空圧と電動の組み合わせで描く新たな工場の課題解決ソリューション型への転換

製造現場を取り巻く環境が大きく変化し課題が山積する中、これらを支える機器メーカーにも「ソリューション型」が求められるようになっている。こうしたソリューションシフトに力を入れるのが空気圧関連製品で高い評価を得てきたコガネイである。同社の取り組みを紹介する。

» 2021年11月24日 10時00分 公開
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 製造業を取り巻く環境は大きな変化の中にある。最終製品の高度化や複雑化が進む他、グローバル化により製品ニーズの多様化が進み、多様性に応える柔軟なモノづくりが必要になってきている。一方で、熟練技術者の引退などを含む人材不足に悩まされる状況は世界的に加速しており、コロナ禍を含み人手に頼らないモノづくりなども求められている。

 問題が山積する中、工場で使用するさまざまな設備や機械、これらで使用する部品やツールなどについても、従来通りそれらの製品のみを提供するだけでは、求められている課題解決につなげられないケースが増えてきている。課題解決を実現するには、提供する機器を単品で販売するだけでなく、技術力をベースとしつつも周辺の仕組みそのものを提案する「ソリューション型」に移行する必要がある。

 こうした「ソリューション型」へ大きく舵を切り、さまざまな形で新たな提案を進めているのが、空気圧関連製品で高い評価を得てきたコガネイ(東京都小金井市、代表取締役社長 岡村吉光氏)である。ソリューション型空気圧エレクトロニクス企業として進化を遂げるコガネイの取り組みについて、象徴する取り組みとなった「IFPEX2021 第26回フルードパワー国際見本市」での同社メイン展示を基に紹介する。

空圧機器メーカーが目指すソリューション型へのシフト

 コガネイは、空気圧とエレクトロニクスに関する技術を用いて、自動化と省力化を製造現場に提供する機器メーカーだ。社歴は古く、1934年にドイツ工作機械の日本総販売代理権を獲得し輸入販売を行う山本商会として設立。その後、1951年に社名を小金井製作所に変更。提携先などを増やしながら、超仕上げ装置、エアバルブ、半導体製造設備用フッ素樹脂製機器など事業範囲を拡大し、1991年に現社名のコガネイとしている。

 コガネイの代表的な製品として空気圧関連の部品や機器がある。空気圧は少ないスペースでも細かい動きが可能で、同じサイズであれば電気よりも高いパワーが発揮できる特徴を持つ。この特性にニーズが一致しているのが、半導体関連産業で、生産ラインで欠かせない存在になっている。一方で、電動機器にも積極的な取り組みを進めており、電動アクチュエーターなど電動ハンド関連機器が市場から高い信頼を得ている。

 これらの市場で順調に成長を続けてきたコガネイだが、2020年度に開始した新たな中期経営計画「AAA+」計画の中で強化を進めているのが「ソリューション型」へのシフトである。同中期計画では「スマートファクトリー・ロボティクス(Factory Automation)」「スマート農業(Agriculture Automation)」「医療・分析(Medical & Analytical Automation)」の3つのAが示す分野を広げていくという方針を示しており、その取り組みの中で個々の技術力を生かすとともに、保有する製品の枠に縛られない、それぞれの業界の課題解決を実現するソリューション型提案を強化する方針を示している。

3つの工場の形を目指したソリューションを出展

 この方向性を象徴する動きが、2021年10月6日〜8日に東京ビッグサイトで開催された「IFPEX2021 第26回フルードパワー国際見本市」における同社のメイン展示「ものづくりスマートECOアイランド」である。2021年の展示では「ロボットハンドリング機器」「AMR(自律走行型ロボット)」「自動エア供給機器(空圧の配管レス補給システム)」「I/O ターミナル&システム」の4つのキーテクノロジーを、「電動ファクトリー」「空圧ファクトリー」「空圧・電動ファクトリー」として3つのソリューションの形で紹介した。

photo IFPEX2021でのコガネイのメインパネル。「電動ファクトリー」「空圧ファクトリー」「空圧・電動ファクトリー」の3つのソリューションを展示した[クリックで拡大] 出所:コガネイ

