dSPACE Japanは2021年9月15〜16日、毎年恒例のユーザーイベント「dSPACE Japan User Conference(JUC)」をオンラインで開催した。基調講演を含め、自動運転システムの開発で必要だとされたのが「効率的な検証試験の実施」だ。そして、それを支える仕組みとしてdSPACE Japanは発売したばかりの「SIMPHERA(シンフェラ)」を紹介した。
dSPACE Japanは2021年9月15〜16日、毎年恒例のユーザーイベント「dSPACE Japan User Conference(JUC)」をオンラインで開催した。2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大でやむを得ず中止としたが、今回は初のオンライン開催とし、情報発信や参加者とのコミュニケーションの場を設けた。自動運転システムやADAS(先進運転支援システム)、車両の周囲を監視するセンサーなどの開発におけるシミュレーション活用の他、パワートレイン制御や電動車向けのHIL(Hardware-in-the-Loop)についても話題に上った。2日間の参加者は928人に上った。
基調講演にはトヨタ自動車 先進技術開発カンパニー チーフプロフェッショナルエンジニアの曽我雅之氏や、Microsoft(マイクロソフト)でPRINCIPAL PM MANAGERを務めるKurt Niebuhr氏が登壇。曽我氏は自動運転技術をはじめとする“幸せの量産”に向けた技術開発の最前線について、Niebuhr氏は複雑化する自動運転車やコネクテッドカーの開発を支えるクラウド技術について語った。講演後には、参加者から寄せられた質問に1つずつ登壇者が回答する時間も用意された。
この基調講演を含め、自動運転システムの開発で必要だとされたのが「効率的な検証試験の実施」だ。そして、それを支える仕組みとしてdSPACE JapanはJUCで同年9月14日に発売したばかりのSIMPHERAを紹介した。SIMPHERAはWebブラウザベースのクラウドシミュレーションプラットフォームで、自動運転車に搭載する周辺監視用センサーの取り付け位置や車両の諸元値、テストしたい走行場面のシナリオなどをWebブラウザ上のGUIで設定し、シミュレーションの準備が完了する最新の開発環境だ。
SIMPHERAでまずリリースするのは、自動運転システム向けのシナリオベーステストやSIL(Software-in-the-Loop)テストによる検証機能だ。モデルやシナリオ、テスト、モデルのインタフェースは再利用可能で、HILプラットフォームにシームレスに移行し、テストを自動化することができる。トラブルシューティング時のトレーサビリティーを保証しながら、検証コストの削減、開発から認証までのプロセスの迅速化を実現する。
JUCで登壇し、SIMPHERAを紹介したdSPACE Japan ソリューション技術部 部長の宇野重雄氏は、自動運転やADASの開発における課題について「自動運転のレベルが上がるにつれて機能が増え、システムとしても複雑になっていく。これに伴い、妥当性の確認やホモロゲーションまで何百万ものテストケースが必要になる。従来のアプローチであるHILや実車試験だけでは拡張性が低く、対応が難しい。大規模で拡張性の高い演算インフラも不可欠だ。ツールの柔軟性や統合性、拡張性に優れたエンドツーエンドのシミュレーションと検証ソリューションが求められている」と語る。
宇野氏が述べる「高い柔軟性」とは、自動運転やADASに新機能が増えたり、開発体制が複雑になったりする中でもさまざまなユースケースのサポートを行うことを意味する。ツールが増えるためサードパーティー製ツールとの統合が必要になっているだけでなく、自動運転やADASに関連する全ての規格を満たして開発することも求められる。
統合性とは、出社に制限があったり、各国に開発体制が分散したりする中でのセントラルアクセスへの対応を指す。シームレスなワークフローの重要性も高まっているという。また、拡張性については、テストケースが膨大になり、短期間でテストカバレッジを向上しなければならない場面や、検証の迅速化への対応が挙げられる。
柔軟性、統合性、拡張性を備えながら、開発の最初から最後までプロセス全体をカバーするとともに、成果物の再利用を容易にすることが求められている。SIMPHERAは「Prepare」「Simulate」「Validate」という3つのコンポーネントの構成により、こうしたニーズに応えていく。3つのコンポーネントは、dSPACEの既存の製品とも高度に連携する。
コンポーネントの「Prepare」は特定の開発や検証タスクに必要な全てのアーティファクトを生成、変更するためのツールだ。実行するテストシナリオを準備する際、計測データからシナリオを自動作成してインポートしたり、ModelDeskでシナリオの作成や編集、パラメータの調整を行ったりできる。
実車両のデータからシナリオを生成するサービスもある。カメラ、LiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)、車両のヨーレート、GNSSの4つのデータに加えて、相対位置などをキャリブレーションしたデータがあれば、自動的にシミュレーション可能なシナリオに変換できる。LiDARのアノテーションの誤差の修正など一部手作業は発生するが、70〜80%は自動変換できる。
ここでは、ガイドをつけてワークフローを直感的で分かりやすくするなど、ユーザビリティやアクセシビリティーを向上させた。異なるソースのデータを統合してシミュレーションできる点や、プラットフォームに依存せず広く使える点、クラウドベースのツールならではのクイックアクセスで、時間とコストを低減する点も特長となる。
