ダッソー・システムズはAbaqusの最新機能について、Abaqusユーザーに紹介するイベント「SIMULIA Structure Tech Day 2022」を、東京/名古屋/大阪の3都市で開催した。本稿では、その中から注目の3講演にフォーカスし、より高度な解析ニーズに応えるために進化したAbaqusの最新機能の概要を紹介する。
ダッソー・システムズは、SIMULIAの有限要素法ソフトウェア「Abaqus」のユーザーを対象に、最新機能を紹介するイベント「SIMULIA Structure Tech Day 2022」(東京会場:2022年6月30日)を開催した。
本稿では、「電池セル挙動計算のための熱-電気化学-構造連成解析プロシージャ」「熱硬化性ポリマーの硬化プロセスモデル」「Abaqus接触機能の進化と整理」の3つの講演にフォーカスし、その内容をダイジェストでお届けする。
ダッソー・システムズ 技術部 SIMULIA インダストリー・プロセス・コンサルタントの大場一輝氏は、「電池セル挙動計算のための熱-電気化学-構造連成解析プロシージャ」と題し、Abaqusの電気化学解析機能のアップデート内容を紹介した。
リチウムイオン電池の内部では、放電時にマクロスケールの「固相内電子拡散」「液相内イオン拡散」、ミクロスケールの「活物質内リチウム金属拡散」と、それらを橋渡しする「活物質表面における化学反応」の4つ物理現象が起こっている。これらの現象をCAEで解きたいと思っても、リチウムイオン電池の内部は複雑な多孔質構造のため、入り組んだパスを直接的にモデル化することは難しい。これを解決するため「多孔質電極理論(Newman)」が利用されることが多い。「多孔質電極理論では多孔質構造を各レイヤー(固相/液相/活物質粒子)の重ね合わせとして捉えることにより、それぞれの物理現象を拡散方程式として定式化を可能にする。Abaqusでも、この多孔質電極理論のフレームワークを実装している」(大場氏)。
Abaqusでは電気化学解析プロシージャとして、熱-電気化学解析の「TEC(Thermal ElectroChemical)」、これに構造を加えて“swelling”と呼ばれる活物質の膨張収縮の影響まで考慮できる「TECM(TEC+Mechanical)」、さらに膨張収縮で変化する電解液の流れを捉え、電気化学への影響まで考慮可能な「TECMP(TECM+Pore fluid flow)の3つが用意されている。その活用イメージとして、講演では、電池セルを題材とした充電/放電カーブ、温度履歴、液相のリチウムイオン濃度などの解析例を示した。
また、Abaqusの電気化学解析プロシージャのアップデートについては、TEC、TECM、TECMPで使用するキーワードが変更されたこと、節点変数と自由度番号、要素に関する扱いや新たに追加された基礎設定の内容、電気化学解析プロシージャで接触が使用可能になった点などが紹介された。
続いて、ダッソー・システムズ 技術部 SIMULIA インダストリー・プロセス・コンサルタントの見寄明男氏は「熱硬化性ポリマーの硬化プロセスモデル」をテーマに講演を行った。
熱硬化性ポリマーは、接着性、機械的強度、耐熱性/絶縁性などに優れることから、接着剤や電子部品の封止材料など、工業用途で広く活用されている。この熱硬化性ポリマーを活用する際に重要となるのが硬化プロセスの予測だ。
熱硬化性ポリマーに熱を加えると、化学反応が進んで、発熱し、硬化して、収縮する。この一連の硬化反応に伴う収縮特性や残留応力は、例えば接着剤の用途であれば、接着性の低下や被接着部品の損傷/反り/表面の不良などにつながる可能性があるため、これらを予測することが求められる。
Abaqusにおける熱硬化性ポリマーの硬化プロセスモデルについて、見寄氏は「これまで『ユーザーサブルーチン』を用いてカスタマイズする必要があったが、『Abaqus 2021 HotFix6』から硬化プロセス解析用の材料モデルが実装された」と説明する。これにより、熱硬化性ポリマーの硬化プロセス時の熱的/機械的応答を解析する機能が提供され、化学反応の進展(反応)、反応発熱(発熱)、収縮ひずみの算出(収縮)および機械的特性の変化(硬化)を考慮することが可能になった。
その他、講演では、熱硬化性ポリマーの硬化プロセスモデルを使用する上での注意点や各種定義のやり方などを解説した他、使用時のTipsおよび参考事例などについても紹介していた。
「Abaqus接触機能の進化と整理」をテーマに、講演を行ったのはダッソー・システムズ 技術部 SIMULIA インダストリー・プロセス・コンサルタントの都筑新氏だ。
接触とは、物体同士が接することによって接触応力が伝達される物理現象のことで、機械的なものだけでなく、熱や電気的な接触特性も存在する。また、接触挙動は、構造の複雑さ、大きさ、形状、硬さ、状態にかかわらず存在し、あらゆる産業において重要な現象となる。そのため、Abaqusでは、さまざまな接触挙動をモデル化できるよう接触機能を進化させてきたという。
講演の冒頭、Abaqus接触機能のリリース履歴を紹介。1978年に現在の「Abaqus/Standard」に相当する最初のAbaqusが登場し、その後、1992年に「Abaqus/Explicit」が初めてリリースされたのと併せて、接触対の機能も導入された。Abaqus/Standardに接触対の機能が追加されたのは1994年のことで、この時のバージョンが「Abaqus 5.4」だ。
一般接触の機能が追加されたのは2003年、Abaqus/Explicitに初めて導入。途中、ダッソー・システムズによるAbaqus買収を挟み、2009年にAbaqus/Standardでも一般接触の機能が追加された。「2003年からの6年間で一般接触の強化に向けて準備を進めてきたことが分かる。また、ここ10〜15年のリリースを見ると、Abaqus/Standard、Abaqus/Explicitともに一般接触に関する機能追加が特に目立つ」と都筑氏は解説する。
講演では、Abaqus/Standardの接触(接触対/一般接触)と、Abaqus/Explicitの一般接触についてフォーカスし、それぞれ各バージョンで対応する機能や強化ポイントなどを細かく取り上げながら、Abaqusが長年力を入れてきた接触機能の変遷を振り返った。
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提供:ダッソー・システムズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2022年9月2日