 これらのソリューション型出展を企画したのが、複数部門からの混成となるプロジェクトチームである。チームの中心メンバーは、2020年に発足し新規事業の開拓に取り組むMIRAI事業部 MIRAIグループの主任技術員の齊藤悠氏、同グループ副主事の齋藤修平氏と、主力製品の開発などを担う開発本部 制御開発部 バルブ一グループ副主事の宮澤宏至氏、開発本部 駆動開発部 駆動一グループの平本雄一氏の4人だ。「制御開発部や駆動開発部が取り組む現在の主力製品群の進化と、MIRAI事業部が取り組む新規事業開拓の取り組みを合わせて訴えられる形で、出展内容の検討を進めていきました」と全体を取りまとめた齊藤悠氏は語っている。

 具体的な出展内容の推進については、過去の展示会出展物の製作に携わった齊藤悠氏がソリューションの形を取りまとめると共に、宮澤氏は生産技術部門に10年以上勤務していた経験から、ユーザー視点での出展物の精査などを行った。また、電動関連製品の落とし込みや組み込みなどについては平本氏、AMRなど新技術の落とし込みや開発については齋藤修平氏が取り組んだという。

photo 展示会メインパネルのプロジェクトメンバー。左から平本氏、宮澤氏、齋藤修平氏、齊藤悠氏

 コガネイの展示は、従来は主力製品を中心に紹介することがほとんどだったが、中期経営計画と同様、2017年から取り組み方を変更し、課題に対する解決策を複数の技術を組み合わせて展示する方法とした。2021年の展示はさらにこれを発展させた形となる。齊藤悠氏は「メイン展示は工場のFAの流れを示すものとしました。モノを受け取って、作業をして、それを受け渡すという一連の基本的な動きを、新しい技術要素を組み込んだ形で示しました」と語っている。

 「空圧ファクトリー」ゾーンでは、オール空圧機器により、供給された部品を組み立て、検査する様子を示した。コガネイは、ワークに最適なサイズ、方法で把持するためのエアハンドや、吸着するための吸着パッド、真空ユニット、ワークを圧入・挿入するため調芯するコンプライアンス機器など、各種ハンドリング機器を40シリーズ以上用意していることが強みだ。今回はこのうちの一部シリーズを用いてデモシステムを構築している。

 これらのデモシステムの中で特に注目を集めたのが、空気圧のみで駆動するスカラーロボットだ。空圧機器は小型でパワーを発揮するのに適している一方で緻密な同期制御を行うのが難しいという特徴があるが、同社の空圧技術の精度や工場での知見を生かして、デモを実現させた。

photo 「空圧ファクトリー」ゾーンの様子[クリックで拡大] 出所:コガネイ

 「電動ファクトリー」ゾーンは、供給された部品をオール電動機器で組み立てて検査を行う工程を示した。空気圧機器で培った技術を応用して開発した、電動コンプライアンスライト、電動オートハンドチェンジャ、電動ハンドフラットタイプなどを活用。供給されてきた自動車型の部品の筐体を、2爪型のハンド付きロボットアームで取り外し、その後ハンドを変更し自動検査を行うような工程を示した。電動ファクトリーを担当した平本氏は「一つ一つの機器を開発する場合と、今回のように実際のラインをイメージして組み込む場合とは、違った視点が必要になります。こうしたユーザー視点からモノづくりを考えられるようになったことは大きな経験となっています」と述べている。

photo 「電動ファクトリー」ゾーンの様子[クリックで拡大] 出所:コガネイ

 さらに「空圧・電動ファクトリー」ゾーンでは、電動のロボットアームや空圧のハンドなどを組み合わせることで適材適所の自動化を訴求している。「空圧機器と電動機器のノウハウを持つ独自の技術力を示すことを考えました」と齊藤悠氏は語っている。

photo 「空圧・電動ファクトリー」ゾーンの様子[クリックで拡大] 出所:コガネイ

長年蓄積した空圧技術と電動技術の組み合わせで新たな価値を

 また、新たな取り組みとして「電動ファクトリー」「空圧ファクトリー」「空圧・電動ファクトリー」の3つのゾーンに対して独自開発のAMRと配管レスソリューションにより、部材の供給を行った。

