設計者は「AutoCAD」と互換CADのどちらを選択すべきか? オンラインセミナー「オートデスクの日 Otsuka & AUTODESK Collaboration DAY “2021”」のテクニカルセッションに登壇したCADコンサルタントの井上竜夫氏は、AutoCADと代表的な3つの互換CADとの機能/性能比較を行った上で、「AutoCADを選択すべき理由」について解説した。また、同セミナーでは耳寄りな最新情報として“生まれ変わったAutoCAD”に関するアナウンスも行われた。
安心して設計業務に集中できること――。製造業や建設業の設計者が求める理想の設計環境として、「AutoCAD」はこれまで数多くの現場に採用され、設計者たちからの圧倒的な支持を獲得してきた。その一方で、AutoCADとの互換性、価格優位性などをうたう互換CADへの乗り換えを検討する企業も少なくない。設計者にとって、企業にとって、どちらが最適な選択肢といえるのだろうか。
2021年5月13日に開催されたオンラインセミナー「オートデスクの日 Otsuka & AUTODESK Collaboration DAY “2021”」のテクニカルセッションにおいて、CADコンサルタントの井上竜夫氏が登壇。「なぜ、やっぱりAutoCADなのか? 〜互換CADとの信頼性と機能性の違いとは〜」と題して、AutoCADと主要互換CADとの機能/性能比較の結果を紹介し、“AutoCADを選ぶべき理由”について詳しく解説した。
設計者が本当に選ぶべきCADは、AutoCADなのか? 互換CADなのか? CADコンサルタントの井上氏は、互換CADの中から代表的な3つのツール「ARES」「IJCAD」「BricsCAD」をピックアップし、オートデスクが公開するチュートリアルに基づき、AutoCADとの操作性/機能性などの違いについて詳しく検証することにした。
使用したチュートリアルは、AutoCADの操作を一から学ぶためのコンテンツで、既定のテンプレート、acadiso.dwtからスタートし、建築平面図を作成するまでの一連の流れが網羅されている。「AutoCADの基本機能はもちろんのこと、特徴的なレイアウトの作成やダイナミックブロック、異尺度対応注釈の作成なども含まれているため、AutoCADの主だった機能と、他の互換CADの機能を一通り比較するのに最適な題材だ」(井上氏)という。この検証では、建築平面図が完成するまでのタイムを評価指標とした。
講演では、チュートリアルの流れに従い、AutoCADと3つの互換CADで建築平面図が完成するまでの様子を早送り映像で紹介。3つの互換CADについては、2021年3月末時点でダウンロード可能であった最上位グレードの体験版(「ARES Commander 2020」「BricsCAD V20 Ultimate」「IJCAD 2020 PRO」)を入手し、AutoCADは同様のタイミングで提供されていた「AutoCAD 2022」を使用した。検証は、AutoCAD、ARES、BricsCAD、IJCADの順で行われた。
結果を先に述べると、AutoCADが1時間28分、ARESが3時間15分、BricsCADが2時間32分、IJCADが1時間51分となった。なお、ARESが極端に遅いのは、途中で表示上のトラブルが発生したからだという。また、この結果に関しては、同じ検証作業の繰り返しであるため、順番が後になればなるほど有利な結果になりやすいといえる。さらに、チュートリアルの流れがAutoCADの操作を前提に作られていることに加え、評価者である井上氏がAutoCADの操作に精通していることから、AutoCADのタイムが一番早いのは当然の結果といえる。
