやすい環境を整えている。

 2つ目はウォークインサービスで、最先端の設備を時間貸しで自由に使うことができる利用形態だ。最先端のドライビングシミュレーター設備とエステックによる高精度なシミュレーションモデルをワンストップで提供できるのが大きな特長だ。代表的な車両、一般道や高速道路などのコンテンツがオプションで利用できる。車両のモデルや走らせるコースは、ISIDが用意したものでも、開発中のデータの持ち込みでも利用できる。

 3つ目のサービスがプロフェッショナルサービスで、試験に必要なデータの準備、試験データ(車両挙動や人のデータ)の計測、分析、まとめまでの一連の実験業務を代行する。実車テストに比べ期間やコスト面で大きなメリットを生み出すことができる。また、電通グループが持つマーケットリサーチ力を生かし、一般の被験者をVDX Studioに集めて実施するカスタマーサーベイなどにも対応する。ISIDを通じて、ユーザーは自社の企業名を伏せた状態で新しい機能やコンセプトへの評価を収集することができる。

感性評価の重要性が高まる

 今後、感性評価が一層重要になると友安氏は見込む。「従来のようなスペックで表せる性能を重視する傾向から、運転する人だけでなく他の乗員も含めたよりよい乗車体験が求められる。例えば、振動を抑制すると一口に言っても、振動を抑えることの価値が乗員にどのように受け止められるか、といった気付きが必要だ。それを見極めていく上で、感性評価が重要になっていく」(友安氏)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:株式会社電通国際情報サービス
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2022年9月10日