「Simulate」は、MATLAB/Simulinkで開発した制御モデルや、車両のビークルダイナミクスモデルや環境モデル、カメラなどのセンサーシミュレーションモデル、HIL向けのECUを用いてシミュレーションを実行する段階だ。さまざまなビジュアル表示機能や計測機能により、必要なアルゴリズムの挙動をチェックすることができる。
シミュレーションとしては、車両開発用のリアルタイムモデルASMやセンサーシミュレーションを用意している他、標準インタフェースをもったサードパーティーのツール、交通流シミュレーションやFMI/FMU規格に対応したツールとも統合して検証を行える。今まで開発で使ってきたテストケースやシナリオも利用できるなど、モデルの再利用性を確保した。dSPACEのツールで作ったテストケースやシナリオであれば、インポートして登録し、シミュレーションを実行できる。また、シミュレーションの標準規格「ASAM OpenX」のシナリオなどもインポート可能だ。
「Validate」は、クラウド上で大規模なシナリオベーステストの実行を可能にするコンポーネントだ。シナリオのパラメータをインテリジェントに変化させることにより、ロジカルシナリオから多くのテストケースを生成する。これらのテストケースでシミュレーションを行い、詳細な分析につなげることができる。
テスト自動化やデータの保存では、テスト自動化ツールのAutomationDeskやデータ管理ソフトウェアSYNECTを使うことができる。データ解析やデバッグを効率よく行うために計測用ソフトウェアControlDeskとも連携することができる。こうしたシミュレーションプラットフォームのコアとなるのは、HILのプラットフォームSCALEXIOと、SILプラットフォームのVEOSだ。
SIMPHERAのライセンスは6種類あり、プラントモデルやシナリオ、シナリオベーステストの設定変更や編集することができるものと、プラントモデルやセンサーモデルを使ったシミュレーションやSILを実行するものの2種類に大別できる。前者は少人数で、後者は大人数で使うことを想定している。1年間のサブスクリプション契約となるが、将来に向けて購入ライセンスや従量課金制の契約も検討している。
SIMPHERAの適用例として、宇野氏は「ALKS(自動車線維持システム)」の検証を挙げた。
UNECEや国土交通省が定めたテストシナリオでは、自車に対するカットイン、カットアウト、減速という3つの場面が対象になる。検証では、事前に設定されたヒューマンドライバーモデルのブレーキ操作と、ALKSの制御ECUによる制御結果がヒューマンドライバーモデルよりも安全であることを示す必要がある。パラメータは他の車両との距離や相対速度、割り込み速度の変化など多岐にわたり、大規模なシミュレーションになるため、クラウドでの効率的なテストのメリットが大きいという。
SIMPHERAでは、開発した制御をヒューマンドライバーモデルと比較し、シミュレーションの結果、カットインの速度や距離によって自動ブレーキが作動するかどうかを示し、記録に残すことができる。このとき、衝突しないケースと衝突したケースを判定できるが、「これだけでは安全性を十分に示せない」(宇野氏)。車両のどこで衝突するのか、衝突までの時間なども考慮して判定でき、解析の効率アップに貢献できる点がSIMPHERAの特徴だ。
将来はAI(人工知能)を使い、衝突するかしないかの境界線上にあるケースを重点的に検証してテスト時間を短縮することを目指している。宇野氏は「認証やISO対応のゲームチェンジャーになる」と自信を見せる。
dSPACEはSIMPHERAの開発にアジャイル開発を取り入れており、3〜4週間に1度ほど頻繁にアップデートし、継続して進化していく製品だ。今後、dSPACEはベストプラクティスのモデルやシナリオを用意しSIMPHERAのコンテンツを拡充させていく。さらに、Webフロントエンドでのシナリオ作成と操作、ブラウザ上での車両モデル編集、写実的なセンサーシミュレーションの統合、より高度なプロッティング機能、OpenX規格への対応、ステップベーステストの統合、統合データリプレイテスト、要件に対するトレーサビリティー強化など、さまざまな改良を続けていくという。
開発においてはパートナーシップも充実させる。現在、インフラではマイクロソフトと、シナリオカバレッジではBTCと協力している。パートナーを増やし、よりよいシミュレーションや妥当性確認のツールを提供していく。
将来的には、電動化や従来のパワートレイン、シャシーにもSIMPHERAのカバー範囲を広げたい考えだ。SILからHILへの展開、エネルギーマネジメントに関するモデルの準備などを検討している。また、SILとHILが混在したシミュレーションも可能になるよう、開発を進めている。
パートナー企業による展示も行った。出展した企業は次の通り。Astos Solutions、アンリツ、イネーブラー、オーバス、KPIT Technologies、テクノプログループのテクノプロ・デザイン、東芝デジタルソリューションズ、日本シールドエンクロージャー、日本マイクロソフト、バーチャルメカニクス、BTC Japan、ヘラージャパン、マクニカ、三菱プレシジョンがdSPACEの製品やサービスとの連携をアピールした。
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提供:dSPACE Japan株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2021年11月10日