だが、それだけでAutoCADの結果が良かったわけではない。AutoCAD、3つの互換CADはそれぞれ同じような機能を有しているとはいえ、コマンドの実行1つとってもインタフェースが異なる。そのため、その使い勝手の差が作業時間にそのまま反映される。井上氏はブロックの挿入を例に「AutoCADではリボンギャラリーやブロックパレットから視覚的に分かりやすく挿入/配置が行えるが、互換CADのどれもがダイアログを使用するものだった」と評価する。
コマンド実行時の手数などが増えれば増えるほど、全体の生産性に大きく影響を及ぼす。また、仮にAutoCADから互換CADへ乗り換えた場合、ライセンス費用は抑えられたとしても、インタフェースの違いによる戸惑いが積み重なることで生産性や作業性は低下する。もちろん、操作に慣れてくればその落ち込みは回復するが、「乗り換え時の検討において、生産性の一時的な落ち込みによる影響、導入時トレーニングの実施費用などを全体のコストに含めて考える必要がある」と井上氏は指摘する。
さらに、CADを操作する上では、ヘルプなどのサポート機能やインターネット検索でヒットする関連コンテンツの充実度合いも重要となる。その点において、AutoCADのヘルプ機能は洗練されており、Web上にはAutoCADの操作に関するコンテンツなどが無数に存在している。「操作に慣れないCADを扱う上で、このようなリソースを有効活用できるかどうかもCAD選定において重要なポイントだ」(井上氏)。
講演では、AutoCADと3つの互換CADとの機能性の比較として、建築平面図を作成する際に使用したレイアウト、異尺度対応注釈、ブロック、ダイナミックブロック、データ書き出しの使い勝手や操作性の違いなどについても紹介。AutoCADの操作に慣れている井上氏にとって、互換CADでは設定が分かりづらいと感じたり、操作に手間取ったりするケースや、機能として実現できるが操作が面倒であったり、そもそも実現できなかったりする機能がいくつも見受けられたという。
特に、ブロックに情報と振る舞いを与え、異なるサイズの部品を1つのブロックで表すことができるダイナミックブロックについて、井上氏は「AutoCADと他の互換CADとの間に大きな違いが見られた」と語る。
例えば、そもそもダイナミックブロックの作成に対応しておらず通常のブロックで作業を代替する必要があったり、複雑な形状を持つ部品をダイナミックブロックにするのが非常に難しいものがあったりなど、互換CADでは操作に戸惑う場面が何度もあったという。これに対して、AutoCADによるダイナミックブロックの作成は、アクションパラメーターに加えて、拘束パラメーターが利用可能であるため、複雑な形状を持つ部品であっても容易にダイナミックブロックを作成できる。
価格優位性と並ぶ、互換CADのセールスポイントがAutoCADのファイル形式であるDWGファイルとの互換性だ。現在、AutoCADのDWGは“2018”形式が最新バージョンとなっており、今回比較対象として取り上げているARES、IJCAD、BricsCADの最新版においても2018形式の対応をうたっている。
DWGは、AutoCADのファイル形式としてオートデスクが開発したもので、その仕様は「非公開」になっており、現在に至るまで更新され続けている。では、なぜ互換CADでDWGファイルが扱えるのか?