 AMR開発の中心的役割を担ったのは齋藤修平氏となる。齋藤修平氏は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と走行体制御の開発プロジェクトに参加していた知見もあり、その経験を生かし小型部品の搬送に最適なAMRを独自開発し各ゾーンの部品搬送で実働デモを披露した。「パレットの受け渡しで工程間の搬送を行うのですが、AMRの場合は自己位置推定を高い位置精度で行う技術が必要となり、そこが難しいポイントになりました」と齋藤修平氏は開発の苦労について語っている。

photo 独自開発したAMRと配管レス機構(赤丸部分)[クリックで拡大]

 開発したAMRは重量が約10kgで、専有面積がA4サイズに収まる程度のコンパクトサイズに収めている。「自社工場での使用を視野に入れた場合、現在市場にあるような大型で可搬重量の大きなAMRはオーバースペックとなります。今後は自社での実証などを進めるとともに外部の市場性なども見極めていきます。工場の広さや扱うモノの大きさを考えると小型の自律搬送車のニーズもあると考えています」(齋藤修平氏)

 空圧機器の「配管レス」化については、新たな技術提案として紹介した。これは、AMRにエアタンクを搭載し、エア供給ステーションに到達時に、電気の自動充電と同様にエアの補充を行い、有線配管なしに空圧機器の使用を可能とするものだ。AMRで電動と空圧のハイブリッドはあまり見られないが、AMR上での積み下ろし動作は空圧で行い、移動については電動で行うというような切り分けが可能となり、結果として稼働時間延長などの効果も生み出せるという。

IoTによる稼働監視も

 さらに、「電動ファクトリー」「空圧ファクトリー」「空圧・電動ファクトリー」の3つを通じて、IoT技術を使った見える化を実現。各機械の稼働状況の把握やAMRの位置情報、生産情報などを一元的に把握できる仕組みも紹介した。今回は展示会向けに限った形での見える化システムの紹介となるが、今後は顧客のニーズに合わせて、パートナーとの情報連携や、独自展開などの方向も検討していくという。

 実際にこれらのソリューション型出展の手応えとしては、空圧スカラーロボットの仕組みや使い方や各種新技術についてさまざまな質問があった他「コガネイは空圧機器の単品製品しか取り扱っていないというイメージを持つ人もいましたが、今回の展示品を見て電動分野も含め『幅広い製品群を開発していると認識を新たにした』というフィードバックなどももらえました」(平本氏)とするなど、従来とは異なる新たな顧客や製品提案の広がりにつながってきているという。

培った技術力をソリューションの形で

 今後に向けては、さらに今回のメイン展示で紹介した製品の提案を進めていく他、新技術についても順次製品化を進めていく方針だ。電動ハンドなどの製品化が既に決まっている他、AMRなどの展開も進めていく。「ハードウェアだけでなく、例えば、1台ずつ制御するタイプの他、1台に指示を出すと複数台がそれに従って動くように制御できる技術や、自律的に集団から離散して、他のタスクをこなしてまた集団に戻る制御技術なども保有しています。さまざま業界での展開を期待しています」(齋藤修平氏)。配管レスなど、AMR以外の新技術についても、市場性を見極めながら製品導入の検討も進めていく計画である。

 工場を取り巻く環境が大きく変化する中、モノづくりの在り方も従来にない新たな発想でさまざまな課題解決を進めていく必要が高まっている。その中で、空圧機器と電動機器の両方の知見と技術力を持つコガネイが新たな発想で考えるモノづくりの課題解決の姿は、さまざまな課題に悩む製造現場の1つのヒントになることだろう。

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提供:株式会社コガネイ
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2021年12月7日