実は、互換CADベンダーは非公開であるオートデスクのDWGをリバースエンジニアリングによって解析することで、DWG形式のファイルの読み書きを実現している。井上氏は、この問題に関する詳細は割愛するとした上で「リバースエンジニアリングで解析されたことによって、DWGはジェネリックになったといえる。だが、一般的に知られる“ジェネリック医薬品”のように、特許などの有効期間が過ぎた上で、同じ成分、効能・効果を持つものとして生産され、安価に販売されるものと同じような感覚で(互換CADのDWG対応を)受け取るのは間違いだ」と警鐘を鳴らす。
AutoCADが最もDWGを安全かつ信頼を持って扱えるCADであることは言うまでもない。古いバージョンのAutoCADで作成したDWGファイルであっても、最新のAutoCADで開くことができるだけでなく、AutoCAD以外のCADで作成されたDWGファイルを開く際にはアラートを表示して問題が含まれる可能性を設計者に提示してくれる。幸い、今回取り上げた3つの互換CADで作成されたDWGファイルは、AutoCADで正しく読み込むことができ、監査コマンドを使用してエラーチェックを行っても問題点は検出されなかった。だが、互換CADで作成したダイナミックブロックに関しては、全て通常のブロックとして表示され、AutoCAD上で操作/編集することができなかったという。
もちろん、これは一例にすぎず、井上氏は「どの互換CADで作成したデータでもトラブルは起こり得る。今回は、検証用にスクラッチで作成した比較的きれいなデータを用いたが、さまざまな要素が含まれ、繰り返し使われている実際の設計データであれば、より多くの問題に直面する可能性がある。大切な知的財産である図面は、安全安心なAutoCADネイティブのDWGで保管することが重要だ」と訴える。
講演のまとめとして、井上氏は「互換CADはAutoCADの代わりではなく、DWGファイル形式が扱える“全く別のCAD”と考えるべきだ」と主張する。
もちろん、品質が担保されていない非ネイティブのDWGとはいえ、安価にDWGでデータのやりとりができる点は互換CADの大きな魅力ではあるが、実際には導入における生産性の一時的な落ち込みや教育面でのコストなども発生するため、“絶対的に安価に導入できる”とは言い切れない。「『最新の機能はいらないから、安価な方がいい!』という安易な考えだけで、互換CADの導入を検討することは、コスト、リスク、生産性の面でオススメできない。互換CADの導入を考える前に、せっかくあるAutoCADの機能を最大限使って、生産性の向上に努めるべきではないか。まず、AutoCADの使い方を見直してほしい」(井上氏)。
同じく、テクニカルセッションでは、AutoCADの最新情報が発信された。オートデスク 技術営業本部の大浦誠氏による講演「いつでもどこでも図面作業 〜AutoCAD最新情報〜」では、2021年5月7日に発表されたばかりの“生まれ変わったAutoCAD”のアナウンスと、最新バージョン「AutoCAD 2022」の機能強化ポイントなどを紹介した。
まず、AutoCADに関して、日本市場向けに重要な見直しが行われ、「AutoCAD LT」の提供価格(年額:7万1500円[税込み])はそのままに、“生まれ変わったAutoCAD”として従来のAutoCADが提供する業種別ツールセット以外のフル機能が利用できるようになった。また、この変更に併せて、業種別ツールセットが利用可能な従来のAutoCADを「AutoCAD Plus(AutoCAD including specialized toolsets)」として提供する。「今後、AutoCAD LTの新規販売は終了となるが、現在AutoCAD LTのサブスクリプションにご加入いただいているユーザーさまは、この先も引き続きAutoCAD LTをご利用いただけるし、ご希望であればサブスクリプションの契約更新も可能だ。この変更により、AutoCAD LTと同等の価格で、設計生産性、柔軟性、信頼性を備えたAutoCADの全ての機能を提供できるようになった」と大浦氏はアピールする。
さらに、大浦氏は最新バージョンのAutoCAD 2022の特長について、「作業の自動化」「シームレスな接続性」「継続的なイノベーション」の3つの方向性で説明した。作業の自動化については、AutoCAD Plusが提供する、Architecture/Mechanical/Electrical/MEP/Plant 3D/Map 3D/Raster Designからなる7つの業種別ツールセットの活用による効率化を訴求。続く、シームレスな接続性ではWindowsやmacOSだけでなく、Webアプリ、モバイルアプリによるマルチデバイスでいつでもどこでも図面データ活用、作業効率化について言及し、継続的なイノベーションではトレース、共有、Autodesk Docsにプッシュといった関係者と安全に図面をやりとりできる注目の機能群や、ジオメトリやブロックの数を集計してくれるカウント機能による自動化、最新バージョンでのさらなるパフォーマンス向上などについて取り上げ、“生まれ変わったAutoCAD”が新規および既存のユーザーにとって魅力的な価格になっただけでなく、生産性向上に向けて絶えず進化を続けていることを示した。
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提供:オートデスク株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2021年6月10日